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第7話 お礼の海鮮丼

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 ガランから受け取った、ずっしりと重い600フラグの給金。昨日の分と合わせれば、俺の財布にはちょうど1000フラグの資金が溜まっていた。


 俺は真っ直ぐアスタータウンの中央市場へと向かい、目当ての露店を巡った。


「へいらっしゃい! 料理人ギルドの坊主じゃねえか。今日は何にするんだ?」

「これと、これと、あとこれもください!」


 昨日から目をつけていた食材や調味料を、次々と指差していく。


【アスター米】(500フラグ)

【米酢】(100フラグ)

【砂糖】(100フラグ)

【醤油】(100フラグ)

【みりん】(100フラグ)

山葵わさび】(100フラグ)


「まいどあり! 計1,000フラグだ!」


 市場を後にした俺の腕には、ずっしりとした食材の袋。それと引き換えに、財布の所持金欄は綺麗にゼロへと戻っていた。


「……稼いだばかりなのに、また一文無しか」


 思わず苦笑いが漏れる。現実の俺なら、こんな計画性のないお金の使い方は絶対にしないだろう。けれど、胸の奥から湧き上がる高揚感は抑えられなかった。

 空っぽになった財布の代わりに、俺の腕の中には夢と希望が詰まった食材がある。


 食材を大切に抱え、料理人ギルドへ戻る。

 重い木造りの扉を押し開けると、しんとしたロビーのカウンターで、案の定ロメリアがぐでーっと机に突っ伏して伸びていた。


 バタン、とドアが閉まる音に、栗色のサイドテールがぴょこんと跳ねる。


「あ! ペンさん! おかえりーっ!」

「ただいまです、ロメリアさん」

「ほーんっと! ペンさんがいなくて暇だったんだからー!」

「やっぱり、料理人って人気ないんですね……」


 俺が苦笑しながら労うと、ロメリアは頬を膨らませて机を軽く叩いた。


「そうなの! 私も外回りして『料理、興味ない!?』って色んな人に声をかけて誘ってるんだけどねー。みーんな『効率悪いから』って嫌そうな顔して素通りしていくの。しくしく……」

「それは……お疲れ様です」


 彼女は「あーあ」とわざとらしく机に頬をつけたが、こちらを見上げる目にはまだ拗ねきれない光が残っていた。


「ロメリアさん、ちょっとお聞きしたいんですけど。このギルドでお米を炊ける場所ってどこにありますか?」

「お米? もちろん共同調理場にあるよ! かまども羽釜も自由に使ってね!」


 ロメリアに案内され、俺はさっそく調理台へ食材を並べた。


 まずは【アスター米】をボウルに入れ、冷たい水で素早く研いでいく。現実では一度もやったことのない作業だが、脳内の料理動画が完璧な手際を教えてくれた。

 適切な水加減で羽釜に米を仕込み、竈に火をくべる。

 しばらくすると、パチパチと薪の爆ぜる音と共に、羽釜の隙間から真っ白な湯気が勢いよく噴き出してきた。


「わあ……! すっごくいい匂い……!」


 隣でじっと見つめていたロメリアが、目を輝かせて鼻をひくひくさせている。


 米が炊き上がるのを待つ間に、俺は合わせ酢を作る。購入した米酢に砂糖と岩塩を少し混ぜ、絶妙なバランスで調合する。

 炊き立てのツヤツヤとした白米を木桶に移し、合わせ酢を回しかける。うちわで手早く煽ぎながら、しゃもじで切るように混ぜ合わせると、ツンと甘酸っぱい、完璧な酢飯の香りが立ち上った。


