優しさ
昼休み。
休憩室でお弁当を広げていると、百花ちゃんがやって来た。
「隣いいですか?」
「どうぞ」
向かいではなく、今日は隣に座る。
珍しいなと思った。
しばらく他愛ない話をしていたが、百花ちゃんがどこか落ち着きがない。
何度もこちらを見ては逸らすを繰り返す。
能力が反応した。
【百花の感情推定:心配】
私は少し苦笑する。
「百花ちゃん」
「はい」
「何か気を遣われてる気がするんだけど」
ぴくりと肩が揺れた。
分かりやすい。
百花ちゃんはおずおずと切り出した。
「豊島さんの事、八代さんから聞いたんです」
その一言で何の話か分かる。
豊島さんの出向の件だ。
「うん」
私は小さく頷いた。
百花ちゃんはそっと私の顔を窺う。
「大丈夫ですか?」労りを感じる声だった。
私は少しだけ笑う。
「うーん」
何といえばいいか分からず、箸が止まる。
気づけば日常の一部になっていた豊島さんの不在。
一年間。
「寂しいよね」
素直に答えると、百花ちゃんも神妙な顔で頷く。
「でも、仕方ない事だし……会いたくなったら会いにいくよ」
自分に言い聞かせるような言葉だったかもしれない。
百花ちゃんは少し黙る。
能力が反応する。
【百花の感情推定:もどかしさ、応援】
すると百花ちゃんが意を決したように口を開いた。
「紗奈さん」
「うん?」
「一年って思ったより長いですよ」
「……うん」
私は静かに頷く。
その通りだと思った。
「色々、変わっていく事もあるでしょうし」
百花ちゃんは少し躊躇しながらも、はっきりと続けた。
「伝えたい事があるなら、伝えた方がいいと思います」
胸が少しだけ軋んだ。
出向の話を聞いてから、何回もカレンダーを確認する自分がいた。
あと何回会えるのだろう。
そんなことばかり考えてしまう。
百花ちゃんは私の反応を見て、慌てて付け加える。
「あ、別に深い意味じゃなくて!」
「うん」
「ただ後悔しないようにというか!」
私は思わず笑った。
百花ちゃんらしい。
眩しいくらい真っ直ぐだ。
「ありがとう」
そう言うと、百花ちゃんは少しだけ安心したように笑った。
お茶を一口飲み、窓の外を見る。
陽射しが眩しかった。




