29試合目 面倒な球審
打神が8打数6安打13打点と大暴れ、しかもメジャーで初めてサイクルホームランを達成、チームも乱打戦を制して30-28で勝利した翌日は俺が先発だった。
前にも似たような場面で登板した気がする。
大差勝ちの翌日――この文章だけで今日がどうなっているか察しがつくと思う。
……うん、そうだね。
打線が急速冷凍されて1点も取れない、つまり無援護オブ無援護。
昨日はバカスカホームランを打っていた打神とか打神とか打神はいつも通り三振しかしていない。
それどころかルーキーズは5回まで安打どころか出塁すら出来ていなかった。
おいおい、相手投手はサイ・ヤング賞投手とは程遠い防御率6点台のピッチャーだぞ……。
何でそんな投手相手に完全試合ペースなんだよ。
一方で俺は制球に苦しんでいた。
……いいや、それだと語弊があるな。
正しくは球審がなかなかストライクを取ってくれない、だ。
際どいところは大体ボール判定にされる。
何回かABSチャレンジをして判定を覆しているが、ストライクだと絶対的な確信を持てない時はどうしてもABSを使うことに躊躇してしまう。
現にストライクか微妙なところでABSをしたらギリギリストライクゾーンに入っておらず、権利を一回失ってしまった。
残る権利は一回のみで絶対に失敗出来ない。
しかも球審は俺たちを試しているのか、ど真ん中でもストライクコールをしないこともある。
それもそのはずで。
今日の球審は悪名高い名物審判――ノーミステイクだ。
彼が球審の日は必ず退場者が出る傍若無人っぷり。
理不尽な退場も多く選手やコーチ、監督から恨みを買いまくっている。
特にニューヨーク・レジェンズで長く監督を務めた退場王と名高いボーン氏は被害者の会筆頭だろう。
ボーン氏は監督時代にノーミステイクから数えきれないほど退場を食らっている。
抗議をすれば退場。
野次を飛ばして退場。
屋根の修理をして退場。
ガムを投げただけで退場。
試合中に帽子を脱いで退場。
ダグアウトを出ただけで退場。
球審の誇張モノマネをして退場。
一言も発せず観客達の野次で退場。
気に食わなければとにかく退場退場。
退場のパターンには様々なバリエーションがあり、どれがノーミステイクの地雷なのか分からないため迂闊な言動は危険だ。
そんなノーミステイクはその名前とは異なり誤審も多い。
百歩譲って低めはストライクを取らないみたいな一貫性があれば対策のしようがあるが、彼の場合は完全に気分次第だ。
同じところに投げ込んでもその時々によって判定が違う。
挙げ句、コールが遅い。
それ故にABSをする時はタイミングが難しく、マジでいつも以上に疲れる。
それでもなんとか5回をイライラしながら投げきって迎えた6回。
俺的には三振だったが、ストレートの四球で出塁を許した。
三振と言ってもガッツリストライクというよりも、ゾーンを掠めているストライクなのでABSを使うか判断に迷う。
成功すれば問題は無いが、もし失敗すれば悲惨な未来しか見えない。
露骨な報復ジャッジが待っていることだろう。
そんな事を今考えていても仕方がないので、大きく息を吐いて投球に集中する。
投球動作に入り足を上げた刹那、突然球審が何か叫びつつ指を差して試合を止めた。
何事かと首を傾げていると、一塁ランナーがゆったり二塁に向かい、キャッチャーのタローが小走りでこちらにやって来た。
「……もしかして、ボークか?」
「あの人が言うには、ね」
タローがチラリと視線をホームに向けた。
球審はわざとらしく腕時計で時刻を確認している。
ベンチでは監督が今にも抗議のため飛び出そうとしていたが、手を出して首を横に振ることで止めさせた。
ボークという自覚は無いが、リプレー検証は出来ないし火の無いところに煙は立たないとも言う。
タローと愚痴りつつ作戦会議をして試合再開。
カーブとスプリットで空振りを奪って、続くインコースの球を振らせて三振――かと思いきや、ノーミステイクは塁審に確認せずスイングは取らなかった。
「いや、明らかに振ってるだろ今の……」
打者はスイングを途中で止めようとする意志があったようだ。
結果として中途半端なスイングになりバットの勢いを止めきれず完全に振り切っていて、誰がどう見てもハーフスイングではあるまい。
球審の判定に一番困惑しているのはスイングをした打者だった。
三振を確信してダグアウトに戻りかけていたしな。
一瞬、球審に抗議しようかと思ったがすぐにその考えを捨てる。
まあいいさ、次で決めれば良いだけの話だ。




