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ポートランド・ルーキーズ  作者: 帆影眠(ぽやしみ仙人)
3・4月編

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9/34

8試合目 制球が定まらない



 大量得点で勝利した翌日の先発はひどく憂鬱だ。

 何故ならばチームの雰囲気は良くても大抵打線が冷え冷えするから。

 昨日は初回に一挙10点を取り最終的には15対5で珍しく快勝した。

 これで昨日先発した投手のメイソン・ラッキーは今シーズン4登板で4勝目である。

 ちなみにラッキー投手の防御率は4点台、援護率は昨日の特大援護込みで8を超えた。

 一試合で平均4失点しても味方が平均8点も援護してくれれば余裕で勝ち星もつくだろう。

 対して俺の場合は3試合に登板で0勝3敗、防御率は1.25なのに対し援護率は0.42という援護の無さに思わず涙が出てくる。

 3試合で援護点1点のみとか勝てる試合も勝てる訳がなく。

 冗談抜きでラッキーの登板試合から何点か援護点を分けてほしい。

 失点イコール敗戦投手直行とかいうクソゲーを早く無くしてもらいたいものだ。

 しかも前回は8回途中まで無失点、長打を打たれて降板したまでは良かった。

 だが不調のリリーフが2ランホームランを浴びたせいで、無失点だったのに自責点だけが無駄に増えてしまった。

 ……責任ランナーとかいうクソ制度を早く撤廃してくれねえかな。

 ともあれ、今日も今日とて援護には期待出来そうもないので、監督に直談判して打席に立つことにした。

 俺が無失点で完投してホームランを打てば見事勝ち投手になる、まるで一人野球だ。

 これで俺の覚悟が伝わりチームメイトが奮起してくれれば言う事無いんだけどな……。

 そんな事を願いつつ、初回のマウンドに立つ。

 完投するためにはペース配分が重要。

 これを間違えると炎上するか、途中で力尽きて降板まっしぐらだ。

 そう思いつつ、普段より力をセーブしながら投球するがコントロールが定まらない。

 いきなりストレートのフォアボールを与えてしまった。

 しかも一塁ランナーは俊足なので盗塁を警戒しなければならない。

 とりあえず一回は牽制しておき、バッターに集中する。


「……ヤバいな、これ」


 全然ストライクに入らない――というよりも、キャッチャーが構えたミットから外れてしまう。

 いつもならキャッチャーがミットを微動だにしなくても構えた位置に寸分違わず投げ込むことが出来るのだが、今日はボールの軌道が不安定になる。

 バッターがボール球でも手を出して空振りしてくれたお陰でストライクカウントは一つ増えたが、1球もストライクゾーンに入らない。

 結局、四球で出塁を許して、その次の打者には変化球が外れ死球。

 あっという間にノーアウト満塁のピンチが訪れる。

 さすがにマズイと思ったのか、キャッチャーだけでなく内野、ベンチからピッチングコーチが小走りでやってきた。


「失点は仕方がないからまず一つずつアウトと取っていこう――とコーチは言っている」


 何故かキャッチャーのタロー・ホワイトがピッチングコーチの言葉を通訳してくれた。

 本職の通訳は監督と談笑していて、睨めつけるような視線をベンチに向けると慌てたように手で大きな丸を作った後、スケッチブックを掲げた。


『何失点しても最低五回』


 スケッチブックには日本語でそう書かれている。

 監督の考えは分かったが、俺に見えているということは相手ベンチからも丸見えな訳で。

 失点することよりも作戦を自ら明かす愚行の方が心配になってくる。


「俺もコーチとは同じ意見だ。無理して奪三振する必要はない。ガンガン打たせて内野ゴロでアウトを取っていこう」


「オーケー、アンダースタンド」


「それと前々から思っているのだが俺とのやり取りには無理して英語を使わなくて良い――というかむしろ英語を使わないでくれ。こう見えても十歳まで日本にいたから日本語はだいたい分かる」


「え、そうなの!? 普通に初耳なんだが……」


「今日も日本語でミーティングしてたと思うけど、ショーの頭は大丈夫か?」


「確かに言われてみればそうだったかもしれん。集中していて今まで気付かなかったわ……」


 というか、そんな事を気にしている場面ではない。

 時間が掛かっていることを訝しんでいるからか、主審がこちらへと向かってきたので内野が守備位置へと散っていった。

 そんな野手陣に向けて呼び掛ける。


「――グラウンドアウト、オーケー???」


「オーケー!!!」「ノープロブレム!!!」


 そんな力強い声が聞こえてきて安心した。

 俺の後ろには頼りになるメジャーリーガーで構成された野手陣がいる。

 野球は一人でするスポーツではない。

 九人の野手がいて初めて守備が成立するのだ。

 俺は気が付くと笑みを浮かべながら、打たせて取るピッチングを開始した。


《用語解説&設定》

・援護率→投手が登板している間に味方がどれだけ得点しているか一試合あたりに換算した指標

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