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第48話 誘拐された料理人

「あった……ラム酒だ!」


 賑やかな市場。俺は棚に並べられたボトルを手に取り、そのラベルを見つめていた。

 氷雪島の大型アップデート以降、市場には新しい調味料や酒類のバリエーションが一気に増えた。この深く芳醇な香りを纏ったラム酒やブランデーがあれば、洋菓子の幅も、ソースの深みも格段に広がるはずだ。


「これがあれば、次はどんなお菓子を作ろうか……」


 妄想を膨らませていた、まさにその時だった。


 ――ガサッ!!


 突然、頭上から視界が真っ暗になった。

 臭い麻袋のようなものを強引に頭から被せられたかと思うと、浮遊感。


「ぐえっ!?」


 そのままドサリと、丸太のような太い腕で俵担ぎに持ち上げられた。


(な、なんだ!? これって……誘拐!!?)


 心臓がバクバクと暴れ出す。手足をばたばたと暴れさせて抵抗を試みるが、俺を担ぐ腕はまるで鉄の万力のように固く、身動き一つ取れない。


 パニックになりかける頭の片隅で、ふと重大な事実に気づき、俺は青ざめた。


(やばい……俺、このラム酒の支払いをしてない……! 無銭持ち逃げになっちゃう……!!)


 ◇


 数分後。


 ズシンと地面に降ろされ、手首を力任せに手縄で縛られた。頭の袋が外されるが、すぐさま分厚い布で目隠しを施される。


「このまま歩け」


 背後から低く、冷淡な女性の声が響いた。背中にツンと刃物のようなものが突き立てられる感触が伝わってくる。


「ひ、はい……!」


 視界を奪われたまま、背中の刃物に押されるように歩かされる。

 不規則な段差や階段につまづき、足元を取られながら必死に前へ進む。


 ――どすっ。


「ぶへっ!?」


 急に目の前に現れた何か柔らかいものに顔面から激突し、盛大に尻もちをついた。


「フヒッ……!!」


 頭上から、変な吐息のような声が漏れた。


「……コホン。あなたが噂の料理人で間違いないかしら?」


 氷のように冷たく澄んだ声。


 困惑する俺の耳に、コソコソとした小さな話し声が届く。


「筋の情報によると……確かペンタスというようです」

「そ、そう……ありがとうね。……コホン! あなたがペンタスさんで間違いないかしら?」

「は、はい」


 引きつった喉から声を絞り出す。


「ふふ……お待ちしておりましたよ」


 目隠しがサッと外された。

 光に目を細めながら周囲を見渡す。そこは湿度が高く、薄暗い洞窟のような場所だった。


 目の前に立っていたのは、身軽そうな黒装束に身を包んだ、細身の美しい女性だった。

 ただ、その整った顔立ちとは裏腹に、彼女の瞳はどこか尋常ではない熱を帯び、うっとりとトロンと潤んでいる。


 その背後には、俺をここまで担いで運んできたと思われる、見上げるような大柄な黒装束の女が立っていた。


「そんなにきょろきょろしても、面白いものはありませんよ」


 女がそっと手を伸ばし、俺のアゴを掴んで強引に正面を向かせた。


「潰しますか?」


 後ろの大女が淡々とした声で、長刀のようなナイフを俺の目元ギリギリに突き出してきた。


「だ、ダメだよリンちゃん! 優しくしてって言ったでしょ!?」

「……」


 リンと呼ばれた大女は無言でナイフを引く。

 女は「ふふ」と微笑むと、洞窟の奥へと歩き出した。


「お前もぼさっとしてないで立て」


 リンに手縄をグイと引っ張られ、言われるがまま奥の部屋へと連行される。


 奥に進むと、そこは思いのほか広大な空間だった。

 生活用のベッド、大量に凍結されたモンスターや動物の死骸の山、そして――。


(……え? 調理場……?)


 そこには、プロの厨房顔負けの調理器具や作業台が整然と並んでいた。


 ガチャリ、と後ろで重々しい鉄格子の鍵が閉められる音。


「リンちゃん、縄をほどいてあげて」

「ですが……」

「大丈夫だって。……君は、逃げたりしないよね?」


 女がクルリと振り返った。


 その瞬間――。


 彼女の瞳から光が失われた。底知れず暗く冷たい瞳。全身の毛穴が収縮するような、殺気と底なしの恐怖が俺を襲う。


「は、はいっ! 絶対に逃げません……!」

「よかったぁ……!」


 パッと花が咲くように、彼女の瞳に温かな光と笑顔が戻った。


「ほら、大丈夫だったでしょ、リンちゃん?」

「……」


 リンは無言のまま、俺の手縄をナイフで手際よく切り解いた。自由になった手首を擦りながら、俺は冷や汗を拭う。


「あ、あの……質問をしてもいいでしょうか……?」

「ええ、なんでもどうぞ!」

「俺は、なんでこんな場所に連れてこられたんですか……? 俺はただの料理人で……」


 俺が恐る恐る尋ねると、女は心底嬉しそうに両手を胸の前で合わせた。


「もちろん、あなたに料理をお願いするためですよ」

「料理……ですか?」

「ええ。あなた……以前、あのクラーケンを調理なさったでしょう?」


(え……?)


 俺は思わず首を傾げた。

 クラーケン。確かに以前、クラーケンリングやイカ墨パスタを作ったことはある。


「あ……はい。クラーケンなら、確かに調理しましたけど……」


 俺がそう答えた瞬間。


 彼女は頬を染め、トロンとした瞳で熱い吐息を漏らす。


「やっぱり……噂は本当だったのですね……! あの料理を作ったのは、あなただったのですね……!」


 ◇


【フラミス】サービス23日目 雑談スレ Part11


 54:名無しのバーバリアン

 今日、市場で人さらい見かけたんだけどマジ?


 55:名無しのバーバリアン

 どこでだよ。


 56:名無しのバーバリアン

 アスタータウンの市場。

 なんか黒い袋担いだ、忍者みたいなやつが猛スピードで走り去っていったぞ。


 57:Nameless Barbarian

 ニンジャ!? ニンジャどこにイマースカ!?


 58:名無しのバーバリアン

 外人落ち着けwww


 59:Nameless Barbarian

 ソレガーシもニンジャになりたいでゴザル!


 60:名無しのバーバリアン

 忍者って確か、盗賊系の上位職じゃなかったっけ?

 剣士からも派生できる隠しルートがあるとか言われてるやつ。


 61:Nameless Barbarian

 ニンジャ、ソードマン理解!


 62:名無しのバーバリアン

 知り合いに忍者職に就いたヤツいた気がするんだけど、名前が思い出せん。


 63:名無しの弓兵

 てか人さらいとかヤバすぎだろ。通り魔PKも流行ってるし世末だな。


 64:名無しのバーバリアン

 なにそれ怖。もう夜中歩けないわ。


 65:名無しのバーバリアン

 昼間でも襲われるから気をつけろよ。

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― 新着の感想 ―
誘拐は犯罪では、、、?!人がいいから料理しちゃいそうだけど、ちゃんと成敗されてくれ〜、、、
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