表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/60

第31話 白熊とうなぎ

 蒲焼きの余韻も冷めぬまま、俺は再びぶっこみ仕掛けを投げ入れ、雪の上に腰を下ろしていた。

 湯気の立ち上る川面、しんしんと舞い落ちる雪、カメ子と雪玉で戯れるプチさん。静寂と緩やかな時間が流れていた。


 ――ガサガサッ。


 背後の茂みから、不意に雪を散らす大きな音が弾けた。

 風で枝から雪が落ちただけだろうか。そう思って振り返ろうとした瞬間、


 ズシ……、ズシ……。


 地面を重く踏みしめる足音が響き、周囲の木々から一斉にドサドサと積雪が落ちた。

 茂みをかき分けて現れたのは、見上げるような体躯を誇る、全身が雪のように真っ白な巨大な熊だった。


「あ、あ、あ、あ……」


 カメ子と遊んでいたプチさんが、雪の上に尻もちをついたまま声にならない声を漏らしている。

 俺も突然の生々しいモンスターの圧迫感に、完全に腰が抜けてしまっていた。


 フシュー……と、熊の鼻から白い吐息が漏れる。

 温かな体温と共に、野生の獣特有の濃密な匂いが一気に風に乗って漂ってきた。


 熊がこちらへ向かってのっそのっそと歩み寄ってくる。


(やばい、やばい、やばい……!)


 心臓がドックン、ドックンと警鐘を鳴らし、世界から音が消え去った。

 さっきまで聞こえていた川のせせらぎも、風の音も聞こえない。頭の中に響くのは早鐘のように打ち付ける自分の鼓動音だけだ。


「……にん、りょう……ん!」


 遠くからプチさんのかすかな声が聞こえる気がするが恐怖で脳が上手く認識してくれない。

 目と鼻の先の距離まで、白い巨躯が迫る。鋭い爪、丸く黒い瞳、巨大な顎。


(俺、ここで死ぬんだろうか……。ロメリアさん、ガランさん、俺、天国で待ってます……!)


 死を覚悟し、ぎゅっと目を瞑った。


 ふさ……。


 右手に、ふさふさとした暖かな毛皮の柔らかな感触が触れた。


(あぁ……せめて頭から一思いにいってくれ……!)


 痛みに身をかためていると、右手に握りしめていたはずの、釣り上げたばかりの凪うなぎがするすると引っこ抜かれていく違和感を覚えた。


 恐る恐る目を開ける。

 目の前では巨大な白熊が俺の凪うなぎに喰らいついていた。


(う、うなぎくらい差し上げますから! お願いだからどこかへ行ってください……!)


 心の中で必死に祈る。だが、焦りからか、うなぎのエラ部分に俺の指が引っかかってしまっていた。

 手を離そうとするのだが極度の恐怖で指の筋肉が硬直してまったく言うことを聞かない。


(やばい! このまま右手ごと丸呑みにされる……!?)


 生温かい感触が指先を撫でる。

 あぁ、右手が持っていかれる――そう絶望した瞬間。


 ザリッ、ザリッ。


 ザラついた巨大な舌で、優しく指を弾くように解かれ、うなぎだけがするりと持っていかれた。

 白熊は咀嚼しながら満足そうに鼻を鳴らすと、そのままのっそのっそと川の上流に向かって立ち去っていった。


 ……ドックン、ドックン。

 やがて、遠ざかる足音と共に、少しずつ周囲の音が世界に戻ってきた。


 川の流れる音。風が雪を散らす音。そして――


「料理人! 料理人ってば!」


「は、はいっ!」


 ハッと正気に戻る。プチさんが青ざめた顔で駆け寄ってきていた。


「無事だったのね……! よかった……!」

「は、はい……右手ごと食べられるかと……」

「ごめんね、私がちゃんと戦えたらよかったのに……」


 申し訳なさそうに俯くプチさんに、俺は首をぶんぶんと振った。


「だ、大丈夫ですよ! 無傷ですし、うなぎ一匹で済んでよかったです!」


 普通、こんな巨躯の化け物と遭遇してまともに戦えるわけがない。お互いの無事を喜び合うと、プチさんが息を吐いて立ち上がった。


「……少し上流に移動しない? あっちに建物みたいなのが見えるし、ここよりは安全そうよ」

「そうですね。またあの熊に戻ってこられたら怖いですし」


 俺も立ち上がろうとしたが、膝が笑ってしまって上手く力が入らない。


「すみません……手を貸してもらえますか?」

「ふふ、仕方ないわね」


 プチさんが差し出してくれた手を握り、引っ張り上げてもらった。

 荷物をまとめ、まだ少し痺れが残る足取りで俺たちは安全な場所を求めて川の上流を目指したのだった。


【フラミス】サービス15日目 雑談スレ Part9


 501:名無しのバーバリアン

 俺のダチの熊公見てくれや。

 [画像]


 502:名無しのバーバリアン

 テイムモンスターと一緒に風呂入ってんじゃねぇよwww


 503:名無しのバーバリアン

 いや、テイムしてないが???


 504:名無しのバーバリアン

 野生!? 嘘だろwww


 505:名無しのバーバリアン

 俺が風呂入る前から普通に浸かってたぞ。


 506:名無しのバーバリアン

 え、襲われたりしないんか……?


 507:名無しのバーバリアン

 全然。むしろ湯船で寛いでるわ。たまに温泉の中泳いでる小さいウナギみたいな生物捕まえて食ってる。


 508:名無しのバーバリアン

 あー、あのうなぎな。プレイヤーの体に群がって垢食ってくれるらしいぞ。


 509:名無しのバーバリアン

 マジで? ドクターフィッシュ的なやつか。


 510:名無しのバーバリアン

 じゃあ俺めっちゃ垢多いってことなん……? [画像]


 511:名無しのバーバリアン

 草www すっごいまとわりつかれてるやんwww ちゃんと体洗えよwww


 512:名無しのバーバリアン

 おいおい俺を風呂キャン界隈みたいに言わんでくれよ。ちゃんと風呂くらい入ってるぞ!


 513:名無しのバーバリアン

 いや、ゲームの中でだよ


 514:名無しのバーバリアン

 お前らは入ってるんかよ?


 515:名無しのバーバリアン

 風呂とか気にかけたことすらなかったわww

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>ドクターフィッシュについばまれる感覚って実際どんな感じなんでしょうかね。 『モニョモニョ』…『チュプチュプ』… う〜ん、ヒルと違って触れる感触はキチンとありますので、決して悪い印象はありませんね。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