26試合目 目指せサイクル
サイクル――直訳すると周期や循環、自転車のことを意味する言葉だが野球用語では別の意味を持つ。
ヒット、二塁打、三塁打、ホームランを一試合で一人の選手が順不同で達成すること――それがサイクルだ。
そのサイクルには更に上位互換が存在し、全てホームランでサイクル――即ちソロ、ツーラン、スリーラン、グランドスラムだとサイクルホームランと呼ばれる。
そんなサイクルホームランだがメジャーの長い歴史の中で誰一人として達成したことがない。
歴代のホームラン王、強打者達はもちろん、誰もが知っている伝説の二刀流を極めし日本人選手でさえ達成出来ていない記録。
そんな大記録に挑む一人の日本人選手がいた。
ポートランド・ルーキーズ所属の一塁手、打神三振である。
彼はメジャーデビュー戦で2本のホームランを打ち、開幕から約二週間の欠場で出遅れながらも4月終了までに9本のアーチを描いた。
ホームラン数はリーグ2位タイで、これは月間18本ペースに相当する。
だが、4月26日のブルース戦で放ったホームラン以来実に13試合ノーアーチどころか無安打、20打席連続三振と大不振に陥っていた。
一方で守備でも課題を抱え、失策の数もリーグ上位と不名誉な成績を残している。
打てないし守れない――それが今の打神三振だ。
ネット上では『期待外れ』だの『獲得したのがルーキーズで良かった』だの『もう一回マイナーで調整しろ』と散々な言われよう。
中には『早く日本に帰れ』とか『お前にメジャーは百年早い』といった厳しい意見もあった。
だが、ルーキーズファンだけは別で。
『ホームラン王はミッツーしかいない』
『ホームラン以外は全て三振でも構わない』
『週に一回ホームランを打ってくれさえいれば良い』
と、打神のホームランを皆が心待ちにしていた。
本当に良く出来たファン達で、選手的にも心強いことこの上ない。
さすがはシーズン132敗しても離れなかったファン達だ、面構えが違う。
そんな中で迎えたホームでのインターリーグ、デビルズ戦。
この日先発したラッキーは初回にいきなり5点を失う苦しい立ち上がりとなっていた。
その裏、ルーキーズはメジャー昇格から出塁率五割超えと絶好調の東田から攻撃が始まる。
打撃だけではなく選球眼も優れる東田は四球を選んで出塁。
5点のリードで気が抜けているデビルズ野手陣の隙をついて盗塁を試みる。
キャッチャーはセカンドに送球すら出来ず悠々と盗塁成功。
2番のバナナはバントをして東田を確実に三塁へ送る。
1アウト三塁の場面で打神の打席となった。
打率は一割を割って0割台と不調。
だが、初球から全力で振り抜き打球はスタンドどころか場外まで飛んでいく。
普段は淡々とベースを回る打神だが、久しぶりの一発には珍しくホッとしたような表情を浮かべていた。
それだけ重圧があったということだろう。
三振を積み重ね、凡退に次ぐ凡退。
打神は気にしたような素振りを周囲には見せなかったが、本人的には相当ストレスを感じていたようだ。
それは打撃だけではなく守備面でも言えて。
送球ミスをしたり、打球を処理できなかったりと不調が続いていた。
更に下からは同じ日本人の東田が昇格してきて、打撃も守備も好調。
それが彼を余計に苦しめる要因だったのは間違いないだろう。
今のホームランがそれを払拭出来るきっかけになれば――そう願わずにはいられない。
と思っていたのだが、打神は次の打席でもあっさりホームランを打った。
今度はグランドスラムである。
昨日までの不調が嘘のような好調っぷりだ。
……やはり所謂ゾーンにでも入っているのだろうか?




