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第57話 新たな展望

 今、俺はぼこぼこに殴られて顔面にいくつもたんこぶを作り、縄でぐるぐる巻きに縛り上げられた大男の前でクラーケンを油で揚げている。


 パチパチと油が弾ける。香ばしい磯の香りと旨味が混ざり合った蒸気が立ち上り、周囲の食欲を激しくそそる。


「こんな奴のお願いなんて聞く必要ないじゃないの」


 不機嫌そうに文句を言いながらもしっかり手伝ってくれるプチさん。


「まあまあ、美味しく食べてくれればそれでいいじゃないですか」

「甘いわねえ。……ほら、揚がったわよ」


 きつね色にカラッと揚がったクラーケンのイカリングを皿に盛り付け、縛られたまま床に座り込んでいる大男の前へと運んでいく。


「い、いただきます……」


 大男は縄を少し緩めてもらった手で箸を持ち、脇で冷ややかな視線を送るプチさんの方をチラチラと見てはビクビクと身体を震わせている。昼間の横暴な態度は影を潜め、借りてきた猫みたいだ。


 サクッ……。


 イカリングを一口噛み締めた大男の目からボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。


「う、うまい……うまい……っ!!」


 大男は号泣しながら、夢中でイカリングを口へと放り込んでいく。


 大男が皿をぴかぴかに拭き取るように残さず平らげたのを見届け、俺は声をかけた。


「これから料理の依頼をするときは、ちゃんと時と場合を考えてくださいね。俺もできる限りご要望には協力しますから」


「……面目ねぇ」


 大男は深々と頭を下げて、店を出て行った。


 ◇


 翌日。店の外からドドドッと地面を踏み鳴らす音が近づいてきた。


「なんだ……?」


 ガラッと扉を開けると、昨日ボコボコにされたはずの大男を先頭に、いかつい恰好をしたプレイヤーたちがズラリと一列に整列していたのだ。


「ペンタスの兄貴! プチフィーユの姉御! 先日はくそ迷惑かけました! 本当にすみませんでした!!」

「「「すみませんでしたーーーっ!!!」」」


 地響きのような大声とともに、大男と子分たちが一斉に綺麗な九十度のお辞儀を決める。近隣のプレイヤーたちが「なんだなんだ!?」と足を止めて遠巻きに見ている。


「え、ええぇ!? あの、皆さん頭を上げてください……!」


 俺が困惑していると、後ろから腕まくりをしたプチさんがぬっと顔を出した。


「ちょっとあんたたち! そこにいたら邪魔よ! 退いてなさい!」

「御意っ! すぐに――おい! お前ら撤退だ!!」

「「「ハッ!!」」」


 大男の号令一発で、子分たちは一糸乱れぬ動きで素早く撤退の陣形を組むと嵐のように去っていった。


「まったく……営業妨害もいいところね」

「あはは、でも反省してくれたみたいで良かったです」


 今日からプチさんは正式に厨房に立っている。

 カウンターはいつにも増して騒がしい。


「フィーユちゃん、もう料理は運んでくれないのかい……?」

「フィーユちゃんは次のステージへ上がってしまったんだよ……もう俺たちとは住む世界が……」

「はあ!? もう、うるさいわねえ! ほら、ご注文のポークソテーよ! 冷めないうちに持っていきなさい!」


 プチさんが厨房のカウンター越しに、出来立ての料理を笑顔とともに手渡す。


「あ、ありがたき幸せ……っ!」

「なんて幸運なやつだ! フィーユちゃん、厨房でも頑張ってね!」

「ふふん! 当たり前じゃない! 私はここでしっかり修行を積んで、ケーキ屋を開くのよ!」

「開店したら毎日通わせていただきます!!」


 そんな中、料理を待っていた常連のプレイヤーがふと思い出したように俺へ話しかけてきた。


「それにしても料理人君、昨日のあの氷雪鳥って一体なんだったんだい?」

「あ、氷雪鳥ですか? 俺もあまり詳しくは……」

「氷雪鳥ってたしか、氷雪島のレイドボス級モンスターじゃなかったか?」

「えっ、レイドボス……!?」


 俺が目を丸くすると、隣の席の客が口を挟んできた。


「いや、昨日のやつはレイドボスより一回り小さかったぞ」

「ああ、あれだろ。噂に聞く刷り込みテイムじゃないか? 卵から孵化させて育てると人間に懐くっていうやつ」

「あったなそんな仕様! でもあの氷雪鳥の巣から卵を盗み出すなんて、相当やな」

「料理人君はいつの間にそんな凄腕の卵泥棒になってたんだい?」


「い、いや違いますって! あれは俺のじゃなくてアザミさんの鳥です!」

「ほう……アザミさんか。それにしても、こっちの島まで連れてくるなんて、物好きもいたものだなあ」


 客たちは感心したようにうなずき合い「それじゃ、ごちそうさま!」と席を立った。


「はーい、ありがとうございましたー!」


 プチさんの元気な声が響く。


 客たちが去った先へ視線を向ける。

 昨日より明らかに人が多い。


「ペンさん」


 隣を見るとロメリアも窓の外を眺めていた。


「今日……なんか店の前に人がいっぱい集まってない?」

「……みたいですね」


【フラミス】氷雪島山登りスレ Part7


 112:名無しの探索者

 やっぱりここから登れないな


 113:名無しの探索者

 俺もそこで止まる。なんか見えない壁に阻まれてるよな


 114:名無しの探索者

 氷雪鳥で飛んでるけど同じ高度で止まるわ


 115:名無しの探索者

 やっぱり上になにかあるよな?


 116:名無しの探索者

 うん、雲の上になんか都市があるのは見える。


 117:名無しの探索者

 またアップデートで追加されるんか?


 118:名無しの探索者

 だとしたらこの山登らされるってことだよな?かなりきつくないか。


 119:名無しの探索者

 初心者足切りみたいなもんやろ。山登れないやつに資格なし的な。


 120:名無しの探索者

 いまのうちの氷雪鳥手に入れといたほうがいいか?


 121:名無しの探索者

 あ、俺もそれ知りたい。


 122:名無しの探索者

 今日もアスタータウンで飛んでたやつ見かけたんよな。楽しそうやった。


 123:名無しの探索者

 ggrks


 124:名無しの探索者

 いや攻略サイトに載ってねえんだよ。


 125:名無しの探索者

 それはすまんかったわ。巣から卵盗み出すだけや。簡単じゃろう?


 126:名無しの探索者

 簡単じゃねえよw

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