表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気づいたら異世界でした ~最上大業物の刀で始めるスローライフ~  作者: 冬夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/34

第15話 最上大業物

市場の喧騒が耳に届く。


しかし、悠真の周囲だけは不思議なほど静かだった。


目の前の老人は、返したばかりの天照をじっと見つめている。


「坊主。」


「はい。」


「少しだけ、時間をもらえんか。」


老人は店の奥に置かれた木椅子を指差した。


「座って話そう。」


悠真はリーフと顔を見合わせる。


「少しだけなら。」


「ありがとうございます。」


老人は小さく頷いた。


◇ ◇ ◇


店の奥は、外から見た印象よりも広かった。


壁には大小様々な剣が掛けられている。


剣。


槍。


斧。


どれも丁寧に手入れされていた。


「改めて名乗ろう。」


老人は湯飲みに茶を注ぎながら口を開く。


「儂はグラン。」


「昔は鍛冶師をやっておった。」


「鍛冶師なんですね。」


「今は隠居じゃ。」


そう言って穏やかに笑う。


「坊主の名は?」


「神代悠真です。」


「そうか。」


グランはゆっくり頷いた。


「まず聞きたい。」


その視線が天照へ向く。


「その刀は、どこで手に入れた。」


悠真は少し考えた。


嘘をつく理由はない。


「森で目を覚ました時には、岩の上に置いてありました。」


「最初から?」


「はい。」


「そうか……。」


グランは目を閉じた。


その表情は、何かを考えているようにも、何かを思い出しているようにも見えた。


◇ ◇ ◇


「坊主。」


「最上大業物という言葉を知っておるか?」


「鑑定で見ました。」


「意味は?」


「よく分かりません。」


グランはゆっくりと頷いた。


「それでいい。」


そして一本の剣を棚から取り出す。


「これは儂が若い頃に打った剣じゃ。」


悠真は鑑定を使う。


──────────


名称:鋼鉄の長剣


分類:剣


品質:上級


──────────


「上級?」


「それでも町では十分に良い剣じゃ。」


グランは笑った。


「その上に特級。」


「さらに名工。」


「さらに伝説級。」


「そして。」


老人は静かに言葉を区切る。


「最上大業物。」


店の中が静まり返る。


「その格位に届いた武器は、この世界でも数えるほどしか存在せん。」


悠真は思わず天照を見る。


(そんなに……。)


「儂は七十年以上鍛冶師をやってきた。」


「じゃが。」


老人は苦笑する。


「実物を見たのは初めてじゃ。」


◇ ◇ ◇


「そんなに珍しいんですか。」


「珍しい、という言葉では足りん。」


グランは真っ直ぐ悠真を見る。


「王国が国宝として扱う武器でも、多くは伝説級止まりじゃ。」


「最上大業物は。」


「歴史書にしか出てこん。」


悠真は静かに息を飲む。


「だから。」


グランは天照を指差した。


「この刀を人前で見せるなと言った。」


「欲しがる者が現れる。」


「奪おうとする者も現れる。」


「国ですらな。」


◇ ◇ ◇


リーフが不安そうに悠真を見る。


「大丈夫でしょうか……。」


「今のところは問題ない。」


グランは落ち着いた口調で答えた。


「鞘から抜かなければ、気付く者はほとんどおらん。」


「刀そのものが珍しいだけで終わる。」


「ですが。」


「儂のような目利きだけは別じゃ。」


悠真は苦笑した。


「早速見抜かれてますけど。」


「はっはっは。」


老人は豪快に笑う。


「年寄りの数少ない特技じゃ。」


◇ ◇ ◇


「一つだけ約束してくれ。」


グランの表情が真剣になる。


「その刀は。」


「守るためだけに振るえ。」


「……。」


「力を誇るためではない。」


「誰かを支配するためでもない。」


「大切なものを守る時だけ使え。」


悠真はゆっくり頷いた。


「そのつもりです。」


「俺も。」


少し照れくさそうに笑う。


「できれば、畑仕事とか釣りばっかりして暮らしたいですし。」


「はっはっは!」


グランは腹を抱えて笑った。


「最上大業物を持つ男が言う台詞とは思えんな!」


「本気なんですけど。」


「分かっとる。」


老人は優しく笑った。


「だから安心した。」


その笑顔には、どこか安堵の色が浮かんでいた。


◇ ◇ ◇


店を出ようとした時だった。


「待て。」


グランが棚の奥から一本の布を持ってきた。


黒い布だった。


「これを持っていけ。」


「これは?」


「刀袋じゃ。」


丁寧に縫われた厚手の布。


天照をすっぽり覆える長さがある。


「町へ来る時だけでも使え。」


「刀が見えなくなるだけで、余計な視線は減る。」


悠真は両手で受け取る。


「ありがとうございます。」


「礼はいらん。」


グランは静かに笑う。


「その刀が、正しい主を選んだようで安心しただけじゃ。」


その言葉に、悠真は少しだけ引っかかった。


「正しい主……?」


しかし、グランはそれ以上何も語らなかった。


◇ ◇ ◇


店を出ると、市場は相変わらず賑わっていた。


「少し疲れましたね。」


リーフが苦笑する。


「でも来てよかった。」


悠真は黒い刀袋へ包まれた天照を見つめる。


「また一つ、この世界のことが分かった気がする。」


「買い物もまだ残っていますしね。」


「そうだった。」


二人は笑いながら市場を歩き始めた。


その様子を。


通りの反対側から、一人の男がじっと見つめていた。


灰色の外套。


鋭い眼差し。


男の視線は、黒い刀袋へ向けられている。


「グランの爺さんが……。」


男は小さく呟いた。


「刀袋を渡した、か。」


その口元に、薄い笑みが浮かぶ。


「面白くなってきた。」


そう言い残し、人混みの中へ姿を消した。


悠真はまだ知らない。


この町での出会いが、自分の運命を少しずつ動かし始めていることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