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ポートランド・ルーキーズ  作者: 帆影眠(ぽやしみ仙人)
3・4月編

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21/33

20試合目 8時間53分



 ――遅い、遅すぎる。

 ボールがあまりにも遅すぎる。

 速球に目が慣れているのもあって、野手が投げる山なりの緩いボールはまるでスローモーションのように見えて打ちづらい。

 バットに当たったは良いものの、タイミングを外されて打ち上げてしまった。

 フライアウトに倒れてベンチに戻ると、監督は少しホッとした表情を浮かべ。


「アウトになっても良いから怪我だけは、怪我だけは気を付けてくれよ」


「分かってます、さすがに昨日みたいな無茶はしませんよ」


 昨日の盗塁を見て監督は心配になったのだろう。

 その後も顔を合わせる度に「怪我には気を付けろ」だの「無茶はするな」と口酸っぱく言われた。

 そんなに心配ならベンチへ下げれば良いのにと思うが、既に主力を下げて控えの選手は全員フィールドに出ている。

 そのため交代出来る選手が投手しか残っていないのだ。

 それにしても他にも投手はいるのに、何故昨日先発の俺が代打として選ばれたのだろうか。

 若干ぼかしつつコーチ陣に問うと怪訝な顔をしながら教えてくれた。



 ――長打は期待できないが、時々打席へ立つと出塁率が高い。



 コーチ陣曰くそれが打席での俺に対する評価らしい。

 とはいえ、日米共にプロでDH制が導入されてかなり経つので、投手が打席に立つ機会が減って久しい。

 だが、日本時代に所属していたチームでは打撃が弱かったのでちょくちょく打席に立つことがあった。

 プロでホームランこそ打ったことは無いが、ヒットや四球でわりと塁には出ていたような気がする。

 尤も今のルーキーズ同様に得点にはあまり繋がらなかったけれど……。

 出塁率が高いのに投手に専念させるのは宝の持ち腐れだ――そう考えた首脳陣が目をつけたのが二刀流選手だった。

 二刀流選手とはドルフィンズをワールドシリーズ十連覇に導いた投手兼本塁打王、ミスターMVPと名高いスーパースターのために用意された仕組みだ。

 二刀流選手は従来の投手枠にはカウントされない専用の『Two-Way Players』として登録されるので、実質的に投手を一人増やすことが出来る。

 もちろん登録には諸条件が必要だが、ダブル規定達成のように困難なものではなく。

 打者として20試合以上、投手として20イニング以上と登録のハードルはさほど高くはない。

 少し前までは試合開始時に投手兼DH、つまりリリーフ投手には適用されなかったのだが条件が多少緩和された。

 どうやら二刀流選手の代名詞であるスーパースター以降、誰も対象者が現れなかったため条件を多少緩和するに至ったらしい。

 それもあって二刀流で登録された選手は着々と増えている。

 投打共に活躍する選手が増えれば、メジャーの活性化にも繋がるしな。

 どうやらその『Two-Way Players』として来シーズンには俺を登録したいらしい。

 そのため、こういった試合が膠着した場面などで代打起用して二刀流選手の条件を満たしたいようだ。

 ただ単純に現状打破、反撃開始の起爆剤にしたいだけかもしれないが……。

 シーズン序盤だというのに来シーズン以降の事を考えているなんて随分気の早いことだ。

 でもまあ、使える投手が増えるのは悪いことではない。

 年間162試合もあるのだから投手が一人増えるだけでだいぶ違うはずだ。

 そんな事を考えているうちに再び打席が回ってきた。

 23回裏のことである。

 まだ試合は終わっていないらしい。

 一塁には打神がいて軽く手を振ってきた。

 おいおい、まだ守備の時間じゃないぞと思ったが、普通に出塁してたらしい。

 そこは一発ホームランで試合を決めてほしかったが、三振せずに出塁しただけ上出来だろう。

 1アウトでランナーが一塁という場面なので少し緊張する。

 立場が逆だったら完璧に抑えられるんだけどな……。

 そんな事を考えていると初球から打神が走ってきた。

 キャッチャーが捕球後に二塁へ素早く送球するが余裕でセーフだ。

 2球目は山なりのボールではなく直球だった。

 球速は70マイル後半ぐらいだろうか。

 緩急を使い分けて来るので面倒だ。

 というか野手登板なのに継投入ってないか???

 さっきまで全球山なりの緩いボールしか投げていなかったのに、いきなりカウント稼ぎで直球を投げてくるからおかしいと思った。

 だが、山なりのボールよりずっと打ちやすい。

 これで狙い球は決まったな。

 大きく短く息を吐き集中する。

 山なりのボールを3球連続で見送ってフルカウント。

 続く球は先程と同じストレートが来たので、俺は全力でバットを振り抜いた。

 パカーン! そんな音と共に手が痺れる。

 俺はバットを乱暴に放って打球の行方を追いながら走った。


「いけ! 超えろ!!!」


 思わずそう叫ぶと、打球は奇しくもセンター後方のフェンスに届かず。

 けれど、打球を追っていた相手の外野は急に足を止めた。

 そのタイミングで俺は二塁に到達し打神がホームイン。

 それから俺たちは勝敗も敵味方も関係なく涙を流し抱き合った。


「ナイスバッティング!」「サンキュー!」「MVP! MVP!」


 チームメイトではなく何故か相手選手からそんな喜びの声が俺へと向けられる。

 ようやく――ようやく終わった。

 時刻はまもなく日付が変わる午前0時になろうとしている。

 延長23回、試合時間8時間53分。

 途中3時間の中断があったので奇しくもメジャー最長の試合時間ではない。

 ともあれ、これでルーキーズは球団史上初のスイープを達成したのだった。

《用語解説&設定》

・ダブル規定→規定投球回(162イニング)と規定打席(502打席)の両方を達成すること。

・スイープ→対戦カードで全勝すること

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