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気づいたら異世界でした ~最上大業物の刀で始めるスローライフ~  作者: 冬夜


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第31話 約束の日

朝。


悠真はいつもより早く目を覚ました。


窓の外は、まだ薄暗い。


湖面には朝靄が漂い、森からは鳥の声が聞こえ始めている。


「……今日か。」


ベッドから身体を起こす。


今日は。


ダリオたちが、黒い仮面の男から新たな魔道具を受け取る予定の日。


リーベル東部。


街道沿いの廃屋。


日没後。


そこで待ち伏せする。


「……。」


悠真は枕元の天照を見る。


昨日。


グランから聞いた話。


三百年以上前の文献に残された、天照と思われる刀。


そして。


剣術【神域】。


さらに。


天照が見せた謎の光景。


燃える空。


崩れた建物。


無数の魔物。


刀を持つ男。


そして――


『まだ、その時ではない』


「考えても分からないな。」


悠真は立ち上がった。


今は。


今日やるべきことだけ考える。


◇ ◇ ◇


「おはようございます。」


家を出ると。


リーフがすでに起きていた。


「早いね。」


「悠真さんこそ。」


「なんか目が覚めちゃって。」


「緊張してます?」


「……少し。」


悠真は素直に答えた。


怖くないわけではない。


相手は自分の名前を知っている。


家の場所まで知っている。


そして。


自分が留守にしている間に侵入できるだけの能力もある。


「でも。」


悠真は畑を見る。


「腹が減ってたら何もできない。」


リーフが笑う。


「朝ご飯にしましょう。」


「うん。」


◇ ◇ ◇


今日の朝食は。


焼きたてのパン。


野菜のスープ。


目玉焼きに似た卵料理。


それから。


昨日の残りの魚。


「きゅぅ♪」


フェルルは魚を夢中で食べている。


「お前。」


悠真は苦笑する。


「最近ちょっと食べすぎじゃない?」


「きゅ?」


「太るぞ。」


「きゅっ!」


フェルルが抗議する。


リーフが吹き出した。


「フェルルはたくさん動いてますから大丈夫ですよ。」


「そうかな。」


「きゅ!」


胸を張る。


「はいはい。」


悠真は頭を撫でる。


いつもの朝。


今日これから。


危険な場所へ向かうとは思えないほど。


穏やかな時間だった。


◇ ◇ ◇


朝食を終えた頃。


レインがやって来た。


「おはようございます。」


今日は完全な任務装備だった。


黒い革鎧。


剣。


複数の小型ナイフ。


通信札。


そして。


黒鴉隊の徽章。


「準備できてるね。」


「仕事ですから。」


レインは少し笑う。


「王都から返答もありました。」


「応援?」


「はい。」


悠真が期待する。


しかし。


レインは首を横に振った。


「間に合いません。」


「やっぱり。」


「ただし。」


レインは地図を広げる。


「リーベルの衛兵隊長だけには事情を伝えました。」


「信用できる人?」


「黒鴉隊が以前から協力関係を築いている人物です。」


衛兵全体には知らせない。


情報漏洩を防ぐためだ。


「廃屋から少し離れた場所で待機してもらいます。」


「なるほど。」


「相手を捕縛した場合、身柄を引き渡します。」


悠真は頷いた。


「それなら安心だ。」


◇ ◇ ◇


「それと。」


レインが悠真を見る。


「昨日の警告状について。」


「何か分かった?」


「いいえ。」


「ただ。」


一瞬。


レインが言葉を選ぶ。


「一つ気になることがあります。」


「何?」


「警告状には。」


『我々の邪魔をするな』


「そう書かれていました。」


「うん。」


「普通なら。」


レインは続ける。


「こちらの情報をそれだけ把握しているなら、警告などせず直接襲撃した方が確実です。」


「……。」


確かに。


「つまり。」


悠真が尋ねる。


「俺を殺したくない?」


「その可能性があります。」


レインは頷く。


「少なくとも。」


「現時点では。」


◇ ◇ ◇


悠真は腰の天照を見る。


昨日。


古代武具録で知ったこと。


