第28話 ダイビングと牡蠣フライ
野営の翌朝、東の空が白み始める頃に目が覚めた。隣では魔法使いの少女がすやすやと寝息を立てている。
俺は静かに立ち上がると消えかけていた焚き火へ枯れ枝や葉をくべ、息をふーふーと吹きかけて火を優しく復活させた。
「よし……魚のアラ、使っちゃおう」
昨日釣った清流鮎の裁ち落とし。
川の清水で丁寧に血合いを洗い流してから、鍋の沸騰したお湯へ投入する。時折浮かんでくるアクをオタマで丁寧に取り除き、水位が減ってきたら随時水を足していく。
数十分ほどじっくり煮込んであらを取り出すと、黄金色の湯気から魚の極上の旨味と香ばしさが立ち上った。そこへ持っていた調味料のフラ味噌を溶き入れ、すりおろした生姜を少々加える。
お椀にあらを盛り合わせ、そこに熱々のスープを注ぎ入れたら完成。
「……んん……んあ? いい匂い……」
匂いにつられたのか、少女が目を擦りながら起きてきた。
「おはようございます。朝ごはんできてますよ」
「ん……お味噌汁?」
「はい、お魚のあら汁です。熱いうちに召し上がれ」
「ふー、ふー」と息を吹きかけ、お椀を両手で包むようにして一口啜った少女の顔が、ぽっと綻ぶ。
「……はぁぁ、身体中に染み渡る……。朝からこんなに美味しいお味噌汁が飲めるなんて……」
カメ子にも切り分けておいた小魚をバケツに落としてやる。
「カメ子さん、朝ごはんですよー」
「キューキュー!」
首を素早く伸ばしてモグモグと食べる姿が実にかわいい。
お腹を満たした俺たちは、再び川沿いを歩き始めた。
河口に近づくにつれて川幅はグンと広がり、水流も緩やかになっていく。川底の砂利の粒が大きくなり、泳ぐ魚の影も少しずつ大きくなってきた。
やがて――潮の香りを含んだ爽やかな風が鼻腔をくすぐる。
「ウミネコの声だ……! 海ですよ!」
広大な青い水平線と、活気あふれる港町が目の前に広がった。
――ザザァン……ザザァン……。
ウミネコの啼き声、巨大な木造船が波を割るギシギシという重厚な音、網を引く漁師たちの威勢のいい掛け声。そしてどこからか漂ってくる、魚介を網焼きにする香ばしい醤油の匂い。
俺はしばらくその場に立ち尽くし、深く息を吸い込んだ。
「すごい……! 見てください、あの魚市場!」
市場の軒先には、見たこともない魚介類が所狭しと並べられていた。
直径一メートルはあろうかという巨大なマンボウ、丸々と太ったイカ、テレビや図鑑でしか見たことがないような深海魚や真っ赤なタカアシガニ。
「うわぁぁ……美味しそう……」
「食べ物のことしか頭にないのね」
笑う彼女を余所に、市場の活気に圧倒されていると看板が目に留まった。
【海洋アクティビティ:初心者ダイビング体験コース】
・料金:5,000フラグ/人
「ダイビング体験……!」
俺の手持ちは707,750フラグ。料理人ギルドの立て直し費用を集めている最中だが……どうしても海の中を覗いてみたい。
「私は見学でいいわ。お金もかかるし」
「いえ、せっかくですから……お嬢さんもどうですか」
「……プチフィーユよ。プチでいいわ」
「プチさんですね! プチさんの分も払いますから、一緒に行きましょう!」
「えっ、別に私、ダイビングなんて興味……あ、ちょっと!」
手配を済ませ、ダイビングスーツと潜水用具を受け取る。プチさんはブツブツ言いながらも、カメ子を専用の防水ポーチに抱えてついてきてくれた。
「それじゃあ、気をつけて行ってらっしゃい!」
NPCのインストラクターに見送られ、俺たちは海へと飛び込んだ。
――ジャブンッ!
