30試合目 俺がルールだ
タローが要求した通りのゾーンギリギリに投げ込む。
これで改めて三振――そう思っていた。
けれど、打球はバットに当たってグングン伸びていく。
最後にはスタンドに吸い込まれた。
「……クソが!」
思わずグローブを地面に叩き付ける。
マジで何なんだ、あの球審はよ!
ノーミステイクが球審でなければ今頃ツーアウト。
次の打者も捩じ伏せてこの回も無失点で終わっていたはずだ。
それが度重なる誤審で全て狂わされた。
この試合で何回三振を消され、何球無駄に投げさせられたのだろう。
既に投球数は百球を越えている。
きっとこの回で交代させられるだろう。
ダグアウトではコーチがブルペンに電話をしているところだった。
「……やることは変わらないか」
まだノーアウトだ、一人一人抑えていこう。
継投の準備をしている即ち、後の事は考えず全力で投げられるということ。
ギアを上げて一球一球全力でいかせてもらう!
打者が代わりその初球。
思わず力み過ぎてキャッチャーのミットより遥か高いところに抜けてしまった。
球審の頭上を猛スピードで通過したボールは、バックネットにガシャンと音を立てて当たる。
バックネット裏にいた観客達は驚いたような表情で思わず仰け反っていた。
ビックリさせたようで申し訳ない。
さて、仕切り直して次は――と。
そう考えていると球審がおもむろに立ち上がって。
「――退場!」
俺に向かってそう宣告してきた。
「……は? ホワイ???」
手を広げて意味が分からんとアピールしつつ、ホームへ駆け足で向かう。
だが、キャッチャーのタローが慌てて俺に駆け寄って来て制止してきた。
「ショー、気持ちは分かるが落ち着け」
「俺は落ち着いている。ただ、あのクソ野郎が退場させた理由を知りたいだけだ」
俺はタローの制止を振り切って球審――ノーミステイクに詰め寄る。
「おい、何で退場なんだ?」
そう問うと奴はハッと鼻で笑い。
「そんな事も分からないのか、ジャップは遅れてるな」
「何だとこの野郎!」
ゴリゴリに蔑称を使ってくる奴を睨み付ける。
奴は俺を見下すような視線を向けて再び鼻で笑い。
「分からないようだから特別に教えてやろう。審判である俺に向かって危険球を投げた――それが退場理由だ」
「ただ抜けただけのボールだろ。それにあんたには掠りもしない遥か頭上だったじゃねえか」
二メートルとはいかないが、それだけ球審から外れた大暴投だったはずだ。
球審を狙うなら直接当てるか、もっと身体に近いところに投げ込む。
「そんなものは関係ない。俺に対する攻撃的な投球があった――それだけで退場には十分だ」
「ふざけるのも大概にしろ!」
「いいか、ルーキー。ここでは俺がルールだ、せいぜいよく覚えておくことだな。それが分かったのならガキはさっさと寝てろ」
「この野郎!」
ぶちギレた俺の鉄拳がノーミステイクを襲う――事はなく。
コーチに羽交い締めされた俺はダグアウトまで強制連行された。
そこで監督やらコーチからお説教を受けているうちに試合終了。
チームは0-5で試合に敗れて俺は敗戦投手となった。
これで5回目の黒星である。




