ピンキーリング
やっとの思いで辿り着くと、辺りはどんより暗くなっていた。大層な門に備え付けられた小さなインターフォンを押すと母親らしき声が迎えた。用件を伝え、しばらくすると慌てた彼の声がインターフォン越しに鳴った。
「まさか直接来るなんて! 何回連絡しても出てくれないから、どうなったかと思ってさ。近所の公園で待ってて。すぐ行くから」
公園に場所を移すと程なくして彼は小走りでやって来た。
「どうして直接来たの?」
「訳あってスマホ使えなくなっちゃったの」
「そう……。だけど、あれはやり過ぎじゃないの? ただごとじゃ済まないよ。もう学校の奴ら大騒ぎだよ。みんなスクショしてるから、もう無かった事にはできない。まさかあんな事するなんて思わなかったよ。でも僕は約束を守ったよ」
「……約束?」
「え? 約束したじゃん!」
「なんだっけ?」
「いや、その……あれ、ヤらせてくれるって言ったんじゃん!」
「ああ、それね……。もちろんこの件が落ち着いたらね。そんなことより昨日どうだったの? 素っ裸にして何もしなかったの? 画像に収めただけ?」
「えっ、あ、お、当然だよ! 何もする訳ないじゃん!」
「帰ってきたと思ったら、そのままベッドに直行で寝てたわよ」
「薬入れ過ぎたかな。言われた通りコーヒーに混ぜたから、全然バレなかったよ。でも信じて、一線は越えてないから!」
「は? 何、一線って……?」
私は肩より長い髪を耳にかけた。すると、その仕草を見た柏倉は目玉を丸くした。まるで漫画やアニメのような絵に描いたような驚き方はとても滑稽だった。
「……ん? どうしたの? これ?」
そう言ってピンキーリングがハマった小指を立てて突き出すと、彼は口をあんぐり開けて青ざめた。
「嘘ついたら、どうするんだっけ……?」
私はロングヘアーのウィッグを脱ぎ捨てた。
「こんなに気が付かないもの? まあ、暗いし、俯いてたし、桜のモノマネしたし、私、女優にでもなろうかしら。そうか……でも、あんな画像晒されちゃったら、セクシー女優にしかなれないかもねえ」
「ち、ちちち違うんだ! 桜の指示で僕は動いてただけなんだ。桜が言うこときいたら、何でもやらせてくるって言われて! 君の裸を撮影しろって! 全部、桜に言われた通りにしただけなんだ! 許してくれ!」
「もういいから……わかってる……全部、わかってる。あなたも桜に騙されただけよね。全部許すから安心して」
私は彼の両手をそっと握った。
「私を見て……私は何があっても貴方の味方。例え世界中を敵に回しても……」
そう言って私はそっと彼に口づけをして、渾身の力を込めて股間を膝で蹴り上げた。
呻き声を上げ崩れ落ちていく。散った桜の花弁の上に打ち上げられた魚のように、ピクリ、ピクリと微かに動く。
気を失った彼のスマホを奪い取り、指紋認証でロックを解除。画像と動画を確認する。醜悪に弄ばれる私の身体……。
股間の痛み、下着に付いた血……。あの違和感が現実味を帯びると、私はゲロを吐いた。
「……しっかり、やること、やってんじゃねえかよ……」
気絶する柏倉のパンツを脱がせ、縮こまった股間を撮影し、彼自身のSNSに投稿した。そして小指から抜き取ったピンキーリングを口の中へ捩じ込んだ。
「この事は二人だけの秘密だよ」
そして彼の着ていた服は帰り道のコンビニのゴミ箱に棄ててあげた。