三百年以上前。


天照らしき刀を持つ剣士が存在した。


「……。」


もし。


相手が天照について知っているなら。


狙っているのは。


自分ではなく。


「この刀?」


「何か?」


「いや。」


悠真は首を横に振る。


まだ。


推測に過ぎない。


「何でもない。」


◇ ◇ ◇


昼前。


三人はエルフの村へ向かった。


ダリオたちのいる小屋。


「来たか。」


ダリオが立ち上がる。


体調はかなり回復している。


「今日だね。」


「ああ。」


ダリオの表情は硬い。


「俺も行く。」


「駄目。」


悠真は即答した。


「なんでだ!」


「相手はダリオの家族を人質にしてる。」


「だからこそ!」


「だから。」


悠真は真っ直ぐダリオを見る。


「顔を見られない方がいい。」


「……。」


「裏切ったって分かったら。」


「家族が危ない。」


ダリオは拳を握りしめる。


何も言い返せない。


◇ ◇ ◇


「それに。」


悠真は笑う。


「石を受け取る役は俺たちがやる。」


「どうやって?」


「そこは。」


悠真はレインを見る。


レインが小さな袋を取り出す。


中には。


淡い色の粉。


「変装用の魔道具です。」


「そんなのあるんだ。」


「簡単なものですが。」


顔。


髪。


体格。


完全に別人になるほどではない。


しかし。


暗い場所であれば。


遠目からダリオに見せる程度には誤魔化せる。


「私がダリオに扮します。」


「大丈夫なの?」


「こういう仕事は専門です。」


さすが黒鴉隊。


悠真は少し感心した。


◇ ◇ ◇


出発前。


ダリオが悠真を呼び止める。


「悠真。」


「ん?」


以前。


渡そうとして。


悠真が受け取らなかった。


木製の花飾り。


「……。」


ダリオは握りしめている。


「今度こそ。」


「いや。」


悠真はまた首を横に振った。


「まだ預からない。」


「……。」


「帰ってきたら。」


「家族を探す方法を一緒に考えよう。」


「……。」


ダリオは。


ゆっくり頷いた。


「ああ。」


◇ ◇ ◇


午後。


悠真たちはリーベルへ向かった。


今回は町へは入らない。


東側の森を迂回する。


目的の廃屋まで。


およそ二時間。


「リーフ。」


歩きながら悠真が言う。


「やっぱり村に戻っててもいいんだよ?」


「嫌です。」


即答。


「でも。」


「約束しました。」


リーフは弓を握る。


「危なくなったら下がります。」


「それなら。」


「一緒に行かせてください。」


悠真は少し困ったように笑う。


「分かった。」


「絶対だからね。」


「はい。」


◇ ◇ ◇


夕方。


目的地付近へ到着する。


森の向こう。


一本の古い街道。


その脇に。


廃屋があった。


元は宿屋か。


大きな二階建て。


屋根の半分は崩れ。


窓ガラスもほとんど残っていない。


「……あそこ。」


悠真が呟く。


「はい。」


レインが頷く。


「接触場所です。」


◇ ◇ ◇


三人は森の中で最終確認をする。


レインがダリオへ変装。


悠真とリーフは。


廃屋から少し離れた森で待機する。


「通信はこれで。」


小さな魔道具を渡される。


耳へ装着する。


「聞こえる?」


『聞こえます。』


「便利だな。」


『声を小さくしてください。』


「あ、ごめん。」


リーフが笑いを堪えている。


◇ ◇ ◇


日が沈む。


辺りが暗くなっていく。


レインが一人。


廃屋へ向かう。


悠真は。


気配察知を広げる。


「……。」


廃屋。


一階。


誰もいない。


二階。


いない。


地下。


「……?」


悠真が眉をひそめる。


「どうしました?」


リーフが小声で尋ねる。


「地下に。」


「一人いる。」


「一人?」


「うん。」


だが。


妙だった。


気配が。


薄い。


まるで。


そこにいるのに。


意図的に存在を隠しているような。


◇ ◇ ◇


レインが廃屋へ入る。


ギィィ……。


古い扉が閉じる。


『中へ入りました。』


通信魔道具から声。


『指定された場所へ向かいます。』


地下へ続く階段。


一段。


また一段。


