4試合目 監督、退場
平凡なレフトフライのはずが突然の大歓声。
その意味が分からず、うっかりマウンド上でボールを落としてしまった。
ボークを取られてもおかしくはない場面であるが、審判達は一箇所に集まって何かの協議をしているところで。
どうやらプレー中ではないようで一安心だ。
スーパープレイでも起こったのかと、慌ててレフト方向へと振り向く。
今日スタメンのレフトはブルー・フェンスオーバー、通称BFOだ。
名前的に外野を任せるのに不穏というか不安だが、これでも昨年は何度かホームランキャッチをしてチームの危機を救っている。
彼がいなければルーキーズはあと10敗していたとしてもおかしくはない。
尤も年間100敗以上しているチームなので、負けが少し嵩んだところで――という話ではあるが……。
まあチーム事情はお察しでこそあるものの、個人成績で言えばその手堅い守備力が評価され昨年はゴールドグラブのファイナリストに選出された。
惜しくも受賞こそ逃したものの、エラーを連発するチームでは最終候補止まりでも十分快挙である。
そんな彼がフェンスの前で項垂れていた。
怪我をして動けない――というよりもエラーして落ち込むんでいる、そんな風に見える。
そうこうしていると、大型ビジョンに先程のリプレイが映し出された。
打球の行方を追いながら走るBFO。
余裕で落下点に入れそうな勢いだが、ファールポール付近で何かに躓き体勢を崩したところに打球が襲来。
もちろん体勢を崩したまま捕球出来る訳もなく。
不運なことに打球はBFOの帽子というか頭に当たって跳ね返り――そのままフェンスを超えた。
BFOが意図しないヘディングでアシストした形だ。
フェンスを越えるイコールボールデッドなのでエンタイトルツーベースの判定になるはずだ、……普通ならば。
打ち取った当たりだけに勿体ないが時にはこういう事もある。
そう思いつつ気持ちを切り替えるのだが、協議する審判団の様子がどこかおかしい。
しばらくして判定が決まったのか、審判達が持ち場へと散っていった。
『野手にボールが触れず、また地面に落ちていないためホームラン』
主審がマイクで説明すると、歓声とブーイングが同じくらいの声量で聞こえてきた。
ルーキーズファンが少ない敵地であることを鑑みても歓声と同じくらいブーイングが出てくるということは、恐らく観客も戸惑っているのだろう。
俺だってあんなのがホームラン扱いで納得がいっていない。
だが、それ以上に打った打者自体がめちゃくちゃ困惑していた。
さあプレイ再開と思いきや、ルーキーズベンチから監督が飛び出してきた。
まあ当然と言えば当然か。
最初は監督が主審に説明を求めて両者とも落ち着いた雰囲気だったが、にこやかな笑みを浮かべていた監督から突然表情が消えた。
何やらレフト方向を指差し、激しい口調で審判に詰め寄る。
BFOにボールが当たっていなければ、フェンスを越える打球ではない――そう主張しているようだ。
一方で審判はBFOのグラブには打球が触れておらず、ボールデッドではないためホームランだと反論する。
両者とも互いに譲らない。
完全に激昂した監督は顔を茹でダコのように赤くして、今にもキスしそうなくらい審判へ顔を近付けて猛抗議。
審判はそれを聞きつつも勢いに押されて一歩、また一歩後退りする。
監督が優勢なのは間違いなく、いいぞもっとやれと心のなかで応援していると、ついにその時が来たようで。
「――監督、退場!」
無情にも退場が宣告された。
だが、俺たちの監督はそんな事では止まらない。
指で両目を広げてお前の目は節穴かと挑発する。
そのまま審判の胸ぐらを掴みそうな勢いだったので、ベンチからコーチ達が慌てて飛び出してきて監督を強制連行していった。
これには球場全体が拍手喝采でお見送り。
指笛もあちらこちらから聞こえてくる。
それには不満そうな審判だったが、間を取ることなくプレイが再開した。
《用語解説&設定》
・スタメン→スターティングメンバーの略。試合開始時に出場する選手のこと
・ボールデッド→プレーが停止し無効となる状態のこと。
・エンタイトルツーベース→グラウンドルールダブルのこと。フェア状態の打球がスタンドに入るなどして自動的に二塁打となるプレーのこと。




