第8話 ドラゴンが街に攻めてきて、一撃で討伐されました。
累計1000PV感謝!
「あー、本当に幸せ……!」
お腹いっぱい海鮮丼を平らげたロメリアが、椅子の上でだらしなく溶けるように伸びている。
俺は空になった器を片付けながら、自然と顔を綻ばせていた。
「……? なんか、外が明るくないですか?」
窓の外をふと見やる。夕暮れのオレンジ色とは明らかに違う、禍々しい真っ赤な光が街を支配し始めていた。
ゴゴゴゴゴ……。
腹に響くような地鳴り。続いて、尋常ではない熱を帯びた空気が流れ込み、ギルドハウスの窓ガラスがガタガタと悲鳴を上げ始める。
「な、何これ……!?」
ロメリアが慌てて立ち上がった瞬間。
パリィィィン!!!
鼓膜を突き破るような衝撃波と共に、窓ガラスが粉々に砕け散った。
強烈な熱風が容赦なく室内に吹き荒れる。俺はとっさに腕で顔を覆いながら、割れた窓の外に広がる光景に目を疑った。
「嘘だろ……」
はるか上空。アスタータウンの象徴である白亜の塔の周りを、巨大な、山のような真っ赤な竜がうねりながら飛行していた。その裂けた顎から、街の家々へ向けて容赦なく紅蓮のブレスが吐き出される。
「ドラゴン……!? なんで街に!?」
「逃げるよ、ペンさん! 早くっ!」
ロメリアが俺の腕を引いて走り出そうとした、まさにその時。
ドガァァン! と、天井の一部が熱風に耐えかねて崩落した。
「きゃっ!?」
「ロメリアさん!」
崩れた梁が、避ける間もなく彼女の脚を直撃する。
ロメリアは痛みに顔を歪め、その場にへたり込んでしまった。エプロンから覗く細い足首が、赤く腫れ上がっている。
「ペンさん、先に行って……! 私は大丈夫、NPCだから復活できるし……っ」
「そんなこと言わないでください! ほら、肩を貸します!」
復活できるから何だ。
俺は強引にロメリアの細い体を抱え上げ、自分の肩に担ぐようにして崩壊しかけたギルドハウスを飛び出した。
外の街並みは、一瞬にして地獄絵図と化していた。
「レイドボスが暴走したらしい!」
「街って安全エリアじゃねえのかよ!?」
「おい、宿屋が燃えてるぞ! 逃げろ!」
プレイヤーもNPCも入り乱れ、我先にと逃げ惑っている。
そんな中、瓦礫の影で泣き叫ぶ小さな影が目に入った。この前、川辺で「大きい魚釣れたら見せてね!」と笑いかけてくれた、あの少年だ。周囲を見渡しても、親らしい姿はない。
「お兄ちゃん……! 怖いよお!」
「大丈夫だ、こっちに来い!」
俺は片腕でロメリアを支えたまま、少年の手を掴んで引っ張り上げた。
包丁一本すら握っていない両手には、竜と渡り合う力なんて欠片もない。それでも、この腕に掴める命だけは絶対に手放さないと、歯を食いしばって必死に煙の中を走り続けた。
その時、逃げる群衆の流れが、ある広場でピタリと止まった。
異様な光景が、そこにあった。
「おい、何してんだあいつ! 自殺志願者か!?」
「早く逃げねえとブレスに巻き込まれるぞ!」
周囲の制止を完全に無視し、広場の中心に立つ一人の女プレイヤーがいた。
艶やかな銀髪を無造作にポニーテールに結び、薄汚れた茶色のコートを羽織っている。
彼女は担いでいた、自分の身の丈ほどもある無骨で巨大な鉄の銃身を、地面へ容赦なく突き立てた。
ガコンッ!
金属の重々しい音が響き、銃身の左右から頑強な支えが展開され、石畳に深く固定される。
狙撃体制。銃口は、遥か上空で暴れ狂うバサルトドラゴンロードの眉間をまっすぐに捉えていた。
すぅ、と女が息を吸い込む。
「付与・低級威力上昇、中級威力上昇、上級威力上昇、軍用攻撃強化……」
脳が痺れるような超高速の詠唱。
それに呼応するように、巨大な銃身の周囲に、緑、青、赤、金と、十数個もの多重魔法陣が折り重なるようにして浮かび上がっていく。空間そのものが歪むほどの、圧倒的な魔力密度。
「……ゲェ」
突風に乗って、強烈なアルコールの匂いが俺の鼻を掠めた。
(うっ……酒臭っ!?)
