飲み会
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主人公 石村紗奈
後輩 橘 百花
先輩 西野翔太
先輩 荒川菜々子
友人 山野はるか
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図書館は市の施設だ。
だから年に数回、“交流会”という名の飲み会がある。
正直、私は苦手だった。
複数人との会話。
曖昧な距離感。
何を話せば正解なのか分からない空気。
以前なら絶対に隅で縮こまって終わっていた。
でも——
【会話ストレス軽減】
【無理な発言を非推奨】
会場は駅前の居酒屋。 仕事終わりの職員たちが次々席につく。
(えーっと百花ちゃんは不参加だし、どこ座ろうかな)
「石村さん、こっち空いてるよー」
「あ、ありがとうございます」
荒川さんに呼ばれ、その隣の席へ腰掛ける。
机を挟んで正面には西野さんがいる。
(おおっ)
「お疲れー」 「今日は飲むぞー」
「いや明日も普通に早番なんですけど……」
あちこちで笑い声が上がる。
店員さんがジョッキを並べ、唐揚げや枝豆が運ばれてきた。
私はとりあえず烏龍茶を頼みながら、そっと周囲を見る。
【現在会話グループ:4】
【推奨:聞き役65%】
以前なら、この時点で顔が引き攣っていた。
左右どちらに気を配ればいいのか、誰に話してるのか分からなくなって、変なタイミングで笑ってしまったり、逆に無反応になったり。
でも今は違う。
「いや、今週は忙しかったねー」
西野さんが枝豆をつまみながら言う。
「あ、はい。団体利用重なりましたし」
「だよね!児童コーナーずっと戦場だったじゃん」
「そうなんですよ。走る子止めるの大変でした」
荒川さんが笑う。
【共感返答を推奨】
【具体例を一つ加えると自然】
「検索機の前も列できてましたよね。案内してる途中で別の人に呼ばれて、ちょっと混乱しました」
「あったあった!」
西野さんがすぐ乗ってくる。
会話が、ちゃんと続いている。
しかも無理してる感じがない。
(すごい)
盛り上がる席。
私は適度に相槌を打ちながら、空気の流れを読む。
【“聞き役”推奨】
【三人同時会話・介入不要】
(うん、いい感じ)
と思っていた時だった。
少し離れた席で、男性職員二人の空気が妙に重くなった。
片方は総務の人。
もう片方は新人教育担当。
表面上は笑っている。
でも視界の端に文字。
【会話温度低下】
【話題:シフト調整】
【“冗談化された不満”を検知】
(あー……)
たぶん片方が無理を押しつけられてる。
以前の私なら気づいても何もできなかった。
でも今は、“崩れる前の空気”が少し分かる。
どうしようか迷っていると——
店員のお姉さんが追加注文を聞きに来た。
【介入タイミング:今】
「っすみません、唐揚げ追加ってできます?」
私は自然に店員さんへ声をかけた。
「あ、あとポテトも!」
荒川さんが乗る。
話題が一瞬切り替わる。
その隙に、教育担当の人がふっと息を抜いた。
総務の人もグラスに口をつける。
空気が少し戻る。
【小規模衝突回避】
(よかった)
飲み会も中盤。
仕事の話から雑談へ流れ、席移動が始まっていた。
「石村さん、ちょっと詰めてー」
「あ、はい」
荒川さんが別のテーブルへ移動し、ぐるっと回ってきた西野さんに促され横にずれる。
向かいの席に座ったのは麻生さんだった。
(あ)
麻生敦子さん。
市内の別館勤務。有事の際には短期配属に来てくれる。
私より数歳上くらい。
落ち着いた雰囲気で、利用者対応の評判がいい美、人えええええええ!!??
