表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
29/57

第29話 イカダと豪華客船

 牡蠣フライで腹ごしらえを終えた俺たちは港に停泊している大型帆船へ向かった。


 船着き場は大勢のプレイヤーでごった返しており係員のNPCが大声でアナウンスをしている。


「氷雪島行き定期船、間もなく出航いたします! 乗り遅れのないようご注意ください!」


 その賑わう港の端で丸太を丸めて縛った手作りイカダに乗った屈強な男たちが、大声を張り上げていた。


「おいおい! 豪華客船なんてヌルい真似してんじゃねぇぞ!」

「男ならイカダだ! 俺たちと一緒に大航海に出ようぜ!」


「……沈みません?」


 俺が思わず尋ねると、リーダーと思われる男が歯を見せて豪快に笑った。


「ハハッ! 沈むまでが航海だ!!」

「またの機会に是非……!」


 苦笑いしつつ、定期船の受付けへ向かう。プチさんの分と合わせて合計6000フラグを支払った。


「え、私の分も? 悪いわね……」

「いいんですよ、護衛のお礼みたいなものですから」


 少し頬を赤くして目を逸らすプチさんを伴い、甲板へと足を踏み入れた。


「錨を上げろー! 出航ーっ!」


 威勢のいい合図とともに太いロープが外され、白い帆が風をパンと大きく膨らむ。船体がゆっくりと岸壁を離れていった。


 遠ざかる港町、ウミネコたちの甲高い鳴き声、顔を叩く湿った潮風。

 だが――


 ――ザバーン! グラリ……。


「うっ……ぐぅ……」

「ちょっと料理人、大丈夫……?」


 波の周期に合わせて船体が大きく傾くたび、胃の中がふわっと浮き上がる強烈な感覚が襲ってくる。


「せ、せっかく食べた牡蠣フライが……」

「そこ心配するの!?」


 船のヘリにしがみついて呻いていると、背中に巨大な大剣を背負った鎧姿の男が近づいてきて、海面をじっと覗き込んだ。


「さて、今回は奴が出るかいねぇ……」

「……何か出るんですか?」

「おや、君クラーケン狙いじゃなかったんかい?」

「クラーケン?」

「いやあ、海の底をじっと睨んでるから、てっきりあの大イカを待ってるのかとばかりね。なんだ、船酔いかい」

「はい……船に弱いっぽくて……」

「そいつは災難だねぇ」


 男はニッと笑い、背中の大剣を軽く叩いた。黒漆塗りの鞘に細かな傷が無数に刻まれた、一目で手練れとわかる雰囲気を纏っている。


「ところでお兄さん、クラーケンってそんなにすごいモンスターなんですか?」

「おうよ。船ごとプレイヤーを丸呑みにする巨大イカさ。遭遇率は低いが、出たら最後、船が転覆することもある」

「イカ……食べれますかね……」

「すごい食い意地だな。どうだろうか」


 船酔いに耐えながらも、俺の食指がピクリと動いた。


 小一時間ほど航海を続けると、途方もなく巨大な白い影が現れた。


 島の中央に鎮座するのは雲を突き抜けるほど高く聳え立つ真っ白な氷山だ。

 港へ接近するにつれて風は一気に冷たくなり、吐く息が真っ白に染まる。海面には薄氷がチラホラと浮かんでいた。


「寒い場所……一体どんな珍しい魚がいるんだろう」

「ほんっと、ブレないはね……」


 呆れるプチさんを横目に船は無事に氷雪島の港へ着岸した。

 一歩足を踏み出すと鼻の奥がツンと痛むほど鋭く冷たい空気が肺を満たす。

 港の船着き場には分厚い雪が積み重なり、歩くたびに「キュッ、キュッ」と引き締まった甲高い音が足元から響いた。見上げれば、港の建物の屋根からは人の背丈ほどもある巨大なつららが水晶のように美しく垂れ下がっている。


「じゃ、あっしはもう一周してくるわ!」

「クラーケンが見つかるといいですね!」

「おう! ありがとよ!」


 戻りの船へ乗り込んでいく姿を見送り、俺たちは港町の街並みへ繰り出した。


 まずは壊れかけていた釣り竿を新調するため、看板を頼りに釣具店へ向かう。


 目を輝かせて棚の釣具を隅々まで眺めるプチさんの横顔に、出会った頃、釣れないことにイライラして初級雷撃(プチサンダー)を水面に放ちかけていた姿が重なって、俺は思わず口元を緩めた。


「いらっしゃい。兄ちゃん、釣り人かい?」

「料理人です!」

「……まあ、魚を求めるって意味じゃ同じようなもんだな」


 店主に俺は気になっていたことを尋ねた。


「店主さん、このあたりで今の時期、一番美味しい魚ってなんですか?」

「ああん? そりゃあ川で獲れるウナギだな。今の季節のウナギは脂がこれでもかってくらい乗ってて、絶品だぞ」

「ウナギ……!!」


 想像しただけで口の中に唾液が溢れてくる。さっそく普通の釣り竿を手にして会計しようとすると、店主が「待て待て!」と手を出して止めた。


「そいつじゃウナギは獲れねぇぞ」

「え!? そうなんですか!?」

「ウナギを狙うなら、こいつを使え」


 そう言って店主が奥から取り出したのは、特殊な金属の重りがついた不思議な仕掛けだった。


【ぶっこみ仕掛け】

 ・川や湖の泥底に潜む魚を狙うための特殊仕掛け。

「買います!」

「まいどあり。あとな、餌はそこらの虫じゃダメだ。川辺の湿った土をひっくり返すと出てくるカームワームってミミズを使うといい」

「ありがとうございます!」


 脂が乗ったウナギ……一体どんな料理にしようか。

 気づけば早足になっていた。俺たちはウナギの潜む川を目指して釣具店を後にした。


【フラミス】サービス15日目 雑談スレ Part7

 301:名無しのバーバリアン

 クラーケンマジで出ねぇぇぇぇ!! 何周乗れば会えるんだよ!!


 302:名無しのバーバリアン

 あの巨大イカ狙ってるのかよwww 奇天烈すぎるだろwww


 303:名無しのウィザードマン

 あいつ害悪すぎるから普通に出てきてほしくないんだけど……。


 304:名無しのバーバリアン

 え? 遭遇したことあるの?


 305:名無しのウィザードマン

 あるよ。この前乗ってた船が触手一発で叩き折られて転覆したわ。


 306:名無しのバーバリアン

 え、マジ!? 大丈夫だったん?


 307:名無しのウィザードマン

 なわけねぇだろwww プレイヤー何人かキルして満足したら海へ帰っていったわ。


 308:名無しのバーバリアン

 生存者は!?


 309:名無しのウィザードマン

 何人かと一緒に泳いで帰ったけど、マジでだるかった。キルされて街に戻された方がマシだったレベル。


 310:名無しのバーバリアン

 てかNPCの船、何隻破壊されても運行されてるの凄くない?


 311:名無しのバーバリアン

 それなw

明日は土用の丑の日ということで!ウナギを食べましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
鰻(´ε`)好物(。・ω・。)ノ♡
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