13試合目 メジャー初打席
3回表をどうにか凌いだ俺はベンチに戻って呼吸を整えることにした。
この回は心身ともに結構疲れたからな。
だが戻って早々、監督から直々にバットを手渡された。
その意味が分からずキョトンとしていると、監督は豪快な笑い声を上げて。
「ナイスジョークだ、ショー。今朝、打席に立たせてくれって直談判してきたのにもう忘れたのかい?」
「……あ」
そういえばそうだった。
3回まで来たということはどんなに遅くても9番打者である俺へと打席が回ってくる。
慌てて防具を着けて準備をすると、すぐに出番が回ってきた。
『次の打者はピッチャー! ショーリ・カチボーシ!』
球場の低音でイケボなアナウンスと歓声に迎えられ打席に立つ。
2アウトでランナー無しの場面だから細かいことを気にせず積極的に打っていける。
「打席からだとこんな景色なんだな……」
いつもはマウンドにしか立たないので、打者目線は新鮮だった。
チラリと横目でベンチを確認するが特に指示は出ていない。
というか、野手は守備への準備万端で今にもグラウンドへ飛び出しかねない勢いだ。
ネクストバッターの奴なんてヘルメットではなく帽子を被り、手にはグローブを持ちバットは持ってきてこそいるものの足元に立て掛けているだけ。
バットさえ片付ければいつでも守備にいける状態だ。
……おいおい、喧嘩売っているのかよ?
それだけ俺には期待していないということだろう。
まあ、メジャーでの初打席だし、打撃力を買われてプロになった訳じゃないからな。
今日ノーヒットの打神はニヤニヤしながらこちらを見てきて無性に腹が立つ。
維持でも出塁してやろうと集中してバットを構えた。
初球はインコースに食い込んでくる球だった。
絶対身体に当たるコースだと確信し、思い切り仰け反って球を回避したのだが判定はストライク。
そんな訳ないだろと反射的にヘルメットを叩いてABSチャレンジをしようとしたがグッと堪える。
もし失敗ならチャレンジする権利を無駄に失うことになるし、判定を覆すだけの自信が無かった。
実際にキャッチャーが取った位置も明らかにゾーンから外れている訳ではなく、ホームベースから少しインコースになっている程度。
これでチャレンジするのはさすがに躊躇う。
しかしまあ、打席から見るボールの軌道と実際の軌道は違って見えるとよく聞くけれど、まさかこれ程までとは思わなかった。
あんな大袈裟に避けなくても良いだろと投手目線では思っていたが、打席に立つことで彼らの気持ちをようやく理解出来た。
豪速球が自分目掛けて飛んでくるなんてマジで怖い。
今の球は体感90マイルくらいだ。
キロに直すと約145キロと言ったところで、決して速い球ではない。
それでも恐怖を覚えるのだから、俺が投げる100マイル超(約160キロ)のインコースなんてほぼ銃弾みたいなもんだろ。
……銃弾みたいな速度は過言にしても球速に慣れないうちは恐怖心が勝るだろうし、そりゃ簡単には手が出ないわけだ。
死球になったら痛みと恐怖でトラウマものだろうし、俺だったらそこから立ち直れる気がしない。
続く球は外の低めが外れてボールになった。
……よし、良くボールの軌道が見えている。
そう自分に言い聞かせてバットを構えて集中。
投手がピッチクロック違反ギリギリまで粘って投げてきたのはインコースだった。
だが、先程よりも低いので逃げず、手を出さず見逃す。
その次は真ん中だったがワンバンドして捕手のミットに収まった。
これでボールが先行――というかスリーボールなので、投手の心理としてはストライクを取りたいはずだ。
そうなれば、ゾーンに投げるか空振りを取る、もしくはファールにさせたいはず。
同じ場面で俺だったらどうするか――そう思考しつつ、投手が投げるのをじっと待つ。
だが、残念ながら投手が投げることは無かった。
何故なら――。
『ピッチクロック違反でボールフォア』
審判がタイムを掛けてそう宣言した。
《用語解説&設定》
・インコース→打者の身体側のコース
・ピッチクロック→試合時間短縮のために定められたルールのこと。投手は15秒以内(ランナーありは18秒以内)に投球動作、打者は残り8秒までに構えを済ませる必要がある。違反した場合、投手にはボール、打者にはストライクが追加される。




