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第49話 まな板の上の料理人

「つまり……クラーケンを調理すればいいということなんですね」

「はい……!」


 俺が恐る恐る確認すると、女は瞳を爛々と輝かせて頷いた。


(今作れるものは……)


 手持ちの調味料を確認した。

 バター、醤油、塩、にんにく、サラダ油、そして……さっき市場で手に入れたラム酒。


(揚げ物ができるほどの油はここには持ってきてないな。……ん?)


 ラム酒の瓶に目を留め、俺はハッとした。


(待てよ、ラム酒は香りが強すぎるし……そもそもこれ、市場でまだ支払いをしてないやつだ。ちゃんとお店に返さないと……!)


(……良し、フライが無理なら、バター醤油炒めでいこう)


 俺は息を吐くと、用意されていたクラーケンの肉片に向き合った。


 まずはクラーケンの肉片に多めの塩を振り、手で揉み込んでいく。表面のぬめりと汚れを粗塩で巻き取り、水で綺麗に洗い流した。臭みを嗅いでみる。


(……うん、この程度ならニンニクと香ばしさで完全にカバーできるな)


 クラーケンの肉をまな板に載せ、小指ほどの太さの短冊状に手際よく切り分けていく。

 熱したフライパンにサラダ油を引き、カットしたバターとすりおろしたニンニクを投入。香りが立った瞬間に、短冊状のクラーケン肉を滑り込ませた。


 ジュワァァァッ!!


 激しい音と共に、ニンニクとバターの芳醇な香りが狭い洞窟内に一気に広がる。

 肉の色が狐色に変わり始めた絶妙のタイミングで、鍋肌から醤油を回し入れた。


 ジュッ、と香ばしい焦がし醤油の匂いが爆ぜる。全体を素早く煽って馴染ませ、器に盛り付けてから、仕上げにさっと塩をひと振り。


「クラーケンのガーリックバター醤油炒め、完成です」

「わぁ……! いただきます!」


 女が目を輝かせてフォークを伸ばそうとした瞬間。


 スッと無言で割って入ったのは、リンだった。


「毒味を」

「もう、リンちゃん大丈夫だってば。ペンタスさんがそんなことするわけないでしょ?」


 女性は苦笑しながらフォークを受け取り、クラーケンの肉を口へと運んだ。


 芳醇なバターのコクと、ガツンと鼻を抜けるニンニクの旨味。そこに焦がし醤油の塩気が完璧なバランスで絡み合い、噛み締めた瞬間にクラーケン特有の弾力ある歯ごたえから熱い肉汁が溢れ出す。


「ん〜〜〜っ! おいしい……! すごいです、こんなに柔らかくて美味しいなんて……! 君に頼んで大正解だったよ!」

「それは……どういたしまして」


(頼んだっていうか、強引に拉致されて連れてこられたんですけどね……)


 心の中でツッコミを入れつつ、俺は意を決して本題を切り出した。


「ところで……料理もお作りしましたし、俺はこれで解放してもらえるんでしょうか?」

「えっ? まだだよ!」


 女は心外だと言わんばかりに目を丸くした。


「私、あのイカリングが食べたくて君を呼んだんだよ? あれを楽しみにしてたのに!」

「そうですか……ですが、あいにくフライを作れるだけの油が手元になくてですね……」


 俺が困ったように言うと、女は「そっかぁ……」とわかりやすく肩を落とした。


「今度、落ち着いたらお店に来てもらえれば、好きなだけお作りしますよ!」

「ほんと!?」


 パッと顔を明るくする女。しかし次の瞬間、ふと何かに気づいたように表情を曇らせた。


「でも……お店かぁ……。人、いっぱいいるよね?」

「はい! ありがたいことに、毎日たくさんのプレイヤーさんで賑わっていますよ!」

「そっか……そうだよね……」


 どこか寂しげに、そして暗いトーンで呟く女。

(……? なんだろう、人混みが嫌いなのかな?)