ひんやりとした冷たい水が身体を包み込む。
呼吸器を通して息を吐くと、ボコボコと透明な泡が水面へ向かって昇っていった。
耳抜きをして少し深層へ潜ると、そこは別世界だった。
太陽の光が幾筋もの光の束となって海中を照らし、カラフルなサンゴ礁がどこまでも広がっている。
その間を、赤や黄色の色鮮やかな熱帯魚たちが泳ぎ回っていた。
「わあ……!」
思わず水中マスクの中で声を漏らす。
プチさんも目を丸くしており、ゆらゆら揺れるイソギンチャクを指先でツンツンと突いて遊んでいた。カメ子もポーチの中から興味津々に外を眺めている。
そこへ、砂嵐のような大群をなした小魚の群れが迫ってきた。
俺たちの周囲を包み込むように泳ぎ去っていく。肌に細かな水流が当たり、なんともくすぐったくて心地よい。
その奥から、カメ子の何倍もの大きさがある巨大なオオウミガメが優雅にヒレを動かして泳いできた。神聖さすら感じるその光景に、息をのむ。
(海って……こんなにも綺麗なんだ)
生命が躍動する海の美しさに心から感動した。
ふと水底の岩場に目をやると、ゴツゴツとした岩に混じって、美しい白い貝殻を持った大きな牡蠣が群生しているのを見つけた。
手持ちのスキルで鑑定してみる。
【渡羽牡蠣】
・希少な天然牡蠣。市場にはほとんど出回らない一級品。
(これ、絶対に美味いやつだ……!)
俺はナイフを使って岩から手際よく渡羽牡蠣をいくつか採取した。
数時間ほど海中散歩を楽しみ、浜辺へ上がった。
ダイビングスーツを脱ぐと、心地よい疲労感と共に強烈な空腹感が襲ってきた。
――グゥ~……。
少女のお腹からも、かわいらしい音が鳴る。顔を真っ赤にして明後日の方向を向いていた。
「よし! お腹も空きましたし、さっき海で採った渡羽牡蠣を調理しましょう!」
まずは海水を鍋に入れ、ろ過しながら煮詰めていく。パチパチと小さな音を立てながら水分が飛び、鍋底に真っ白な結晶がじわじわと現れてくる。アクを取りながら焦げ付かないように時々かき混ぜ、やがて完全に水気が飛んだところで天然塩が完成した。
できたての天然塩を渡羽牡蠣に加えて優しくもみ洗いし、ヌメリを取る。
小麦粉を軽くまぶし、溶きほぐした卵、そしてサクサクのパン粉で丁寧に衣を着せたら――煮えたぎるヘルフレイムオイルの入った鍋へ投入する。
――シュワァァァァァッ!!
甲高い揚げ音が響き、香ばしい衣の香りが広がる。
引き揚げたカキフライは、衣がまるで鳥の羽のように美しく広がっていた。
さらに、自家製の獄炎マヨネーズに固ゆで卵、細かくみじん切りにしたアスターオニオンを混ぜ合わせ、即席のタルタルソースを作る。
「完成です!」
「いただきます!」
揚げたて熱々のカキフライにタルタルソースをたっぷり乗せ、一気に噛み砕く。
――サクッ……ジュワァァァァッ!!
「んんん~~~っっ!!」
サクサクと香ばしい衣を破った瞬間、中からトロリと温かく、ミルクのようにクリーミーで濃厚な牡蠣の旨味が溢れ出した!
サッパリとした玉ねぎの食感と、濃厚なタルタルのコクが、牡蠣の持つ海の甘みと讃美歌のように美しく重なり合う。
「美味しすぎる……! 止まらないです!」
「なにこれ……! 衣はサクサクなのに、中がすっごくジューシー……! 私、今まで食べた牡蠣の中で一番美味しいかも……!」
プチさんも目を輝かせ、またひとつ、またひとつと夢中で箸を伸ばしていた。
お腹いっぱいになり、浜辺に座り込んで波音を聞いていると、プチさんが港に停泊している巨大な定期船を指差した。
「ねぇ、料理人。あの船……乗ってみたいわ」
俺は白く輝く海を見つめ、微笑んだ。
「いいですね!」
【フラミス】サービス15日目 雑談スレ Part6
102:プロのバーバリアン
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103:名無しのバーバリアン
なにこれ、真っ白やんwww
104:プロのバーバリアン
レイドボス氷雪鳥。
105:名無しのバーバリアン
何も見えねぇwww
106:名無しのバーバリアン
さっそくモンスター狩りとかお前ら野蛮すぎだろ。見てよこのかわいいペンギン。
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107:名無しのバーバリアン
うおおおお! ペンギンいるのか!!
108:名無しのバーバリアン
かわいすぎるwww もふりたいwww
109:名無しのバーバリアン
え? どっから行けるのこれ!?
110:プロのバーバリアン
アスタータウンの北にある港から出てる定期船に乗れば一発だぞ~
111:名無しのバーバリアン
マジか! 俺、真逆の港行っちゃったわwww
112:名無しのバーバリアン
ちゃんとアプデ情報調べないからwww
113:名無しのバーバリアン
ペンギンかぁ……どんな味がするんやろな
114:名無しのバーバリアン
食いもんちゃうわ!!
牡蠣はノロウイルスや食中毒の危険があるので中までしっかり火を通してからお食べください!




