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ポートランド・ルーキーズ  作者: 帆影眠(ぽやしみ仙人)
3・4月編

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3/32

2試合目 初めてのロード



「おお、これがロスの街並みか!」


 我らが本拠地であるポートランドからチャーター機で約二時間半。

 窓の外にはロスことロサンゼルスの夜景が広がっていた。

 明日からの三連戦はこの街を本拠地とする真っ赤なユニフォームのチームと行われる予定だ。

 開幕からの今日までの六連戦はホームだったので初めての遠征となる。

 日本時代の移動は新幹線が中心で、飛行機での移動は交流戦ぐらいだったのでとても新鮮だ。

 離陸前から窓の外を見てワクワクしている俺を見て、チームメイト達は子どもを見守る優しい眼差しを向け。


「俺にもこんな時期があった」


「休める時に休んでおかないと身体が持たないぞ」


「移動が多すぎて嫌でも慣れる」


 そんな言葉を投げかけて来た。

 諸先輩方のありがたいアドバイスは心に留めておこう。

 機内ではチャーター機ということもあり、皆が皆リラックスしながら思い思いの時間を過ごしていた。

 アイマスクを付けて就寝したり、ヘッドホンで音楽を聴いたり、タブレットで映画やドラマを観たり、ゲーム機を持ち込んでゲームをしたりと様々だ。

 監督やコーチ達は試合に向けて真剣な表情で打ち合わせをしていた。

 景色を見るのも悪くないが、長いシーズンずっとそうしていると飽きそうなので、次からは俺も暇潰しの道具を持ってくることにしよう。

 何せアメリカは広いからな。

 まあ、そんなこんなで空港に着陸してホテルまで貸切バスで移動する。

 今日はデーゲームを終えてからの移動だったので、チームメイト達の顔には多少の疲労が見えた。

 部屋に荷物を置いて夕食を済ませバッテリーミーティング後、監督の部屋に呼ばれた。

 ホテル最上階にあるロス市街を一望出来る部屋で監督は一杯やっていた。


「――お前も飲むか?」


「明日先発なの分かって言ってます?」


「ナイトゲームだし多少飲んでも平気だろう。酒じゃなくてもいいさ、ソフトドリンクで良いから少しおじさんとの話に付き合ってくれ」


「は、はあ……」


 そう言いながら立ち上がった監督は冷蔵庫からペットボトルを取り出した。

 日本でよく見るパッケージの緑茶を放り投げてきた。

 炭酸とかじゃなくて緑茶かよ……。

 俺が怪訝な顔をしていると、監督はもう一本ペットボトルを投げて来た。


「飲みかけの麦茶渡されても困るんですが……」


「安心しろ、直接口はつけてないさ」


「そういう問題じゃないんだよな……」


 麦茶のペットボトルを監督に投げ返すと、蓋を開けて手にしていたグラスに注いだ。

 てっきりウイスキーでも飲んでいるのかと思っていたが俺の勘違いだったらしい。


「それで話したいことって何ですか? まさか、もうトレードとか戦力外ですか……」


 さすがにあり得ないとは思うが、チームは2勝4敗と既に借金生活だ。

 シーズン序盤と言えど昨年132敗しているチームなので、早くもトレードで売り手に回ってもおかしくはない。


「ハハハ、ナイスジョーク。ショーは野球だけじゃなくジョークも上手いな、……ショーだけに」


「…………」


「……今のは忘れてくれ」


 監督はわざとらしく咳払いをして続ける。


「前にも伝えたが前回登板はパーフェクトなピッチングだった。ホームランを打たれたのは仕方がない。それよりも、打たれた後に崩れることなく無失点で7回まで切り抜けたのは本当に素晴らしいし、ブルペンの負担を減らしてくれて感謝している。それと同時に援護点が無くて申し訳なく思う」


「お褒めいただき恐縮ですが、失点したのは完全に俺のミスです。会見で敗ける選択肢は無いなどとデカい口を叩いておきながら初球でホームランを打たれるなど末代までの恥、本当に申し訳ありませんでした」


「頭を上げてくれショーリ。こんな事で謝るのであれば、今頃先発投手は全員ジャパニーズド・ゲ・ザのオンパレードでおでこが無くなってるだろうし、リリーフ投手は全員ハラキリだな、ハハハ」


「でも、あのホームランのせいで試合には負けたわけですし……」


 あの試合で俺の後を投げたリリーフは1点も取られなかった。

 つまりあのホームランが無ければ、勝っていた未来も十分あり得た訳だ。

 もっとも打線が沈黙していたので仮に無失点でも勝てたかは怪しいけれど……。


「ショー、うちはメジャー最弱のルーキーズだ。ゲームに敗れることに関してはどこのチームにも劣らず、もはや慣れっこなのさ」


 だから、と監督は続ける。


「勝敗は気にせず援護点が少なくても腐らずに自分のピッチングをしてほしい。そうすれば君は必ずサイ・ヤング賞を取れるはずだと私は確信している。ま、そんな感じで明日も日本車みたいな精密なピッチングを頼むぜ、ショー」


 ポンポン、と監督は俺の肩を軽く叩く。

 窓の外に広がった夜景が反射するサングラスの下ではウインクをしているような気がした。



《用語解説&設定》

・ロード→敵地での試合のこと

・リリーフ→短いイニングを投げる投手のこと

・援護点→投手が登板している間に味方が奪った点のこと

サイ・ヤング賞→各シーズンで最も優秀だった投手に贈られる最も権威ある個人賞

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