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第26話 ヘルフライ

 店のドアを押し開けると、カウンター席でドラセナさんが上機嫌でグラスを傾けていた。ロメリアが「はい、どうぞー」とお酌をしている。


「おや、ガランのおっちゃんに料理人君。やっと戻ってきたかい」

「おうおう、なんか用かお嬢」

「いやぁ、特に用はないんだけどね」

「あはは、ドラセナさんらしいや。ガランさん、さっそく始めましょうか!」

「そうだな」


 俺はインベントリから、地獄焔猪(ヘルフレイムボア)の真っ赤な体液がたっぷりと詰まった大きな酒瓶をごとりとカウンターに置いた。


 それを見たドラセナが、興味深そうに目を輝かせる。


「おや、料理人君もお酒を飲むのかい? ずいぶんと綺麗な赤ワインだねぇ。ちょっとうちにも分けておくれよ」

「飲みます?」

「いいねぇ、いただくよ」


 ドラセナが手持ちのグラスを差し出してきたので、俺はニッコリと笑って答えた。


「あ、これお酒じゃないですよ」

「え?」

「血です」

「血!?」


 ドラセナの声と同時に、奥で仕込みをしていたロメリアが「きゃああああっ!?」と悲鳴を上げた。


「ち、血ぃぃ!? ぺんさん、どこでそんな物……!」

「さっき火山で狩った地獄焔猪(ヘルフレイムボア)の血ですよ。鑑定したら、超高温に耐える極上の油になるそうなので!」


 説明しながら、俺は鍋の中に真っ赤な液体を豪快に注ぎ入れた。ドラセナは「なんだ、驚かすんじゃないよ……」と胸を撫でおろしていたが、鍋を満たす禍々しい赤い液体を見て、引きつった苦笑いを浮かべている。


 さっそく火にかけ、精製を開始する。


 加熱を始めると、真っ赤な液体の中からふつふつと大粒の気泡が浮かんでは消えを繰り返した。さながら地獄の釜のようだ。次第に血生臭さは消え、香ばしいコクのある脂の香りが立ち上り始める。


 酒、醤油、生姜、すりおろしマグガーリックで作ったタレに漬け込んだヘルフレイムボアの赤身肉を、ガランから受け取る。


 漬け汁を軽く切り、粉をしっかりと塗すと、滾るヘルフレイムオイルの中へ投入する。


 ――ジュワァァァァァァッ!!


 猛烈な重低音とともに一気に無数の泡が弾けた。厨房全体に香ばしい肉と揚げ油の匂いが一気に広がる。


 しっかりと火を通し、網の上に引き上げる。


「できた……!」


 出来上がった唐揚げの衣は、ほんのり熱を帯びたように赤く染まっており、カリッカリに揚がっていた。箸で割ってみると、サクッと心地よい音が響き、中から透明な熱々の肉汁がジュワッと溢れ出す。


 仕上げに二種類のソースを用意した。

 竜の爪と砂糖、酢、ニンニク、塩を鍋で煮詰めていくと、ピリッとした刺激臭がツンと鼻を突き次第に甘酸っぱい照りのある赤色へと変わっていく――火山チリソース。

 もう一方は、卵黄に酢、塩、胡椒を加え、そこへヘルフレイムオイルを一滴ずつ垂らしながら腕がだるくなるまで泡立て続けた。とろりとした質感が生まれ、色が白く濁っていくのを見届けたところで手を止める――獄炎マヨネーズ。


「完成です!」


 さっそく四人でカウンターを囲み、味見を開始した。


 ガランは迷わず火山チリソースをべったりとつけて口に放り込む。

 辛いものが苦手なロメリアは恐る恐る箸を伸ばすと獄炎マヨネーズをたっぷりと塗くった。


 俺も最初はマヨネーズでいただくことにする。


「んんっ……!!」


 サクッとした軽やかな衣の歯応えの直後、プリッとした肉から濃厚な旨味が弾け飛ぶ。 真っ赤な見た目に反してマヨネーズはまったく辛くなく、酸味とまろやかなコクが肉の力強い味わいを完璧に引き立てていた。


「美味しいー!! ぺんさん、このマヨネーズすごいです! 辛くないのに旨味がすごくて、無限に食べられそう!」

「ふふ、ロメリアさんはマヨ派なんですね」


 続いてチリソースをつけて食べる。……ピリッとした刺激的な辛みが舌を駆け巡るが、後味に爽やかな甘みが残り、これまた病みつきになる味だ。


「酒に合うねぇ……! サクサクの衣とジューシーな肉、最高のツマミだよ!」


 ドラセナがエールをグイッと飲み干し、絶賛してくれる。一方、ガランはというと――


「うーむ、チリソースもうまいが……まだパンチが足りねぇな」


 あろうことか、唐揚げの上に輪切りにした竜の爪を山盛りにして、そのまま豪快に噛み砕いていた。


「ガランさん!? そんなに辛くして大丈夫なんですか!?」

「ハハッ! この辛さが堪らんのだよ!」


 口から火を噴きそうなガランの激辛愛に、俺とロメリアは顔を見合わせて苦笑いするしかなかった。


「よし、明日からの新メニューはボアの唐揚げで決まりだな!」

「はい!」



【フラミス】海を渡る方法を考察するスレ Part12


 0412:名無しの探索者

 素潜り勢、そっちの状況はどうだ?


 0413:名無しの探索者

 ダメだ。大陸の境界線を超えた瞬間にリヴァイアサンが湧いてきて、まともに進むことすらできん。


 0414:名無しの探索者

 雷属性最上位魔法の神鳴(ディヴァインサンダー)でさえダメージ通らなかったからな。あれ討伐不可能な仕様のモンスターだろ。


 0415:名無しの探索者

 おそらく運営が用意した越境防止ストッパーだな。


 0416:名無しの探索者

 でもさ、遠くの靄の向こうに明らかに別の島っぽい影が見えるんだよな。


 0417:名無しの探索者

 島があるってことは、何かしら向こう側へ行く正規ルートがあるってことだよな?


 0418:名無しの船大工

 俺たちでデカい頑丈な船作ったら渡れないか?


 0419:名無しの探索者

 港に停泊してるNPCの大型船をハイジャックして勝手に動かした猛者が前いたけど、一発で木っ端微塵に粉砕されてたぞwww


 0420:名無しの探索者

 海がダメなら……空くらいしか進路なくね?


 0421:名無しの探索者

 空か……。


 0422:名無しの探索者

 空飛べばいいじゃん!


 0423:名無しの探索者

 飛べるわけねぇだろwww 飛行スキルなんてねぇよwww


 0424:名無しの探索者

 じゃあ鳥になれば?


 0425:名無しの探索者

 お前天才か????


 0426:名無しの探索者

 鳥にどこで転職するんだよwww

海の向こうにある新大陸にはどんな食材が眠っているんでしょうか!?

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