第62話 勇者の悲恋路~まな板の上のコイに溺れる~
「ただいま」
ロックはパーティメンバーの帰る宿にいつも通り帰ってきていた。
「はぁ」
ロックは大きくため息をつく。
「ロック、ルートが呼んでますよ。」
ビートが不安げな表情で手招きした。
「何かしたか、俺?」
「さぁね、今ルートは上の階だよ。」
ロックは階段を駆け上がり、二階に着くや否や、ルートは二階の窓からロックを突き落とした。
「うぉっ」
ロックは戸惑いつつも受け身を取った。
「てりゃぁぁぁ」
上空からルートが大剣を振り下ろす。ロックは軽やかにそれを避けた。
「どうしたんだよ、ルート?」
目を血走らせ、明らかに冷静さを欠いているルートにロックは語り掛ける。
「俺はっ!」
ルートは叫ぶ、腹の底、いや、心の底から。
「俺は、イリスの事が好きだったんだ!」
千鳥足で彼らの傍を歩く酔っ払いも酔いを醒ますほどの、衝撃がそこにはあった。
「でも、イリスはお前に好意を抱いていたこと、イリスは俺に興味がないことなんて、分かっていた。だから、お前を信じて、イリスを譲った。そのつもりだったんだ。」
ルートは顔を俯かせた。
「今、イリスはどうしていると思う?」
不意の質問にロックは言葉を詰まらせた。
「イリスは今、病に侵され、床に伏している。」
ロックの返答を待つことなくルートは続けた。
「お前が人魚と戯れている間、お前がイリスの傍にいない間、アイツはずっと苦しんでたんだよ。お前に心配かけないように、お前が帰ってくる夜には元気でいられるように頑張ってたんだよ。」
ロックはルートに気圧され、相槌も言い訳も出てこなかった。
「それなのに、お前は、お前ってやつは……」
ルートが勢いよく拳をロックに向かって振り下ろす。
「やめろ、ルート!」
ビートの制止も振り切り、拳は放心状態のロックの頭頂部目掛けて振り下ろされかけた。
その時、
「やめて!」
イリスがルートとロックの間に割って入った。
「もう、いいの。ルート、もう、もう……。」
バタッ
イリスは糸の切れたマリオネットのように力なく倒れた。
「イリス、おい、目を覚ませ、イリス!」
ルートが意識を失ったイリスの肩を揺さぶるが返事はない。
「イリス!おい、起きろ。おい!」
ルートが必死になってイリスを起こそうとする中、ロックは罪悪感に耐えきれず、その場を去ろうとする。
「おい、待ってくれ、ロック!」
ビートがロックを呼び止める。
「お前、今置かれてる状況わかってるのか?」
ビートはロックの胸倉を掴み、壁に押し付ける。
「でも、今の俺がここに居て何ができるって言うんだよ!?」
ロックはその責任から逃げるように顔を伏せた。
「一つだけ……一つだけ、償う方法がある。」
ビートは胸倉を掴んだまま、同じように顔を伏せた。
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