レインが降りていく。


悠真は森から。


その気配を追っていた。


二つ。


レイン。


そして。


もう一人。


◇ ◇ ◇


地下室。


レインが到着する。


暗い。


中央に。


一人の男が立っていた。


黒いローブ。


顔には。


黒い仮面。


「……。」


レインはダリオを演じる。


「言われた通り来た。」


男は何も言わない。


「次の石は?」


数秒。


沈黙。


そして。


「ダリオ。」


低い声。


「はい。」


「お前。」


男が。


僅かに首を傾ける。


「誰だ?」


レインの背筋に。


冷たいものが走った。


◇ ◇ ◇


同時に。


森。


「……!」


悠真が立ち上がる。


「悠真さん?」


「増えた。」


「え?」


気配察知。


さっきまで。


地下に一人。


だった。


だが。


今。


廃屋を囲むように。


一つ。


二つ。


五つ。


十。


二十。


「二十……。」


さらに。


森の中。


「三十。」


リーフの顔色が変わる。


「そんな……。」


最初から。


待ち伏せされていた。


◇ ◇ ◇


『悠真。』


通信魔道具から。


レインの声。


『正体がバレました。』


「すぐ出て!」


『それが――』


通信が。


途切れる。


「レイン?」


返事がない。


「レイン!」


ザー……。


雑音だけ。


悠真は。


天照へ手を掛ける。


「リーフ。」


「はい。」


「約束。」


「……危なくなったら下がる。」


「うん。」


悠真は廃屋を見る。


「俺はレインを迎えに行く。」


「分かりました。」


◇ ◇ ◇


悠真が森から出る。


その瞬間。


廃屋を囲んでいた者たちが。


一斉に姿を現した。


灰色の外套。


全員。


武器を持っている。


だが。


悠真は止まらない。


ゆっくり。


廃屋へ向かって歩く。


「止まれ。」


一人が剣を向ける。


悠真は足を止める。


「神代悠真だな。」


「そうだけど。」


「刀を置け。」


悠真は腰の天照を見る。


「嫌だって言ったら?」


「仲間が死ぬ。」


「……。」


悠真の目から。


笑みが消えた。


◇ ◇ ◇


地下。


レインは。


椅子へ縛られていた。


「くっ……。」


身体が動かない。


魔力を封じる拘束具。


正面には。


黒い仮面の男。


「最初から。」


レインが睨む。


「分かっていたのか。」


「当然だ。」


男は答える。


「ダリオは。」


「もう使えないことも知っている。」


「なら。」


「なぜ今日ここへ?」


黒い仮面の奥。


男が笑う。


「呼びたかったからだ。」


「誰を。」


答えは。


分かっていた。


「神代悠真を。」


◇ ◇ ◇


地上。


悠真は。


三十人近い男たちに囲まれていた。


「天照を置け。」


再び。


命令される。


「……。」


悠真は。


静かに息を吐いた。


そして。


「一つだけ聞く。」


男を見る。


「レインは生きてる?」


「今はな。」


「そっか。」


悠真は。


少しだけ安心したように笑った。


「じゃあ。」


右手が。


天照の柄へ触れる。


「迎えに行ける。」


「動くな!」


剣が向けられる。


だが。


悠真は。


天照を抜かなかった。


代わりに。


男たちを見る。


「そこ。」


静かな声。


「どいてくれない?」


誰も動かない。


「……。」


悠真は少し困ったように息を吐いた。


「できれば。」


一歩。


前へ。


「誰も怪我させたくないんだけどな。」


男たちが。


一斉に武器を構える。


三十対一。


普通なら。


絶望的な状況。


しかし。


地下にいる黒い仮面の男だけは。


違うことを考えていた。


「さあ。」


机の上。


古い文献。


そこに描かれた。


黒い鞘の刀。


「見せてもらおう。」


三百二十七年前。


一人の剣士が辿り着いたという。


人の領域を超えた剣。


剣術――神域。


「お前が本当に。」


男は静かに笑った。


「天照に選ばれた者なのかを。」

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