【西野さん好感度対象:麻生さん】
【片想い状態を確認】
(マジですか)
西野さんの片思いを、思いがけず知ってしまった。
そして当の西野さんは——明らかに挙動が変だった。
「えー、と、ナ、ナニカ飲まれますカ?」
「そうですね、私はコークハイをお願いします」
「アッはい。石村さんは?」
声が半音高いよ。
「私は烏龍茶で」
【西野さん緊張状態】
【会話ミス予測:中】
麻生さんは穏やかに笑いながら「今週は本当に忙しかったですよね」 と自然に話を振る。
「アッ、はい大変でした! ね、石村さん!」
「え、あ、はい」
急にボールが飛んできた。
でも西野さんの目が『助けて』と言っている。
【会話補助提案】
【“共通話題”推奨】
(共通話題……)
「麻生さんの所の児童書コーナーの展示、面白かったですね」
麻生さんが少し驚いた顔をした。
「あ、見てくれたんですか?」
「はい。あの手作りPOP。私もですけど、利用者さんたちも魅入ってました」
「わぁ!嬉しい」
西野さんが食いつく。
「麻生さんが作ったんですか!?」
「えぇ、半分くらいですけど」
「絶っ対センスありますよ!」
勢いが強い。
少し離れた所に移った荒川さんの視線を感じる。
【好意圧上昇】
(西野さん落ち着いて)
私は唐揚げの皿をやんわりと回した。
「西野さん、これ好きですよね」
「あっ、ありがとう」
空気が少し散る。
麻生さんが小さく笑った。
「石村さん、なんか雰囲気変わりましたね」
「えっ」
突然の自身の事に驚いていると隣で西野さんが 「そうなんですよ!」 と鼻息荒く話し出す。
「利用者さんの空気読むのめちゃくちゃ上手くなって!」
(わぁ)
「この前もクレームを寸前で収めて!」
(うぉ)
「恐ろしく視野が広くなって、本当に頼もしくなっちゃって!」
(うぅ)
【羞恥ストレス上昇】
麻生さんは笑いを堪えるように肩を揺らした。
顔が熱いし居た堪れない。
少しだけ視線を上げる。
別のテーブルで荒川さんはいつも通りの顔だった。
普通に周囲とも話している。
ちゃんと笑ってる。でも。
【荒川:感情揺れ】
【“納得”と“落胆”が混在】
飲み会終了。
店を出たあと。
「石村さぁぁん」
西野さんが肩を組む勢いで寄ってきた。
「今日はありがとう!」
「近いです近いです」
「めっちゃ話せたよ!」
顔が真っ赤だ。
お酒半分、テンション半分。
「石村さん居なかったら俺たぶん変なこと言ってた……」
(実際だいぶ危うかったですよ)
「でも麻生さん優しかったなぁ……」
西野さんがへにゃっと笑う。
「めっちゃ笑ってくれたし」
「……よかったですね」
「うん」
その笑顔は、年相応というか。 いつもよりずっと幼くみえた。
少し離れた場所では、荒川さんが別部署の人たちと話していた。
けれど時折、その視線は感じていた。
【荒川の視線分析】
【対象:西野】
【荒川の西野への長期的好意を再確認】
何とも言えない気持ちになって、胸の奥が少しだけ痛む。
その時。
「西野さん、明日ぜったい二日酔いですよ」
荒川さんが呆れたように近づいてきた。
「いや全然」
「顔真っ赤ですよ」
荒川さんがいつも通りの顔で笑う。
西野さんは「大丈夫」と言いながら上機嫌で、ふらっと別の職員の方へ行ってしまった。
その背中を見送りながら、荒川さんが小さく肩を竦める。
「……今日ずっとテンション高かったですね、西野さん」
「です、ね」
「まあ、分かりやすすぎるんですけど」
疲れたように呟いて。
荒川さんはそのまま、夜空を仰いだ。
周囲の喧騒の中、静かな時間が流れる。
荒川さんが、小さく息を吐いた。
「……まぁでも、しかたないか」
夜風に紛れるくらい、小さな声。
誰に言うでもないそれは。
諦めようとしているようにも。 まだ諦めきれていないようにも聞こえた。




