第63話 とある決断~まな板の上の人魚~
早朝、虚ろな目をしたロックは今日もいつものように海岸沿いを歩いていた。
「………………」
彼は一生分悩んでいた。
「どうすればいいんだ……。」
昨夜、
「一つだけ……一つだけ、償う方法がある。」
ビートは胸倉を掴んだまま、顔を伏せた。
「人魚を殺すことだ。」
ロックに衝撃が走った。
「アリエラを殺す?冗談じゃねぇ、そんなことして何になるんだよ?」
「金になるんだ。人魚の肉は高値で取引される。それも、イリス病の特効薬とボルフェン遠征の旅費に使い込んでも、お釣りがくるぐらいには。イリスを助けたいでしょ、石化病のデマを広めた黒幕を倒すのが俺たちの旅の目的だろ。目的を見失うなよ。」
ビートは一枚のクエスト用紙を差し出す。
「丁度、こんな風に、あの人魚の討伐依頼もきている。昨日、海辺で君たちを襲った連中もそのクエストを受けた輩たちさ。」
ロックは息をのんだ。
「このクエストを俺にやれってか?」
「君が一番あの人魚に近づける人間だ。こんなチャンスは滅多に来ない。もし、引き受けないのなら………」
ビートはロックの喉元にナイフを突き立てた。
「…………少し、考えさせてくれ。」
そして、今、ロックは答えが出せないまま、また、いつもの海岸に来ていた。
(ロック………)
アリエラがロックの足元、手を伸ばせば首を絞められるほどの位置にいた。
(私を殺すの?)
ロックは忘れていた、アリエラは人の強い感情や思念を読むことができることを。
(ねぇ、そうなの?)
今の彼女には嘘はつけない。ロックは縦に首を振った。
(そっか……いいよ。)
ロックは目を見開いた。
(だって、今の私いろんな人に命狙われているから。正直、いつ、誰に殺されてもおかしくないの。だから、最期はせめて好きな人に殺されたいなって思って……)
アリエラはロックの体にしがみつく。
(ねぇ、私を殺して。)
彼女の瞳に恐れはなかった。ロックは膝から崩れ落ち、大声で泣いた。アリエラはロックをぎゅっと抱きしめた。
(私、実は嬉しいんだ、私が死んじゃうことをこんなに悲しんでくれて。私ね、ずっと一人だったんだ、だから、私が死んでも誰も悲しんでくれないんだって思ってた。でも、ロックは私が死んだら悲しんでくれる。)
ロックはアリエラを抱きしめ返した。
(ロック……………大好き……………)
アリエラは思念を通して、何かを呟いた。しかし、不思議なことに脳に直接伝わるはずの声が、波の音にかき消され、ロックには届かなかった。
波が泡を立て砂浜を行き来する。波の音、砂を踏みしめる音、この海辺にはそういった音しか存在しなかった。しかし、今日だけは違った。
ザクッ
肉を刃物で刺した音が砂浜に響いた。