「今、お店に返してもらえれば、すぐにでも材料を揃えて作りますよ!」

「ううん、大丈夫! リンちゃん、油買ってきてもらえる?」


 リンが無言で深く頷き、洞窟の外へ出て行った。


「あ、ちょっと待ってください! クラーケンのフライにはヘルフレイムオイルっていう特殊な専用油が必要で、市場には売ってないんです! だからお店に帰らせてもらえれば――」

「そっか……そっか、大丈夫だよ! それも用意してもらうよう頼むから」


 微笑む女の瞳は、どこか焦点が合っていなかった。


(どうしよう……俺、ここから出してもらえるんだろうか……)


 焦りと冷や汗が背中を伝う。俺は部屋の中を理由もなくうろうろと歩き回った。


「あ、あの……このラム酒なんですけど……実はまだ支払いを済ませてなくて。お店の人に返しに行きたいんですが……」

「そっか。それもリンちゃんに頼んでおくね」

「あ、ハイ……ありがとうございます……」


 洞窟内に静寂が訪れる。

 不安を紛らわせるように部屋の奥へ視線を向けると、そこには大量に凍結されたモンスターの死骸が山積みになっていた。


「それにしても……すごいいっぱいのお肉の山ですね」

「でしょでしょ! 私とリンちゃんと……うん! 君が必要なら、好きなだけ使っていいよ!」


 自慢気に胸を張る女。

 よく見ると、クラーケンの触手だけでなく、見たこともない巨大魚や甲殻類の素材が、最高の状態で冷凍保存されている。


(……え? この未知の食材、全部使っていいのか……!?)


 ゾクゾクと血が騒ぐのを感じる。


(……いや待て! 俺は今誘拐されてる最中なんだぞ!? プチさんたち、心配して探し回ってないかな……)


【フラミス】サービス23日目 雑談スレ Part11


 70:Nameless Barbarian

 ニンジャギルドドコデースカ


 71:名無しのバーバリアン

 忍者ギルドはないよ、盗賊ギルドじゃないか?


 72:名無しのバーバリアン

 盗賊ギルドって、あのドラゴン襲撃以降修復すらされてない所か。

 ジョブパワー的に修復する金くらい用意できてもおかしくないんだけどなあ。


 73:名無しのバーバリアン

 あえて修復せずに放置してる説はあるな。


 74:Nameless Barbarian

 ニンジャ、ドコ隠れてるデスカ!


 75:名無しのバーバリアン

 鍛冶師ギルドに忍者いなかったか?


 76:名無しのバーバリアン

 あれはただのコスプレだろwww


 77:筋肉のバーバリアン

 いや、あの人はガチ忍者だよ。


 78:名無しのバーバリアン

 お、マッチョおひさ。


 79:筋肉のバーバリアン

 おう久しぶり。なんでも盗賊ギルドから逃げて来たらしいぞ。


 80:名無しのバーバリアン

 なんで逃げてきたんw


 81:筋肉のバーバリアン

 さあ、理由までは聞いてないがな。


 82:名無しのバーバリアン

 受付もいないしどうなってんだよあのギルドwww


 83:名無しのバーバリアン

 受付がいないと言えば料理人ギルドもなwww


 84:名無しのバーバリアン

 ロメリアちゃんはもう黄金の鍋の看板娘でしょwww


 85:魔法使いギルド総帥

 そういえば鍋のとこの料理人見かけないわね 買い出し行ったきり戻ってないらしいけども。


 86:名無しのバーバリアン

 >>85

 誰?


 87:魔法使いギルド総帥

 ペンタスとか言うやつよ。


 88:名無しのバーバリアン

 総帥が直々にお探しとは罪な料理人ですなw


 89:名無しのバーバリアン

 素材集めでもしてんじゃね?鮮度が命だぁああ!とか言ってw


 90:名無しのバーバリアン

 彼、そんなキャラだったっけw


 91:名無しのバーバリアン

 まあ言ってそうな気もしなくはない。

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― 新着の感想 ―
料理人君、プレイ阻害されてるようなもんだからGMコールとか出来ないんだろうか。
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