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地味スキル“空気読み補助”で人生が快適になりました  作者: 野山みつ


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ファミレス

ファミレスは試合帰りの客で多少賑わっていたが、球場周辺ほどではなかった。

案内されたボックス席に向かい合って座る。

冷たい水を一口飲んで、ようやく人心地ついた。


「生き返りますね」

紗奈は小さく笑う。

「人が多かったですからね」

豊島も珍しく少し肩の力を抜いていた。

注文を済ませると、自然と試合の話になる。


「ホームランが凄かったです」「打った瞬間でしたね」 「テレビで見るのと全然違うんですね」 「やはり現地は音でしょうね」

そんな話をしているうちに料理が運ばれてきた。

しばらく食事を進めたあと、豊島がふと思い出したように言う。


「石村さんは休日は何をしてるんですか?」

「まぁ読書が多いですね。あとは将棋を観たり」

豊島が意外そうな顔をした。

「観る将ですか」

「知ってるんですか?」

「ええ、名前くらいは」


嬉しくなる。チーズドリアを食べながら続ける。

「応援してる棋士がいて」

「へえ」

「対局中継を見たり、感想戦を見たり。タイトル戦なんかは近場だと現地に行きます」

豊島の目が丸くなる。

「結構、本格的なんですね」

「好きなので」

自然と声が弾む。


「豊島さんは?」

そう尋ねると、今度は豊島が少し考えた。

「野球ゲームをよくやります」

「選手を育成するやつですか?」

「そうです」


野菜炒め定食を食べながら豊島が続ける。

「能力を設定するのが面白いんですよ」

「設定?」

「ええ。実際の成績や能力と比較して、これは高すぎるとか低すぎるとか一人ブツブツ言って」

紗奈は瞬きをした。何となく想像できた。


「この投手の変化球はこうじゃないとか。この選手の守備範囲はもう少し上とか」

「細かいですね」

「重要な事です」

真顔で返される。


「ゲームするより設定してる時間の方が長いかもしれません」

思わず吹き出した。

「そんな人初めて見ました」

「八代にもやいのやいの言われます」

苦笑する豊島さん。


「でも、好きなものってそういうものですよね」

紗奈が言うと、豊島が少しだけ視線を上げた。

「そうかもしれません」

好きなものはは全然違うのに、不思議と会話は途切れなかった。


能力が静かに浮かぶ

【感情推定︰好意 安心 心地良さ】

淡い文字が浮かぶ。

紗奈はそっと視線を落とした。


向かい側では豊島が真面目な顔でエラー率や守備範囲について語っている。


少し前までなら知らなかった。

この人がこんな話をすることも、こんな表情を見せることも。

そう思うと、胸の奥がほんのり温かくなった。












食事を終え、ドリンクバーのグラスも空になった頃だった。

「そろそろ帰りますか」

豊島が伝票を手に取る。

「そうですね」

二人で席を立ち、レジへ向かう。


その途中だった。

「あれ?」

聞き覚えのある声に振り返る。

「石村さん?」

そこにいたのは前田だった。


「前田さん」

研修で一緒だった知人だ。

前田も驚いたように目を丸くしている。

「偶然ですね」

「本当に」

前田の後ろには男性が二人いた。 どうやら友人同士で来ていたらしい。


前田の視線が私の隣へ移る。

豊島が軽く頭を下げた。

前田も会釈を返す。


「久々に、今度また研修メンバーで集まらない?」

「ああ、そうですねぇ」

紗奈は曖昧に返事をする。

その反応に前田は苦笑した。


確かにグループラインには何度か誘いが流れていた。

だが休日だったり、仕事終わりだったりで、そのたびに見送っていた気がする。

「石村さん、全部欠席じゃん」

「全部、では……」

反論しかけて、思い当たる節がありすぎて口を閉じた。


前田が笑う。

「まぁ、石村さんらしいけど」

「そうかな」

「そうだよ。研修の時から必要以上に群れないタイプだったじゃん」

それは否定できない。

一人の時間は好きだし、大人数の集まりも嫌いではないが積極的に参加する方でもない。


「まあ、気が向いたら会おうよ」

前田はそう言ってから、ちらりと豊島を見る。


前田は笑いながら手を上げる。

「じゃあまた」

「うん」

軽く手を振り合う。

前田は友人たちの待つ席へ戻っていった。


割り勘で会計を終え、店を出て少し歩いたところで、

「欠席ばかりなんですか?」と豊島が聞いてきた。

「え?あーはい。そう、ですね」


紗奈は少し考えて答える。

「大勢でご飯ってあまり得意じゃなくて。

休日は好きなことをして過ごしたいんですよねぇ」

己の出不精ぶりに苦笑する


豊島が数秒黙った。

そして、

「石村さんらしいです」

前田とほとんど同じことを言われてしまい、何とも言えない気分になった。


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