14試合目 二塁を狙え
「ラッキーだったな、ショー」
「オー、サンキュー」
ピッチクロック違反で四球となったので、一塁へ向かうと一塁コーチが手を差し出してきた。
軽くその手を叩き、喜びを分かち合う。
出来ればヒットで出塁したかったが、未だ得点が0なのでそんな贅沢は言っていられない。
だが、純粋な四球では無く、相手のミスから得られた出塁なので少し後味が悪い。
続く打者は俺が出塁するとは夢にも思っていなかったようで、守備用の帽子を被ったまま打席に立ち審判から注意を受けていた。
さっきネクストバッターサークルにいた時にヘルメットを被っていないどころか、バットを振らず手にはグローブを嵌めていたぐらいだもんな……。
当然、いきなり出番が回ってくればそうなるだろう。
「ショー、分かっていると思うが走塁では無茶はするなよ。お前の本業は投手なんだ。相手打線を押さえるのが今日の仕事で打席はおまけみたいなものでしかない。無理に走って怪我なんかされた日にはボスのクビが飛びかねないぜ、ハハハ」
「おけおけ」
「しかも2アウトだから尚更だ。リードは取る素振りだけでいい。いいか、絶対に無茶はするなよ?」
「……おーけー」
一塁コーチがそう耳打ちしてきた。
その内容は至極当然で、アドバイスというよりも注意とか忠告に近い。
口調こそ真剣だったものの、ベースから離れた時に見せた笑みは何か悪戯でも企んでいるかのようなものに見えた。
熱湯の入った浴槽の前で「押すなよ、絶対に押すなよ」というお決まりの言葉を放つ芸人に似たような感じだ。
つまりは無理のない範囲で走れってことだろう。
ブルージーンズサイドは俺が盗塁するとは当然思っていないようだ。
ファーストは俺なんかいない――もしくは万が一走られても問題ないという認識なのか、常にベースから離れて一、二塁間の位置で守備についている。
それどころか投手は投球動作へ入る前にこちらを一切見てこない。
そんな状況なので当然牽制球も投げて来なかった。
これは走って下さいと言われているも同義だろう。
初球は申し訳ない程度、半歩分くらいリードだったが、2球目はリードを広げて一歩分にする。
これぐらいのリードでは投手もファーストも全く気にしない。
3球目の前に打席に立つバッターと目があった。
「…………」
俺の意図を察したのか、軽くウインクをしてからバットを構えた。
そんな彼を牽制されたら秒で詰むような位置から見守る。
ここまで無謀なリードを取ると、さすがにファーストは違和感を覚えたようで投手に声を掛けつつ慌てて一塁へ戻る。
だが――もう遅い。
俺は迷わずスタートを切る。
投手はファーストからの声など全く聞こえないようで、既に投球動作へ入っていた。
この状態ではボークになるため一塁へは牽制出来ない。
それだけ投球に集中している証左だろう。
俺が走り出しても投手はまだ気付かない。
一方でキャッチャーは俺の盗塁に気付き、捕球すると同時に二塁へ素早くボールを投げてきたが時既に遅し。
スライディングするまでもなく、余裕で二塁には到達出来た。
セカンドは「コイツ、マジか」みたいな驚いた表情をしつつ、二塁に立つ俺へグラブで一応タッチをする。
もちろんそんな事をしてもアウトにはならない。
「結構大胆なことするんだな、まさか走ってくるとは思わなかったぜ兄弟」
「まあな。投手が制球で苦しみながらも無失点で頑張っているから、援護点を取って楽にさせてやろうと思ったんだ」
「ハハハ、なかなか面白いこと言うピッチャーだぜ」
相手のセカンドとそんなやり取りをしつつ、二塁ベースから広めにリードを取る。
投手は俺の方を一瞬見るが、確認は形だけなのか本気で警戒している訳では無さそうだ。
ならば遠慮せずに行かせてもらおう。
俺は三塁目掛けて全力で走り出した――。
《用語解説&設定》
・ボーク→投手による反則行為のこと。違反するとランナーは進塁出来る




