第23話 ミーナとの再会
夜が明ける。
昨夜までの騒ぎが嘘だったかのように、森には朝日が差し込んでいた。
鳥たちの声も戻り始めている。
「……よかった。」
悠真は集落の入口で大きく伸びをした。
結局、昨夜は集落に泊まることになった。
オーガは森へ去った。
周囲にいたフォレストウルフたちの気配も消えている。
気配察知で確認する限り、近くに危険な魔物はいなかった。
「悠真さん。」
振り返ると、リーフが歩いてくる。
「おはよう。」
「おはようございます。」
「村の人たちは?」
「負傷者はいますが、命に関わる人はいません。」
「そっか。」
悠真はほっと息を吐いた。
「本当によかった。」
建物はいくつか壊されている。
畑も荒らされていた。
それでも。
誰も死ななかった。
それだけで十分だった。
◇ ◇ ◇
「悠真さん!」
レインが駆け寄ってくる。
「どうしたの?」
「少し確認したいことがあります。」
レインの手には、昨夜オーガの首から外した黒い石があった。
正確には、布で何重にも包まれている。
「その石?」
「はい。」
レインは声を潜める。
「昨夜、通信札で王都へ報告しました。」
「……王都?」
悠真が首を傾げる。
「旅人なのに、王都と連絡できるの?」
「……。」
レインの動きが止まった。
リーフも不思議そうに見ている。
「そういえば。」
「前にも王都の研究者に心当たりがあるって言ってたよね。」
「……。」
数秒の沈黙。
レインは観念したように息を吐いた。
「隠し続けるのも難しそうですね。」
「え?」
レインは悠真を真っ直ぐ見る。
「申し訳ありません。」
そして。
深く頭を下げた。
「私は、ただの旅人ではありません。」
◇ ◇ ◇
森の風が吹き抜ける。
「私の本名はレイン・クロフォード。」
「アルディア王国直属の情報部隊――黒鴉隊に所属しています。」
リーフの表情が変わった。
「黒鴉隊……!?」
「有名なの?」
悠真が尋ねる。
「王国の諜報や調査を担当する組織です。」
「へぇ。」
悠真は感心したようにレインを見る。
「すごい人だったんだ。」
「……怒らないんですか?」
「何が?」
「私は身分を偽って、あなたへ近付きました。」
「監視もしていました。」
「……。」
悠真は少し考える。
そして。
「何か盗んだ?」
「いいえ。」
「村のみんなに危害を加えた?」
「もちろん、ありません。」
「じゃあ別にいいかな。」
「……。」
レインは完全に言葉を失った。
「ただ。」
悠真は少し困ったように笑う。
「次からは普通に遊びに来てくれた方が嬉しい。」
レインは目を見開く。
やがて。
小さく笑った。
「……分かりました。」
「約束します。」
二人は握手を交わした。
◇ ◇ ◇
昼前。
悠真たちは集落を出発した。
一緒に歩いているのは、ミーナの父親――カイル。
娘を迎えに行くためだ。
「本当に、何とお礼を言えばいいか……。」
「昨日から何回目ですか。」
悠真が笑う。
「もう十分ですよ。」
「しかし……。」
「ミーナに元気な顔を見せてあげてください。」
その言葉に、カイルは目元を押さえた。
「……はい。」
◇ ◇ ◇
数時間後。
エルフの村。
「お父さん!」
ミーナの声が響いた。
「ミーナ!」
二人は走り寄り。
強く抱き合う。
「お父さん!」
「ごめんな……。」
「怖かったよな。」
「うん……!」
「もう大丈夫だ。」
周囲のエルフたちも、その光景を静かに見守っていた。
悠真も少し離れた場所から笑顔で眺めている。
「きゅぅ。」
フェルルが足元へ寄ってくる。
「よかったな。」
「きゅ。」
◇ ◇ ◇
その日の夕方。
湖畔の家へ戻った悠真は、久しぶりに風呂へ入っていた。
「はぁぁ……。」
肩まで湯に浸かる。
「やっぱり最高……。」
昨日。
魔物の群れ。
オーガ。
謎の魔道具。
レインの正体。
色々ありすぎた。
「スローライフって何だっけ……。」
思わず苦笑する。
岩の上ではフェルルが丸くなっている。
「きゅぅ……。」
「明日は何もしない。」
悠真は宣言した。
「絶対に。」
「釣りして。」
「昼寝して。」
「美味しいもの食べる。」
「それだけ。」
フェルルが嬉しそうに鳴く。
「きゅ!」
「決まり。」
しかし。
悠真はまだ知らなかった。
その頃。
王都では――
彼の知らないところで、大きな動きが始まっていた。




