16試合目 リリーフの失態
援護点は素晴らしい。
それがあるだけでモチベーションが違ってくるし、仮に失点しても援護点があるからと気持ちを切り替えやすい。
これが援護点0のまま相手に得点を許すと、そこから緊張の糸が切れ調子を崩して炎上――なんてことはルーキーズでは日常茶飯事、典型的な負けパターンである。
尤も最小失点でピンチを切り抜けるのが投手の役割ではあるし、失点してもそれ以上傷口を広げないのが良い投手の真骨頂と言えるだろう。
たかが1点、されど1点――それが勝敗を分ける。
しかもいつもとは異なり今日は自分の足で得た1点だ、充実感がまるで違う。
結構無茶した感があってベンチに戻ってから監督やコーチに結構怒られたが、その後4回から6回まで三者凡退で抑えると何も言われなくなった。
後はこの1点をリリーフが守り抜けば、チームも勝利、俺も海を渡って初めての勝ち投手となる。
本当は3回のチャンスでもう2、3点欲しかったが2アウト一塁、三塁で打神が三振してしまったので得点は1点止まりで攻撃終了。
チャンスを活かせず勿体ないが、打神は三振するかホームランを打つか四球を選ぶかの3パターンしかないからな。
それ故に内野の頭を越えるタイムリーヒットを打つなんて器用なことは出来ないのだ。
もちろん意図せずそうなることもあるが、なにせ偶然そうなっただけだからな……。
チャンスに強い――得点圏打率が良ければ言うこと無いんだけど、今の打神にそれを求めるのは酷だろう。
俺に例えると毎試合ノーヒットノーランをやれと言っているようなものだ。
閑話休題。
7回からはリリーフ投手のハムストリングがマウンドに上がっている。
俺的にはまだまだ余裕で投げられるのだが、球数的にダメらしい。
まあ、シーズン序盤で無理するような時期では無いからな。
四球を与えすぎて結構球数を浪費しちゃったから仕方がない。
あれが無ければ7回も――と思案するが、立ち上がりから制球に苦しんでいたので、たとえ四死球を与えずとも7回まで行かずに降板だっただろう。
そんな事を考えていると、いつの間にかノーアウトなのにランナーが二人も出ていた。
「おいおい、大丈夫かよ……」
今日の投手陣では制球難が流行らしく、先発だけではなくリリーフも二者連続で四球を与えていたようだ。
監督とピッチングコーチは険しい表情で何やら話し合いをして、慌ただしくブルペンに電話を掛ける。
何やら雲行きが怪しくなってきた。
現在ルーキーズが勝っているとはいえ、1点差なので何かあれば秒で同点、或いは逆転されるだろう。
「しかもここでフォレストJr.か……」
今シーズンは不調とはいえ強打者だ。
甘いコースに投げると簡単にスタンドへ運ばれる。
かといって敬遠してノーアウト満塁にするのもリスクだ。
ある程度点差があれば失点覚悟で満塁策を取れるだろうが、リードは1点だしな……。
割り切って勝負するのが最適解か。
ゴロを打たせてダブルプレーが取れれば重畳。
それ以外でもホームに生還させず、まずは一つアウトが取れれば理想――そう思っていた時期が俺にもありました。
パカーンと気持ち良い音を響かせて、打球がアーチを描いて球場の外へ消えていった。
打球の行方を追っていたハムストリングは開き直ったのかゲラゲラ笑っていた。
……いや笑い事ちゃうねんぞ。
それを見ていた監督は嘆息しながらマウンドに向かう。
どうやらここでピッチャー交代らしい。
ベンチに戻ってきたハムストリングは悪びれもせずヘラヘラしながら。
「いやー、特大の一発を打たれちゃったっすねー」
と、まるで他人事のように呟く。
「いやー、打たれちゃったっすねーじゃないんだわ」
「ショーさん、勝ち奪っちゃって済まないっす。なんか今日は制球が定まらなくて……」
「常日頃から宗教上の理由から豚を食べちゃいけないのにハムとかポークチョップを毎日のように食ったり、昼間は断食しないといけないのに『こっちは昼でも向こうは夜だから平気っすよー』とか言って昼夜関係なく食ってるからバチが当たったんだろ」
「……ショーさん、怒ってるっすか。マジギレな感じすか?」
「……別に怒っちゃいねえよ。1アウトも取れずに降板とか野手登板以下とは思っているけど」
「うっ、それを言われると……。本当にすまなかったっす……」
「まあ、こんな日もある。……次は無いからな?」
「死ぬ気で精進するっす!」
この日を境にハムストリングは覚醒、後年リリーフ投手としてシーズン歴代最多ホールドを記録するのだがそれはまた別のお話。
《用語解説&設定》
・野手登板→点差がついた試合で投手を温存するため、野手が登板すること
・ホールド→チームが勝っている場面で登板してリードを守ったまま降板、同点の場合は失点せずに降板したリリーフ投手に与えられる記録のこと




