11試合目 打たせて取る
今日の相手はメジャーで唯一のアメリカ以外――カナダ・トロントを本拠地としている。
昨シーズンは所属するイーストリーグの北地区で地区優勝をしてPSに進出したまでは良かったが、そこからチームは一勝も出来ずに敗退。
そこから立ち直れずにいるのか、主力選手の不調や故障などで戦力ダウンしたままシーズンの開幕を迎え絶賛大型連敗中である。
負け組常連である我らがルーキーズですら今シーズンは『まだ』四連敗を二回しかしていないのに、相手――トロント・ブルージーンズは現在泥沼の十連敗中と言えばその異常さが際立つだろう。
ちなみに昨シーズンのブルージーンズは連敗しても五連敗が最大だったので、シーズン序盤ながら早くも地区優勝が危ぶまれている。
まあ、昨日は打神が大活躍したとはいえ、最弱のルーキーズに大差で敗けたのは屈辱でしかないだろう。
普段であれば立場は完全に逆で、ルーキーズの方がサンドバッグにされる側だ。
……というか、今気付いたがルーキーズ連敗しすぎだろ。
なんで開幕からたった16試合で早くも四連敗を二回もしているんだよ……。
だがまあ、最大四連敗で収まっているので不幸中の幸いか。
「――次の回は強打者のフォレストJr.からだ。ここは無理せず申告敬遠して次の打者と勝負しよう」
「……あ、ああ」
ルーキーズの弱さに嘆いていると、防具を着けたままのタローがそう話し掛けてきた。
フォレストJr.は昨年30-30を達成している厄介な選手だ。
打席に立てば30本のホームラン、塁に出れば30回盗塁を成功させている。
つまり真っ向勝負をすれば一点を献上しかねず、かといって歩かせれば盗塁で得点圏へ進みかねない。
普段であれば警戒しつつも打ち取れる自信がある。
けれど、コントロールが定まらない現状では失投してスタンドに運ばれる未来しか見えない。
タローが申告敬遠を提案するのは妥当だ。
ランナーが一塁にいればダブルプレーも狙えるしな。
ピッチングコーチやこの場に留まっている経験豊富なシャークもタローと同じ意見なのか小さく頷いている。
後は配球の確認をしていると攻守交代となり、再びマウンドへと向かう。
もちろん今日も今日とて味方の援護は0点だ。
まあ、まだ初回を終えたばかりだからな、無得点でも仕方がないだろう。
俺が投げている間に1点でも多く点を取ってくれれば御の字だが、正直期待はしていない。
最終的にチームが勝利すれば言うことは無い、無いのだが打線が昨日爆発しすぎなので大量得点はまず不可能、1点すら取れるどうかかなり怪しい。
というか今は打線が沈黙していることを憂うよりも、打たせて取るピッチングで無失点で切り抜けることに集中しよう。
ひとまずフォレストJr.を申告敬遠で一塁に送って、続く打者には甘くならないようなコースで変化球を投げ込む。
初球からバットを振ってきたが、鈍い音と共にバットが折れ、破片がこちらに飛んできて慌てて避ける。
今ので打球を見失ってしまったがどうやら三塁方向に転がっていたようで、サードが上手く処理して二塁でアウトを取る。
タイミング的にダブルプレーこそ無理だったが、サードの判断で俊足でもあるフォレストJr.をアウトに出来たのは大きい。
「ナイスプレー!」
サードのバナナに声を掛けると、彼は後ろを向いたまま黄色のグローブを高く掲げた。
1アウトになったところで打者はバントの構えをしてくるので、バットより少し高い位置に緩い球を投げ込む。
すると俺の狙い通りバットに当たったボールは地面を転がることなく宙へ浮き上がって、マスクを外したタローが余裕でキャッチした刹那。
いきなり鋭い目付きに変貌した彼は、俺の方を見つつもボールをファーストへと素早く投げた。
……ビックリした、俺に向かって全力で投げてくるのかと思ったわ。
ボールはファーストを守る打神のグローブへとすっぽり収まり、一塁から飛び出していたランナーにタッチしてアウト。
僅か2球でスリーアウトとなり、2回表は終了した。
《用語解説&設定》
トロント・ブルージーンズ→イーストリーグ北地区1位(昨年)
・30-30→30本塁打30盗塁のこと
・申告敬遠→審判に申告するだけで一球も投げずに打者を故意に一塁へ歩かせるルールのこと
・得点圏→ランナーが二塁や三塁にいること




