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地味スキル“空気読み補助”で人生が快適になりました  作者: 野山みつ


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12/48

飲み会

~~~~~~~~~~~~~

主人公 石村紗奈


後輩  橘 百花

先輩  西野翔太

先輩  荒川菜々子


友人  山野はるか 

~~~~~~~~~~~~~   




図書館は市の施設だ。


だから年に数回、“交流会”という名の飲み会がある。

正直、私は苦手だった。


複数人との会話。

曖昧な距離感。

何を話せば正解なのか分からない空気。


以前なら絶対に隅で縮こまって終わっていた。

でも——



【会話ストレス軽減】

【無理な発言を非推奨】


 

会場は駅前の居酒屋。 仕事終わりの職員たちが次々席につく。


(えーっと百花ちゃんは不参加だし、どこ座ろうかな)


「石村さん、こっち空いてるよー」

「あ、ありがとうございます」


荒川さんに呼ばれ、その隣の席へ腰掛ける。

机を挟んで正面には西野さんがいる。


(おおっ)


「お疲れー」 「今日は飲むぞー」

「いや明日も普通に早番なんですけど……」

あちこちで笑い声が上がる。


店員さんがジョッキを並べ、唐揚げや枝豆が運ばれてきた。

私はとりあえず烏龍茶を頼みながら、そっと周囲を見る。


【現在会話グループ:4】

【推奨:聞き役65%】


以前なら、この時点で顔が引き攣っていた。

左右どちらに気を配ればいいのか、誰に話してるのか分からなくなって、変なタイミングで笑ってしまったり、逆に無反応になったり。


でも今は違う。

「いや、今週は忙しかったねー」

西野さんが枝豆をつまみながら言う。


「あ、はい。団体利用重なりましたし」

「だよね!児童コーナーずっと戦場だったじゃん」

「そうなんですよ。走る子止めるの大変でした」

荒川さんが笑う。


【共感返答を推奨】

【具体例を一つ加えると自然】


「検索機の前も列できてましたよね。案内してる途中で別の人に呼ばれて、ちょっと混乱しました」

「あったあった!」


西野さんがすぐ乗ってくる。

会話が、ちゃんと続いている。

しかも無理してる感じがない。


(すごい)


盛り上がる席。

私は適度に相槌を打ちながら、空気の流れを読む。


【“聞き役”推奨】

【三人同時会話・介入不要】


(うん、いい感じ)


と思っていた時だった。

少し離れた席で、男性職員二人の空気が妙に重くなった。


片方は総務の人。

もう片方は新人教育担当。


表面上は笑っている。

でも視界の端に文字。


【会話温度低下】

【話題:シフト調整】

【“冗談化された不満”を検知】


(あー……)


たぶん片方が無理を押しつけられてる。

以前の私なら気づいても何もできなかった。

でも今は、“崩れる前の空気”が少し分かる。


どうしようか迷っていると——

店員のお姉さんが追加注文を聞きに来た。


【介入タイミング:今】


「っすみません、唐揚げ追加ってできます?」


私は自然に店員さんへ声をかけた。


「あ、あとポテトも!」


荒川さんが乗る。


話題が一瞬切り替わる。

その隙に、教育担当の人がふっと息を抜いた。


総務の人もグラスに口をつける。

空気が少し戻る。


【小規模衝突回避】 


(よかった)
















飲み会も中盤。

仕事の話から雑談へ流れ、席移動が始まっていた。


「石村さん、ちょっと詰めてー」

「あ、はい」


荒川さんが別のテーブルへ移動し、ぐるっと回ってきた西野さんに促され横にずれる。

向かいの席に座ったのは麻生さんだった。


(あ)


麻生敦子さん。

市内の別館勤務。有事の際には短期配属に来てくれる。

私より数歳上くらい。

落ち着いた雰囲気で、利用者対応の評判がいい美、人えええええええ!!??



