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第54話 アザミの秘密基地

 イカリングパーティーの嵐が過ぎ去って、店内には心地よい静寂と、香ばしい油と魚介の残り香が漂っていた。大皿に山盛りだったクラーケンリング揚げは綺麗に平らげられ、満足気な溜息をつきながら常連客たちが次々と店を後にしていった。


 カウンターの端を片付けていたロメリアが、ふと思い出したように振り返る。


「ぺんさん、まさかアザミちゃんと知り合いだったなんて驚いたよ!」

「知り合いというか――」


 俺が返答に困り、苦笑いを浮かべかけたその時だった。


「友達! 私とペンタスさんは友達なんだよっ!」


 カウンターにちょこんと座っていたアザミが、満面の笑みで身を乗り出してきた。

 あまりにも堂々とした宣言に、俺は「まあ、そう……なのか?」と頭を掻くしかない。


「アザミちゃんはいっつもかくれんぼしてるのによく見つけたねえ、ペンさん」

「俺が見つけたっていうか……」

「ペンタスさんはねー、アザミの秘密基地で一緒にお料理してくれたんだよ! 戴天鯸の刺身、美味しかったね!」


 悪びれもなく無邪気に放たれたその言葉に、厨房の奥で大鍋を洗っていたガランの手がピタリと止まった。


「……坊主、フグを捌けるのか!?」

「まあ、多少は……」


 ガランが驚愕の眼差しで俺を見つめる。


「そいつぁすごいな。ここら辺でも奴を捌けるのは一握りしかいねえぞ」

「ガランさんはいけるんですか?」

「俺は細かい作業はからっきしだ。坊主が羨ましいぜ」


 ガランの心底感心したような言葉に、俺は少し気恥ずかしそうに視線を泳がせた。

 そこへ、腕を組んで話を聞いていたロメリアがピョンと手を挙げる。


「はいはーい! 質問! ぺんさん! 戴天鯸の刺身ってなんですか?」

「アザミさんの――秘密基地? にあったものを捌きましてね」

「それ、すっごい毒があるんだよ! リンちゃんのクナイの毒にも使ってるの! それなのにペンタスさん、食べられるように捌いちゃったの! すごいでしょー!」


 えっへん、となぜかアザミが誇らしげに胸を張る。

 しかし、その会話を黙って聞いていたプチさんの顔色が、徐々に変わっていった。


「……ちょっと待ちなさいよ」


 ぷしゅー、と頭から湯気を吹き出しそうな勢いで、プチさんがアザミと俺を交互に指差す。


「あんたが言ってた誘拐犯って……こいつらのことじゃないの!? 何のんきに友達になって料理なんて作ってんのよ!?」

「そうですよ?」

「そうですよ、じゃないでしょ!!」

「でも、悪い人たちじゃないですよ? プチさんだって、さっきリンさんに助けてもらったじゃないですか」

「ま、まあ……そうだけど! というか、そのリンとか言った人、さっきから全く喋らないわね!」


 プチさんの視線を受けたリンは、視線を向けることもなく、ただ静かに佇んでいる。しかし、プチさんが不満そうに口を尖らせると、リンはほんの僅かだけ、意図を汲むように小さく頷いて見せた。


「……まあいいわ。さっきは、助けてくれてありがとう」


 プチさんが恥ずかしそうに目を逸らしながら礼を言うと、リンは再び静かに深々と一礼した。


「もう……調子狂うわね、本当」


 毒気を抜かれたプチさんがハァと息を吐き出す。

 そこへ、ロメリアが目を輝かせながらアザミの前に躍り出た。


「アザミちゃん! 私もその戴天鯸の刺身、食べてみたい!」

「ロメリアも食べたいの!? じゃあ、アザミの秘密基地に三名ごあんなーい!」


「えっ」と声を上げる間もなく、アザミは俺とガランの腕をキュッと掴み、店内から勢いよく引っ張り出そうとする。


「ちょっ……私は!?」


 取り残されたプチさんが叫ぶと、アザミは足を止め、人差し指を口元に当てて首をかしげた。


「えー? どうしよっかなー?」

「ちょっと待ちなさいよー!」


 顔から蒸気を出しながら追いかけてくるプチさんを見て、アザミは「きゃー、こわーい!」と声を上げ、そのまま俺の腰にぎゅっと抱きついた。


 やわらかな感触と、どこか薬草と甘い香料が混ざったような香りが鼻をくすぐる。


「っ……!?」


「ちょっと離れなさいよ! てかペンタス、なんで顔真っ赤にしてんのよ!?」

「……い、いやあ……その、不意打ちと言いますか……」


 賑やかな喧騒を乗せて、夜の風が穏やかに街並みを抜けていった。


【フラミス】サービス25日目 雑談スレ Part13


 120:名無しのバーバリアン

 イカリングパーティーごちそうさまでした!


 121:名無しのバーバリアン

 旨かった、にしても潜在能力解放ってなんだ?


 122:名無しのバーバリアン

 最近その質問してくるやつ多すぎる。


 123:名無しのバーバリアン

 上位職の解放とスキル取得の前提条件となるやつだよ。クラーケン倒すと手に入るの。


 124:名無しのバーバリアン

 はえーさんがつ。


 125:名無しのバーバリアン

 で、クラーケン倒して手に入ったってことなん? おめでとさん。


 126:名無しのバーバリアン

 は? 倒してないが?


 127:名無しのバーバリアン

 意味わかんね、まあいいや。


 128:名無しのバーバリアン

 よくねえよ、俺クラーケン何体も倒してんのにまだ手に入んねえ。


 129:名無しのバーバリアン

 こいつらが言ってるのってあれじゃね? 都市伝説の料理人の。


 130:名無しのバーバリアン

 あれ、ガチで信じてるの? ガセネタだろ


 131:名無しのバーバリアン

 実在するんだなあこれが。


 132:名無しのバーバリアン

 うせやろ!?


 133:名無しのバーバリアン

 黄金の鍋行って来いよ。今なら営業終わってるだろうから、多分頼めばやってくれる。


 134:名無しのバーバリアン

 まあ、騙されたと思っていって来いよ。

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