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第45話 甘い誘惑

 翌日の営業が終わったあと、俺は厨房で腕を組み、浮かない顔で考え込んでいた。


「なに難しい顔してんのよ、料理人」


 片付けを終えたプチさんが、不思議そうに覗き込んでくる。


「いえ……何か新しい、面白いレシピはないかなぁと思いまして」

「そうね。私も魚ばっかりでちょっと飽きてきたわ」

「嬢ちゃん、それならうちのオーク肉のグリルでも焼いて食うかい?」


 ガランが厨房の奥から声をかけてくれたが、プチさんは即座にブンブンと首を振った。


「肉ばっかりでもダメ! もっとこう……甘いものよ!」

「甘いもの、ですか……」


 俺は少し思考を巡らせ、ピコンとアイデアが浮かんだ。


「ケーキ……作ってみましょうか!」

「ケーキ!?」


 配給用の桶を洗っていたロメリアが、バッと勢いよく振り向き、宝石のように目を輝かせた。


 さっそく調理に取りかかる。


 まずはスポンジ生地作りだ。

 小さく刻んだバターと牛乳を耐熱容器に入れ、室温でじっくりとなじませて溶かしておく。次にボウルへ生卵を4つ割り入れ、グラニュー糖と上白糖を加える。


 ――シャカシャカシャカシャカッ!


 泡立て器を勢いよく走らせる。黄色い液体だった卵液は、空気をたっぷりと巻き込みながら、徐々に白く滑らかな泡へと姿を変えていった。


「うわぁ! 色が変わってきたよ!」


 興奮気味のロメリアを横目に、ザルを通した薄力粉を丁寧に振るい入れる。木べらで切るように混ぜ、先ほど溶かしておいたバターと牛乳を加えると、甘く優しい香りを漂わせた艶やかな生地が完成した。


 それを円形の型に流し込み、温めておいたオーブンへ。


 ――チーン!


 こんがりと綺麗な狐色に焼き上がったスポンジを取り出す。

 指先で軽く押してみると、しっとりとした質感と共に、吸い付くようなもっちりとした弾力が押し返してきた。


「次は生クリームですね」


 ボウルに冷えた生クリームとゼラチン、砂糖を加え、泡立て器で一気に空気を含ませていく。


 ――バシャッ、パチッ!


「わっ! クリームが飛んできた!」

「きゃっ!?」

「あ、すみません! ラップをかけるのを忘れてました!」


 飛散防止のラップをボウルにしっかりと張り、再びシャカシャカと力強くかき混ぜる。

 程よくとろみがついたところで、半分を絞り用として冷蔵庫へ。土台用の残り半分はさらに泡立て、角が立つくらいしっかりとした固さにして冷やす。


 冷ましておいたスポンジを、波刃のナイフで横方向にすっぱりと二分する。

 きめ細かい気泡が美しく並んだ、鮮やかな黄色の生地が顔を出した。甘酸っぱいイチゴを包丁で四等分に切り分けておく。


 型の中にクリームを入れ、そこへ切り分けたスポンジをグイグイと押し込んでいく。

 とろりとしたクリームの海に沈み込むスポンジの上に、真っ赤なイチゴを敷き詰め、上からさらにクリームを追加。もう一枚のスポンジで蓋をし、密着させるようにラップをして冷蔵庫へ放り込んだ。


「よし、これで三時間冷やします」

「えぇーっ!? 三時間も待つのー!?」


 ロメリアががっくりと肩を落とす。


「料理ってのはな、待つ時間も含めてご馳走なんだよ」


 ガランが料理の下準備をしながらフッと笑う。


 三時間後。


 冷蔵庫から土台を取り出し、周囲の型紙をペリペリと剥がしていく。

 真っ白で滑らかな生クリームの衣を纏った、綺麗なホールケーキの土台が姿を現した。そこへ冷やしておいた絞り用のクリームで縁取りを施し、中央に大ぶりのイチゴを惜しげもなく並べる。