【西野さん好感度対象:麻生さん】

【片想い状態を確認】


(マジですか)


西野さんの片思いを、思いがけず知ってしまった。

そして当の西野さんは——明らかに挙動が変だった。


「えー、と、ナ、ナニカ飲まれますカ?」

「そうですね、私はコークハイをお願いします」

「アッはい。石村さんは?」


声が半音高いよ。

「私は烏龍茶で」


【西野さん緊張状態】

【会話ミス予測:中】


麻生さんは穏やかに笑いながら「今週は本当に忙しかったですよね」 と自然に話を振る。


「アッ、はい大変でした! ね、石村さん!」

「え、あ、はい」


急にボールが飛んできた。

でも西野さんの目が『助けて』と言っている。


【会話補助提案】

【“共通話題”推奨】


(共通話題……)


「麻生さんの所の児童書コーナーの展示、面白かったですね」


麻生さんが少し驚いた顔をした。


「あ、見てくれたんですか?」

「はい。あの手作りPOP。私もですけど、利用者さんたちも魅入ってました」

「わぁ!嬉しい」


西野さんが食いつく。


「麻生さんが作ったんですか!?」

「えぇ、半分くらいですけど」

「絶っ対センスありますよ!」


勢いが強い。

少し離れた所に移った荒川さんの視線を感じる。


【好意圧上昇】


(西野さん落ち着いて)


私は唐揚げの皿をやんわりと回した。


「西野さん、これ好きですよね」

「あっ、ありがとう」


空気が少し散る。

麻生さんが小さく笑った。


「石村さん、なんか雰囲気変わりましたね」

「えっ」


突然の自身の事に驚いていると隣で西野さんが 「そうなんですよ!」 と鼻息荒く話し出す。


「利用者さんの空気読むのめちゃくちゃ上手くなって!」

(わぁ)


「この前もクレームを寸前で収めて!」

(うぉ)

 

「恐ろしく視野が広くなって、本当に頼もしくなっちゃって!」 

 (うぅ)


【羞恥ストレス上昇】


麻生さんは笑いを堪えるように肩を揺らした。

顔が熱いし居た堪れない。



少しだけ視線を上げる。

別のテーブルで荒川さんはいつも通りの顔だった。

普通に周囲とも話している。

ちゃんと笑ってる。でも。



【荒川:感情揺れ】

【“納得”と“落胆”が混在】















飲み会終了。

店を出たあと。


「石村さぁぁん」


西野さんが肩を組む勢いで寄ってきた。


「今日はありがとう!」

「近いです近いです」

「めっちゃ話せたよ!」


顔が真っ赤だ。

お酒半分、テンション半分。


「石村さん居なかったら俺たぶん変なこと言ってた……」


(実際だいぶ危うかったですよ)



「でも麻生さん優しかったなぁ……」

西野さんがへにゃっと笑う。 


「めっちゃ笑ってくれたし」

「……よかったですね」

「うん」

その笑顔は、年相応というか。 いつもよりずっと幼くみえた。


少し離れた場所では、荒川さんが別部署の人たちと話していた。

けれど時折、その視線は感じていた。


【荒川の視線分析】

【対象:西野】

【荒川の西野への長期的好意を再確認】


何とも言えない気持ちになって、胸の奥が少しだけ痛む。  





その時。


「西野さん、明日ぜったい二日酔いですよ」

荒川さんが呆れたように近づいてきた。

 

「いや全然」

「顔真っ赤ですよ」

荒川さんがいつも通りの顔で笑う。


西野さんは「大丈夫」と言いながら上機嫌で、ふらっと別の職員の方へ行ってしまった。

その背中を見送りながら、荒川さんが小さく肩を竦める。


「……今日ずっとテンション高かったですね、西野さん」

「です、ね」

「まあ、分かりやすすぎるんですけど」

疲れたように呟いて。

荒川さんはそのまま、夜空を仰いだ。



周囲の喧騒の中、静かな時間が流れる。

荒川さんが、小さく息を吐いた。 


「……まぁでも、しかたないか」


夜風に紛れるくらい、小さな声。 

誰に言うでもないそれは。

諦めようとしているようにも。 まだ諦めきれていないようにも聞こえた。




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