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ポートランド・ルーキーズ  作者: 帆影眠(ぽやしみ仙人)
3・4月編

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1試合目 初球ホームランとかありかよ



 ――ホームランなんて打たれたのはいつぶりだろうか。

 投げたのは決して悪くない初球だった。

 抜け玉でも甘いコースに入ったわけでもない。

 それなのにまるで銃声のような破裂音が聞こえた刹那、重力なんて消え去ったかのような軌道を描きながら、二秒くらい前まで手元にあったボールが俺の頭上を軽々と超えていった。

 ホームランなのに歓声はあまり聞こえない。

 いいや、脳が雑音という雑音を無意識に排除しているだけか。

 そう思ったがそもそもホームでのゲームだし、外野は無観客試合かと思うほどガラガラで空席しかなかった。

 打者がダイヤモンドを一周している間、キャッチャーが小走りでこちらへとやってくる。


「……大丈夫か?」


「ノープロブレム」


「今のは球もコースも悪くない。事故みたいなもんだからあまり気にするな。オープン戦で投げていた日本車みたいな投球を頼むぜ」


「オーケー、オーケー」


「お前なら相手打線を抑えられるし平気だ。じゃ、切り替えて行こうぜ!」


 流暢な日本語で返したキャッチャーはポンポンと軽く肩を叩くとホームベースへと戻っていった。

 あれ、ここ日本だったか、などと訝しんでいる暇はない。

 目を閉じて深呼吸をする。

 そこからはいつも通りのピッチングが出来た。

 三者凡退に押さえてベンチに戻るとサングラスでいまいち表情が読めない監督が「ドンマイ、ドンマイ」と、ポンポン肩を叩きつつ片言で励ましてくれた。

 ベンチに戻ってきた野手陣も「1点くらい気にするな」「俺達がすぐに取り戻してやるよ」「俺達が粘って休む時間作るからベンチでゆっくりしてな」そう口にしながらバットを持って打席へと向かう。

 だがそんな言葉とは裏腹に全員初球を打って凡退。

 わずか一分足らずで1回裏の攻撃は呆気なく終了した。

 ……おいおい1回裏よりも攻守交代の方が長いってどういうことだよ。


「さあ、切り替えて行こうぜ!」


 誰かがそう叫び、一息つく暇すらなくマウンドへ向かう。

 少しだけ苛ついたのでいつもより投球に力が入る。

 サクッと三者連続三球三振で仕留めてベンチへ戻っていると、なぜか球場全体がどよめいた。

 何事かと思えば大型ビジョンには先程の俺の投球がリプレイで映し出され。



『AMAZING! IMMACULATE INNING!!!』



 そんな文字列が踊っていた。

 どうやらイマキュレートイニング――三者連続三球三振が珍しかったらしい。

 調子が良いとたまにそういうこともあるが、騒ぐようなことでもないだろうと思っていた。

 けれどベンチでは監督やチームメイトが大興奮で迎えてくれた。

 なんか褒めてくれているんだろうけど、興奮のあまり早口過ぎて何を言っているのかわからず、とりあえずサンキュー、サンキューと適当に返す。

 後で聞いた話だが長い歴史を誇るメジャーでは120人目で140回目の達成だったらしい。

 数が中途半端に多いせいでいまいち凄さが分からない。

 まあ平均して年に一回あるか無いかということなので、ノーノーとか完全試合みたいなものだろう。

 ……いやイマキュレートイニングよりもノーヒットノーランの方が圧倒的に難易度高いだろ、どうなっているんだメジャー。

 その後も淡々と投げ続け、特にピンチらしいピンチもないまま7回表のマウンドを降りると観客のスタンディングオベーションで迎えられた。

 球数的にどうやらここまでらしい。

 7回98球12奪三振、か。

 少し物足りないがシーズン序盤だし無理は禁物だろう。

 大型ビジョンに映し出されたスコアボードには初回の1以降0がずらっと並んでいる。

 その下段には我がルーキーズも同じようにずっと0が並んでいる、……相手と異なり初回から。

 要するに0対1で絶賛負けていた。

 相手投手に手も足も出ないという訳ではなく、ヒットや四球で出塁こそするもののそこから打線が繋がらない。

 そんなこんなで7回裏の攻撃が始まるが三者凡退で、この回も0がスコアボードに刻まれる。

 このままだと7回1失点で俺が敗戦投手になるのも時間の問題だ。

 次の回は今日無安打のDHから始まるし、俺が代打で出ようかと監督に告げるとキョトンとした顔をしてすぐに大笑いして。


「ハハハ、ナイスジョーク!」


 大声で笑いながら親指を立ててくるだけだった。

 冗談ではなく割とマジな提案なんだけどな……。

 バットを手にして久しぶりの感触を確かめていると、ピッチングコーチが血相を変えながら近付いて来てバットを取り上げた。


「お前は最高のピッチングをした。これ以上身体を酷使する必要はない。打撃はチームメイトに任せて休んでいてくれ」


 ちょうど通訳は席を外していて正確な意図は分からないが、ニュアンス的にはそんなことを言っていたと思う。

 ピッチングコーチの言わんとしている事は至極真っ当で理解出来る。

 けれど、守るだけで攻撃出来ず、ただ味方を信じて応援することしか出来ないのはひどく歯痒い。

 ベンチにいた他の先発投手たちも首を振って諦めろと言わんばかりの顔をしていた。

 きっと過去には似たような状況、気持ちになる場面が山程あったのだろう。

 結局、そこからチームは1点も取れず試合には敗れた。




《用語解説&設定》

・ノーノー→ノーヒットノーランの略。先発投手がヒットも得点も許さず完封勝利すること。四死球やエラーによる一切の出塁が無い場合はノーノーより上位である完全試合と呼ばれる。

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