 ショートケーキの完成。


 包丁を入れようとした瞬間――。


「待って料理人! 写真撮らせて!」


 プチさんが慌てて割り込んできた。

 カメラを構え、上から、横から、斜めから、パシャパシャと情熱的な手つきで何枚も撮影していく。


「早く食べようよー! もう待ちきれないよー!」


 フォークを両手に持ったロメリアが、今にも涎を垂らしそうな顔で足踏みしている。


「もうっ、分かったわよ!」


 撮影を終えたプチさんが満足そうに頷き、俺はナイフでケーキを綺麗に四等分へ切り分けた。断面から、真っ白なクリームに包まれた鮮烈な赤のイチゴが覗く。


「「「いただきます!」」」


 フォークをナイフに見立て、ケーキの端をすっと切り取る。空気をたっぷりと含んだスポンジは驚くほど柔らかく、重力すら感じさせない手応えで刃が沈んでいった。


 口に入れた瞬間――。


 ふわっと解けるスポンジの儚い食感と同時に、後味の軽やかな上品な甘さと、濃密なミルクの風味が口いっぱいに広がる。

 さらにイチゴを噛み締めれば、果肉がプチッと弾け、甘酸っぱい濃厚な果汁がブワッと溢れ出した。その甘酸っぱさが、クリームの甘みをキュッと引き締め、絶妙なグラデーションとなって脳を揺さぶる。


「んん~っ!! おいし~い!!」


 ロメリアは一番上のイチゴから贅沢にパクリと頬張り、幸せそうに頬を緩ませている。

 ガランはというと、豪快に四等分のひとつを丸ごと口に放り込み、ゴクンと飲み込んで満足そうに髭を撫でた。


 ふと横を見ると、プチさんは切り分けられた自分のケーキを、まだいろんな角度からパシャパシャと撮影していた。


「プチちゃん、食べないなら私が貰っちゃうよ~?」

「だめよ! あんたはもう一個食べたじゃない! この食いしん坊!」

「え~! ぺんさ~ん、プチちゃんが酷いよ~!」

「あはは……」


 賑やかなやり取りに苦笑していると、ロメリアが興奮冷めやらぬ様子で俺の手をギュッと握りしめてきた。


「それにしてもぺんさん、ケーキまで作れるなんて凄すぎるよ! ねぇ、私と一緒にケーキ屋さん始めない!?」

「おいおいロメリア、坊主はうちの最高戦力なんだからそう簡単にはやらねぇぞ? ……なんなら、このショートケーキをうちのメニューに出すか?」

「さすがに黄金の鍋でケーキは場違いじゃないですかね……?」

「ガハハ、冗談だよ坊主。まあ、お前がどうしてもケーキ屋をやりたいって言うなら、俺は応援するけどな」

「ほら! ぺんさん、ケーキ屋さん真面目に考えておいてね!」

「は、はあ……」


 俺は手元のショートケーキをもう一度見つめた。


 魚料理、肉料理、野菜、そして……甘いスイーツ。

 この世界には、まだまだ食べたことのない料理、作ったことのないレシピが山ほど眠っている。


(全部知りたい。全部作って、みんなに食べてほしいな)


【フラミス】サービス22日目 雑談スレ Part12


 201:名無しのバーバリアン

 [画像]


 202:名無しのバーバリアン

 イチゴのショートケーキだー。


 203:名無しのバーバリアン

 美味しそう!どこで食べれるの!?


 204:名無しのバーバリアン

 >>201

 おーい?


 205:名無しのバーバリアン

 探したけどケーキを扱ってる店なんてなかったな。


 206:名無しのバーバリアン

 201め、美味しそうな画像だけ置いていきやがって。


 207:名無しのバーバリアン

 普通に近所のケーキ屋行って来いよ。


 208:名無しのバーバリアン

 ばかいえ、現実で食ったら太っちまうだろうが。


 209:名無しのバーバリアン

 お前どれだけ食べる気なんwww


 210:名無しのバーバリアン

 そら気絶するくらい。


 211:名無しのバーバリアン

 そんなゲームの楽しみ方してるやつ初めて見たわ。


 212:名無しのバーバリアン

 よーしケーキ作れる料理人見つけた奴には10万フラグやろう!


 213:名無しのバーバリアン

 言ったな!俺心当たりあるからちょっと声掛けてくるわ。

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