6試合目 奪三振王と三振王
「……あ、7回以上自責点2点以下のHQSを三試合続けたのに三試合とも敗戦投手になった人だ」
「うるせえ、三振王」
「残念、僕は本塁打王でもあるんだよな」
「偶然バットに当たったボールを力付くでホームランにしているだけだろ」
「否定はしないさ。ホームランを狙って全力スイングは出来ても狙ってホームランにするなんて芸当、僕には出来ないからね」
「……ところで怪我はもう平気なのか」
「お陰様で今日から復帰だよ。去年の日本プロ野球本塁打王として遅れを取り戻さないとね」
「そりゃさいで」
4月中旬のある日、試合開始前のホーム球場。
その廊下でチームメイトの打神と偶然すれ違った。
オープン戦で負傷した奴は治療のため一ヶ月ほど離脱。
復帰までマイナーで調整していたためその姿を見かけるのは久しぶりだった。
ちゃんと話すのは何気にオープン戦以来だ。
プライベートでは同い年と言えど互いに互いを誘い合うような間柄じゃないしな。
かと言って犬猿の仲という訳ではなく。
顔を合わせれば雑談くらいはする関係性だ。
慣れぬ異国の地で英語を使わず日本語だけでコミュニケーション出来る人間が身近にいるのはありがたい。
「それにしても良かったな。デビュー戦がホームで」
「ホームがラッキーと思えるほど慣れ親しんだ球場ってわけじゃないけどね。何回か打撃練習した程度だし。それよりも日本時代に散々対戦して、空振りしか出来なかったどこかの誰かさんと対戦しなくて良いから気が楽だよ」
そう口にする奴は心底嬉しそうな笑みを浮かべた。
日本プロ野球時代、打神とは同じリーグの別チームに所属していて、対戦する度に奴からは面白いぐらい三振を奪えたので、きっとそのことを思い出していたのだろう。
調子が良い時は言うまでもなく、コントロールが定まらない時でもガンガン空振りしてくれるのでマジで有難かった。
何ならボールを投げていなくても空振りしそうな勢いだった。
タイミングが全くあっておらず、ファールにすらされた記憶がない。
ストライクゾーンは言うまでもなく、明らかなボール球でも手を出してくる。
ある試合ではツーストライクから変化球が抜けて足への死球。
死球なので出塁出来るはずが、スイングを取られて空振り三振に倒れた時は思わず笑ってしまったくらいだ。
もちろんボールを当ててしまったのは事実なのできちんと謝ったけれど、あの時は笑いを堪えるのに必死だった。
それ以外にも色々あったが、投手として奴から三振を奪ったことをきっかけに復調したことも何度もあるので感謝している。
まあ、本人は俺を復調させようだなんてそんなつもり一ミリも無いのだろうけど……。
それにしてもどこに投げても絶対空振りしてくれるチョロい打者が、まさか俺と同じタイミングでメジャー挑戦するとは思わなかったな。
「今日は適当に流して俺が先発する明日は全打席満塁ホームランで援護してくれよ。目指せ一試合で打点20!」
「あの僕、打順三番だから初回の満塁ホームランは物理的に不可能なんだけど……」
「うるせえな、それぐらいの気持ちで援護してくれって意味だわ、バーカバーカ」
「先発三試合で援護点1点だけだったもんね……。やっぱり無援護の呪いは継続中なんだ……、可哀想に……」
「憐れむんじゃねえよ。お前がバカスカホームラン量産してくれれば済む話なんだよ。とにかく明日は頼んだぜ、三振王」
「そこは三振王ではなく本塁打王として頼んでほしかったよ……。まあ、打点の確約は出来ないけど最善は尽くすつもりだよ。チームを勝たせるためにも、ね」
そう自らに言い聞かせるように呟く奴の背中は頼もしく見えた。
この感じだと明日の援護点は期待しても良いかもしれない。
メジャー初勝利がようやく転がり込んでくる明日が楽しみだ。
まあ、まずは今日の試合次第だな。
《用語解説&設定》
・HQS→ハイクオリティスタートの略。先発投手の指標で7回以上自責点2点以下が達成条件
・死球→デッドボールのこと。
・打点→バッターが打撃によって得た得点のこと。




