表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気づいたら異世界でした ~最上大業物の刀で始めるスローライフ~  作者: 冬夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/33

第16話 鍛冶師からの贈り物

「さて。」


グランの店を後にした悠真は、黒い刀袋に収めた天照を肩へ掛け直した。


「確かに目立たなくなったな。」


「さっきまでよりずっと自然です。」


リーフも安心したように頷く。


刀が見えていた時は、多くの人が珍しそうに振り返っていた。


しかし今は、大きな荷物を背負った旅人程度にしか見えない。


「グランさんには感謝しないと。」


悠真は刀袋を軽く叩いた。


◇ ◇ ◇


市場を歩いていると、様々な露店が目に入る。


「おっ。」


悠真の足が止まった。


木工品を並べた店だった。


木皿。


木製のスプーン。


まな板。


保存箱。


「家に欲しかった物ばっかりだ。」


「昨日まで全部手作りでしたもんね。」


リーフが笑う。


「買える物は買った方が早いな。」


店主の初老の男性が笑顔で声を掛ける。


「兄ちゃん、新居か?」


「そんな感じです。」


「なら丈夫なの選んでやるよ。」


結局。


木皿を四枚。


木製スプーン。


包丁代わりになる小型ナイフ。


保存箱。


水差し。


生活に必要そうな物をいくつか購入した。


「収納。」


人目につかない場所でしまう。


「本当に便利そうだなぁ。」


店主が羨ましそうに呟いた。


悠真は苦笑するしかなかった。


◇ ◇ ◇


「次は何を見ます?」


「鍋かな。」


料理好きとしては、道具も気になる。


鉄製の鍋を扱う店へ向かうと、様々な大きさの鍋が並んでいた。


「これ、いいな。」


持ち上げる。


程よい重さ。


厚みも十分ある。


「料理人かい?」


店主が尋ねる。


「趣味です。」


「趣味でこの鍋を選ぶとは見る目がある。」


店主は満足そうに笑った。


「長く使えるぞ。」


「じゃあこれください。」


◇ ◇ ◇


一通り買い物を終えた頃には、昼を少し過ぎていた。


「結構買いましたね。」


「でも銀貨一枚も使ってない。」


「意外と安いですね。」


「助かるな。」


湖畔で暮らすなら、生活費はほとんど掛からない。


野菜は畑。


魚は湖。


水もある。


必要なのは塩や道具くらいだった。


「思った以上に暮らしやすそうだ。」


「そうですね。」


リーフも嬉しそうだった。


◇ ◇ ◇


帰ろうとした、その時だった。


「坊主。」


聞き覚えのある声だった。


振り返ると、グランが小さな布包みを持って立っていた。


「グランさん。」


「忘れ物じゃ。」


「え?」


「いや。」


老人は苦笑する。


「正確には、渡し忘れじゃ。」


布包みを開く。


中には一本の小刀が入っていた。


刃渡りは十五センチほど。


飾り気はない。


だが丁寧に作られていることは一目で分かった。


「これは?」


「料理用じゃ。」


「料理?」


「刀で魚を捌く馬鹿がおるか。」


グランが呆れたように言う。


悠真は思わず苦笑した。


「確かに。」


天照は何でも切れすぎる。


魚を捌くにも、薪を割るにも向いていない。


「生活には生活の道具が必要じゃ。」


悠真は両手で受け取る。


「ありがとうございます。」


「代金は?」


「いらん。」


「でも。」


「代わりに。」


グランは少し照れくさそうに笑った。


「今度、その料理を食わせてくれ。」


悠真も笑顔になる。


「もちろん。」


「じゃあ約束です。」


「うむ。」


二人は固く握手を交わした。


◇ ◇ ◇


町を出る前。


リーフがふと立ち止まった。


「どうしました?」


「……。」


彼女は広場の一角を見つめている。


そこでは、小さな男の子がしゃがみ込んで泣いていた。


「お母さん……。」


「迷子かな。」


悠真が近付く。


「こんにちは。」


男の子は涙を拭きながら顔を上げた。


「……。」


「どうした?」


「お母さんがいなくなっちゃった……。」


「そっか。」


悠真はしゃがみ込み、目線を合わせる。


「名前は?」


「ルカ。」


「何歳?」


「五さい。」


リーフが周囲を見回す。


市場は人でいっぱいだ。


「どうしましょう。」


「まずは落ち着こう。」


悠真は収納から木の水筒を取り出す。


「お水飲む?」


「……うん。」


ルカは少しずつ落ち着きを取り戻した。


◇ ◇ ◇


その頃。


市場の反対側では、一人の女性が必死に子どもの名前を呼んでいた。


「ルカ!」


「ルカー!」


涙声だった。


その声を聞いた悠真は立ち上がる。


「いた。」


「え?」


「こっちです!」


大きな声で呼ぶ。


女性は振り返ると、一目散に駆け寄ってきた。


「ルカ!」


「お母さん!」


親子は強く抱き合う。


「よかった……。」


女性は何度も頭を下げた。


「ありがとうございました!」


「いえ。」


悠真は笑う。


「無事でよかったです。」


そのやり取りを。


少し離れた場所から、レインが静かに見ていた。


(また人助け、か。)


誰かに見せるためではない。


見返りも求めない。


困っている人がいたから助ける。


ただ、それだけ。


レインは小さく笑った。


「本当に……変わらない人だ。」


◇ ◇ ◇


町を出る頃には、空が茜色へ染まり始めていた。


「今日は楽しかった。」


悠真は収納へしまった荷物を思い浮かべる。


新しい鍋。


食器。


包丁。


塩。


香辛料。


「家がもっと賑やかになりそうだ。」


「村のみんなも遊びに来ますね。」


「それなら料理をたくさん作らないと。」


フェルルが嬉しそうに鳴く。


「きゅぅ♪」


笑い声が街道へ響く。


初めて訪れた町。


そこで得たのは、生活用品だけではなかった。


新しい出会い。


新しい約束。


そして、自分の暮らしを少し豊かにしてくれる、たくさんの温かな縁だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