 仕上げに、保存庫に入れておいたリバーパーチ、清流鮎、銀小鮒を解体し、美しく透き通る刺身へと変えていく。

 すりおろした山葵わさびを添え、醤油をひと回し。


「よし、完成だ」


 木皿の上に出来上がったのは、色鮮やかな魚の身が咲き誇る、2杯の海鮮丼。


「わーっ! おいしそう……! ペンさん、これって……」

「ロメリアさんの分です。どうぞ」


 俺が1杯の丼を差し出すと、ロメリアは「えっ!? 私の!?」と驚き、それから破顔した。


「いいの!? ありがとう!!」

「いいですよ。魚を買ってくれたお礼です。――出世払い、ですね(笑)」

「あはは! まだ出会って数日だし、全然出世してないでしょ、ペンさん(笑)」


 ロメリアは嬉しそうに笑いながら、俺の肘を「このこのー」と小突いてきた。独特の距離感の近さに少し照れながらも、俺たちは並んで手を合わせた。


「「いただきます」」


 箸で、酢飯とリバーパーチの刺身を一緒に挟み、口へと運ぶ。


「――っ」


 脳を直接殴られたような衝撃だった。

 口の中で、ほんのり温かく甘酸っぱい酢飯がホロリと解ける。そこに、引き締まった白身のコリコリとした歯ごたえと、噛むほどに溢れる濃厚な旨味が絡み合う。山葵の爽快な辛みが鼻に抜け、全体を醤油のコクが完璧にまとめ上げていた。


 これだ。これこそが、俺がずっと憧れていた、本物の日本の味――。


「んんんーーーっ!! 美味しいっ!」


 ロメリアも頬を両手で押さえ、幸せそうに足をバタつかせている。

 その時、俺の視界の端に、初めて見る毛色のシステムメッセージが出現した。


『プレイヤー調理:【海鮮丼】(品質★★★★☆)』

『特殊効果【満腹度・大回復】【集中(60分間)】【HP自然回復速度・微上昇】が生成されました』


「へぇ……」


 俺はメッセージをちらりと横目で見ただけで、すぐにもう一箸、丼へと伸ばした。


「さすがペンさん! 誰も来ないギルドだけど、ペンさんが料理人になってくれて本当に良かったぁ!」


 ロメリアは満面の笑みで丼を掻き込んでいる。


「ごちそうさまでした。本当に美味しかったです」

「うん、ごちそうさま! ペンさん、また美味しいもの作ってね!」

「もちろんです。次はもっと珍しい食材を探してきますね


【フラミス】サービス3日目 攻略スレ Part4


 0215:名無しのバーバリアン

 おい嘘だろ、氷結スカッシュ一本もないんやがwww 買い占められた?


 0216:名無しのウィザードマン

 マジで一本もないわ。夕方の入荷枠も一瞬で消えたぞ。


 0217:プロのバーバリアン

 プレイヤー間市場(トレードストア)見てみろ。定価の5倍で大量出品されてるぞ。


 0218:名無しのバーバリアン

 転売ヤー〇ね!!!


 0219:名無しのバーバリアン

 誰だよ買い占めた奴。特定して晒そうぜ。


 0220:名無しのバーバリアン

 特定班まだー?


 0221:プロのバーバリアン

 いや、今解析できる奴らが調べてるけど、トレードストアの匿名出品仕様のせいで無理っぽい。ユーザーIDすら取得できんわ。


 0222:名無しのバーバリアン

 セキュリティ強すぎだろこのゲームwww 隠蔽だけは一丁前かよ。


 0223:名無しのバーバリアン

 運営仕事するとこそこじゃねえだろ! 転売対策しろや!


 0224:火力のバーバリアン

 俺たちのギルドの資金がスカッシュだけで吹き飛ぶんだが。


 0225:名無しのバーバリアン

 買わなきゃ全滅確定だしな。理不尽すぎる。


 0226:名無しのバーバリアン

 次からは開店ダッシュ狙うしかないな……。


 0227:名無しのバーバリアン

 高みの見物で最高に笑えるわwww がんばれよトッププレイヤーさんたちwww

醤油は自作しません。なぜならまともに製造しようとすると半年近く時間がかかってしまうからです。

いやまあ、でも正直めっちゃ作りたいです……。

なお、転売したのはテイマーさんではないです。

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