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第43話 自信作

 いつも通りの営業が始まって間もなく、店の扉が勢いよく開かれた。


 ――ぴくっ。


 テーブルを拭いていたプチさんの小さな肩が揺れる。

 入ってきたのはプチさんのお姉さんだ。今回は迷わず厨房が真っ先に見渡せるカウンターの一等席へストンと腰掛けた。


「川魚のお寿司を注文するわ!」


 開口一番、堂々と叫ぶお姉さん。配給の手伝いをしていたロメリアが困ったように微笑む。


「悪いな嬢ちゃん、うちの通常メニューじゃそんなもん取り扱ってねぇよ」

「そんなわけないでしょ! さゆりなら作れるんだから!」


 ガランに断られても、お姉さんはふふんと誇らしげに胸を張っている。


「ないもんはないんだ」


 次々と押し寄せる客の注文に対応するため、厨房のガランも忙しそうに包丁を振るい続ける。あまりのしつこく店内を覗き込むお姉さんに見かねて、お盆を抱えたプチさんがトコトコと歩み寄ってきた。


「……お姉ちゃん」

「さゆり!」

「閉店まで、そこで静かに待ってて」


 それだけ短く伝えると、プチさんはくるりと背を向けて料理運びの仕事へと戻っていった。

 お姉さんは一瞬口を尖らせたものの、それ以降はおとなしく席に座り直し、退屈そうに顎を突き出しながら厨房の様子をじーっと覗き込んで時間を潰していた。


 やがてピークが過ぎ、営業終了の札が掲げられる。


「店長、今日も厨房を借りていいかしら」

「おうよ、好きに使え」


 ガランの許可を得ると、プチさんは真剣な眼差しでまな板の上のリバーパーチに包丁を向けた。カウンターから身を乗り出し、食い入るようにその手元を見つめるお姉さん。


 ――サクッ、サクッ……。


 ぎこちなさは残るものの、迷いのない包丁さばき。ウロコを散らすこともなく、腹にすっと刃を通し、中骨に沿って滑らかに身を滑らせていく。


「……ほう」


 ガランが感心したようにそのスキンヘッドを揺らした。

 炊きたてのご飯で作った甘酸っぱい香りの広がる酢飯に、美しく切り揃えた身を乗せ、小骨を綺麗に抜いた川魚のお寿司が完成する。


「……はい」


 ことり、とお姉さんの前に皿が置かれた。

 だが、お姉さんは料理を見つめたまま、じーっとプチさんの方をちょろちょろと見返して落ち着かない様子だ。


「食べないの?」

「……スマイル」

「……え?」

「……スマ?」

「スマイル! 笑顔を頂戴!」

「な、なによそれ!?」

「ほら、やってたじゃないプレイヤートレードで!」

「なんでそんなとこまでチェックしてんのよ! ……はぁ、仕方ないわね。今回だけよ!」


 プチさんは恥ずかしそうに頬を染めながら、両手を頬の横でキュッと構え、小さなピースサインと共に弾けるような笑顔を作ってみせた。


 そのまま数秒間キープすると――。


「~っ!」


 瞬時に顔を両手で覆い、その場にぽてんとしゃがみ込んでしまった。


 お姉さんは大満足した様子で、どこか嬉しそうにお寿司を箸でつまみ、口へと運ぶ。


 最後の一粒まで美味しそうに綺麗に食べ終えると、カウンターへ5,000フラグをドンッと置いた。そして一切振り返ることなく、店の外へと歩き出す。


「……美味しかったわ」


 扉が閉まり、店内に静寂が戻る。


「嬢ちゃん、昨日とは見違えるほどいい包丁筋だったな」

「……これくらい、どうってことないわ」


「だが、まだ一人で厨房を任せるには物足りねぇなぁ」

「……そう」


 プチさんが少し残念そうに肩を落とす。


「まあまあ! でも昨日よりずっと上手でしたよ!」


 俺がフォローを入れると、そこへ割り込むようにロメリアさんが身を乗り出してきた。


「ねえねえ! プチちゃんのさっきのスマイル、お店の看板メニューにしない!?」

「嫌よそんなの!」

「えー、いいじゃん可愛いのに! 料理を頼んでくれた人に、目いっぱいの笑顔を届けるの!」


 ロメリアさんはくるんと一回転すると、サイドテールを弾ませながらビシッとピースをして笑顔を見せた。


「……たく、好きにしろ」


 頭を抱えながらもガランが困惑気味に許可を出す。


「わ、私は絶対にやらないんだからね!」

「まあ、そんなことは置いておいて……今日も稼ぎ時よ、料理人!」


 ぷいっと横を向いたプチさんは、気を取り直すようにプレイヤートレード用の寿司を作り始めた。

 生産者表示の写真撮影で、彼女は何の恥じらいもなく完璧なピースサインと満面の笑顔をカメラに向けた。


(……人前でやるのと何が違うんだろうか)


 苦笑いする俺の横で、プチさんが強気な笑みを浮かべる。


「今日は自信作だから、10000フラグで売るわ!」

「はは……1万ですか……」


 しかし、画面の中の完璧な笑顔を見ていると、どれだけ高額でも一瞬で買われてしまう気がしてならないのだった。


【フラミス】サービス20日目 雑談スレ Part10


 101:名無しのバーバリアン

 フィーユちゃん、普通に接客するようになっちゃったな。


 102:名無しのバーバリアン

 あのツンツン接客好きだったのに。


 103:名無しのバーバリアン

 また罵倒されたい。


 104:名無しのバーバリアン

 いくら払えば罵倒してくれるんだ……。


 105:魔法使いギルド総帥

 ふん!馬鹿ねあなたたち!

 私は今日、妹の手作り寿司を食べたんだから!


 106:名無しのバーバリアン

 自慢かよwww


 107:魔法使いギルド総帥

 あんたたちは一生食べられないでしょうけどね!


 108:名無しのバーバリアン

 俺、今日はこれでいいや。


 109:名無しのバーバリアン

「これで」じゃなくて「これが」だろ。


 110:名無しの侍

 ありがたや……ありがたや……。


 111:魔法使いギルド総帥

 なんなのよ。気持ち悪いわね。


 112:名無しのバーバリアン

 罵倒助かる。


 113:名無しのバーバリアン

 そういやフィーユちゃん今日笑ってたぞ。


 114:名無しのバーバリアン

 マジ?


 115:名無しのバーバリアン

 スクショは?


 116:名無しのバーバリアン

 バカやろう。あれは3Dで楽しむもんだろうが。


 117:名無しのバーバリアン

 スクショが欲しければプレイヤートレード見てこい!


 118:名無しのバーバリアン

 10000フラグの寿司――www


 119:名無しのバーバリアン

 購入者特典www

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