誰もが息を呑み、その尋常ならざるプレッシャーに硬直する中、銀髪の女は虚ろな目で引き金に指をかけた。
「……進路クリア。オールグリーン。――発射」
ズガァァァァァァァン!!!
空間が爆ぜた。
凄まじい衝撃波が広場を吹き抜け、周囲の民家の割れ残った窓ガラスがさらに粉々に砕け散る。
放たれた一撃は、空を割る赤い一閃となって一直線に伸び――。
ドシュッ。
遥か上空で暴虐の限りを尽くしていたドラゴンの眉間に、寸分の狂いもなく突き刺さった。
「グ、ルゥ……」
天を震わせる単発の悲鳴。
バサルトドラゴンロードの巨躯は、まるで天の糸を切られた人形のように支えを失い、そのままアスタータウンの外壁の外へと真っ逆さまに崩れ落ちていった。
静寂が、街を包み込む。
周囲のあちこちで、誰かが呆けたように「……終わった?」と呟く声が漏れた。俺もロメリアも、たった一撃で消し飛んだ竜の巨躯をただ呆然と見上げることしかできなかった。
唖然とする俺たちの前で、銀髪の女は固定していた銃身をがしゃりと回収し、コートのポケットからおもむろにアルミ缶を取り出した。
プシュッ、と小気味よい音が響く。
「ふぅ……仕事終わりの一杯は最高だぜ」
ゴクゴクと喉を鳴らして美味そうに酒を飲む彼女の後ろ姿を、俺も、ロメリアも、ただ唖然と見つめることしかできなかった。
【フラミス】サービス3日目 攻略スレ Part4
0654:速報のバーバリアン
【速報】アスタータウンにドラゴン襲来。街半壊。
0655:名無しのバーバリアン
は??? 何言ってんの?
0656:名無しのバーバリアン
ガチだよ!! 宿屋も店もめちゃくちゃ燃えてる! グラフィックの気合い入りまくりでリアルに火災現場。
0657:火力のバーバリアン
それ、俺らがさっき火山でレイドしてたボスや。
急に暴れ出して、レイドエリアの範囲無視して街の方へ飛んで行っちまったんだ。
0658:名無しのバーバリアン
待て、なんで街まで来たんだよ? 暴走条件とかあんの?
0659:名無しのバーバリアン
現場に乱入したテイマーが、ボスに無理やりテイム試みたらしい。
0660:名無しのバーバリアン
は? テイマー戦犯すぎだろwww 街の修理代あいつらに賠償請求しろや!
0661:速報のバーバリアン
いや、そんなことよりドラゴン倒されたぞ。
0662:名無しのバーバリアン
は? 誰が倒したんだよ。大ギルドの合同部隊でも全滅したのに。
0663:速報のバーバリアン
それが、一撃だった。
0664:名無しのバーバリアン
一撃ィ!? そんなバカな設定あるかよ、チートか?
0665:名無しのバーバリアン
広場で巨大なライフルみたいなの地面に固定して撃ってた銀髪の女。
魔法陣十何個も重ねてて、発射の風圧だけで近くの家屋が吹き飛んでた。
0666:名無しのバーバリアン
おい、それ……もしかしてドラゴンスミスじゃね?
0667:名無しのバーバリアン
ドラゴンスミス? 誰それ。
0668:プロのバーバリアン
今上位の攻略組や生産職の間で噂になってる、ソロ専門の鍛冶師プレイヤー。
自作武器のバフ性能と瞬間火力が理論上最高値叩き出してるらしくて、色んな大手ギルドが勧誘したけど全部シカトされたらしい。
0669:名無しのバーバリアン
なんで生産職が戦闘職より火力高いんだよwww おかしいだろこのゲームwww
0670:名無しのバーバリアン
自分で最高品質の銃作って、それに付与魔法全盛りして撃ったんだろ。ロマンの塊すぎる。
0671:名無しのバーバリアン
あと、なんかめちゃくちゃ酒臭いらしいぞ、そいつ。
0672:名無しのバーバリアン
あ、俺も聞いたwww 撃ち終わった瞬間に缶ビールがぶ飲みしてたって目撃情報出てて草。
0673:名無しのバーバリアン
変人スナイパーすぎ。
でもお陰で街全滅は免れたな。
竜鍛冶師……彼女の正体は……!
だらしない年上お姉さん、お嫌いですか……?
次話、20時10分に投稿できそうです!ドラゴンのお肉、調理します。




