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第25話 ヘルフレイムボア

 店の前には思わず二度見するような大行列ができていた。


「整理券番号、何番ですか!?」

「現在二時間待ちです! 列の最後尾はこちらになります!」


 店の手前では助っ人に来たロメリアが「ガランさん! 番号札がもう足りませんー!」と目を回しながら悲鳴を上げている。


「飯食うだけでスキル貰えるってガチか?」

「ああ、実際に筋力増強生えてきた奴がいるらしい」

「地獄激辛が一番スキル出やすいって噂だぞ!」

「安心しろ、無理そうだったら俺が残りを食ってやるからよ」


 誰かが噂を広めたらしい。

 開店と同時に店内は大混雑となり、俺も厨房に入ってフル稼働で肉を焼き続けた。料理人NPCの皆さんも、額に汗を浮かべて接客と仕込みに追われている。


「すませーん! 地獄激辛で!」


 案の定、地獄激辛の注文が殺到した。だが――


「ぐああぁぁぁっ! 舌が、舌が溶けるうぅぅ!」

「ヒール! 誰か俺にヒールをかけてくれぇぇ!」

「水……水をくれぇ……っ!」


 一口食べた瞬間、悶絶して床に転がるプレイヤーが続出。無理に頼んで白目を剥き、仲間に抱えられて退場していく悲惨な光景が広がった。


(……さすがに、これじゃあ料理を楽しんでもらえてないよね)


 俺は厨房の隅で竜の爪の量をこっそり減らし、次の一皿からは辛さを控えめに仕込み直した。


 それにしても、この凄まじい売れ行きだ。


「ガランさん、タイタン肉の在庫が……」

「ああ、三日持たねぇと思ってたが、今日明日で底をつきそうだな。まぁ、期間限定だからこそ価値があるんだがな」


 営業終了後。疲労困憊になりながら精算を行う。


「仕入れ代の50,000フラグと、今日は大繁盛だったからな、上乗せしてバイト代1,000フラグだ。受け取りな」

「ありがとうございます、ガランさん!」


 ずっしりとした銭袋を受け取る。すると、ガランが顎を擦りながら思案顔になった。


「なぁ坊主。あの地獄激辛ソース、コアな客にはやたら受けてただろ? ソース単品で瓶詰めにして売るってのはどうだ?」

「それ、いいですね! 好きな料理にかけられますし!」

「だが問題は……竜の爪の在庫がもうねぇことだな。ここらに扱ってる商人もいねぇ」

「あ、それなら俺、火山の群生地を知ってますよ! 今から採りに行きますか?」

「おう、行くぞ!」


 即決だった。職人らしい行動の早さに驚きつつ、俺たちは火山へ向けて店を出た。


「急がないと明日の仕込みに間に合わないぞー!」


「ガ、ガランさん! 速すぎますって……!」


 ガランは巨体に見合わぬ恐ろしい脚力で山道を駆け登っていく。俺は必死でその後ろを追いかけた。


 ぜぇぜぇと息を吐きながら竜の爪の群生地へ到着すると、手分けして赤く熟した唐辛子を摘み取っていく。


「ここに竜の爪の専用栽培所でも作らんか?」

「あはは、いいですね! 畑があったら助かります!」

「……冗談だぞ、坊主?」

「えっ」


 ガランの真顔のツッコミに苦笑いしつつ、数分ほど採取を続けていた、その時だった。


 ザザッ……!と草むらが揺れ、強烈な熱気と共に巨大な影が躍り出た。


 全身からメラメラと真っ赤な炎を噴き出している、巨大なイノシシだ。


「ひっ……!?」


 腰が抜けそうになる。ここには俺とガランの二人しかいない――どちらも、戦うための職業ではない。

 ガランが静かに一歩前へ出た。その手には、普段厨房で使っている愛用の包丁が握られている。


「ガ、ガランさん! 逃げましょう!」

「そう焦るな、坊主」


 ――グオォォォォン!!


 イノシシが地響きを立てて突進してくる。直撃すれば即死だ。

 しかし、ガランは静観していた。突進が迫った寸前、最小限の動きで横へステップを踏むと、イノシシの鼻先を足蹴にして勢いを殺し、すれ違いざまに脳天へ向けて包丁を突き立てた。


 そのまま己の重みと勢いを利用し、一気に背中まで切り裂く!


 ――ドサァッ!!


 たった一撃。炎を纏っていた巨獣は、地響きを立てて動かなくなった。


「ふぅ……若い頃はよくこうして狩ってたもんだが、少し体の衰えを感じるな」

(……ガランさん、強すぎる……!!)


 ガランは首の節をゴキゴキとならし、慣れた手つきでイノシシの解体を始めた。


「坊主、手伝ってくれや」

「は、はいっ!」


 大急ぎで駆け寄り、まだ熱の残る肉塊の解体を手伝う。手持ちのスキルで鑑定してみた。


地獄焔猪(ヘルフレイムボア)

 ▼食材情報

 肉質:★★★★☆

 臭み:★★★★☆

 脂 :★★★★★

 推奨料理:ステーキ、燻製、角煮


「……ガランさん! この血、高温に耐える上質な油になるみたいです!」

「なに? 血が油だと?」


 俺は持ち合わせていた食用酒の空き瓶を取り出し、熱を帯びた血液を慎重に注ぎ込んでいく。


「帰ったら試してみませんか?」

「面白ぇじゃねぇか! よし、急いで戻るぞ!」


 俺たちはホクホク顔で火山を後にした。


【料理人ギルド修復費用まで】

 707,250/50,000,000フラグ

 前日比:+80,400

(内訳:トレード +29,400 / 食材代 +50,000 / バイト代 +1,000)

 達成率:1.4%


【フラミス】サービス13日目 雑談スレ Part6


 113:名無しのバーバリアン

 地獄激辛、ガチで地獄だった。


 114:名無しのバーバリアン

 お前ほんとに頼んだのかよwww


 115:名無しのバーバリアン

 一口目以降の記憶がない。気づいたら宿屋のベッドだった。


 116:名無しのバーバリアン

 え? リスポーンしたの?www


 117:名無しのバーバリアン

 いや、トッモが抱えて運んでくれた。


 118:名無しのバーバリアン

 やばすぎるだろwww


 119:名無しのバーバリアン

 俺は大人しくオニオンソースにしておいたわ。美味すぎて飛んだ。


 120:名無しのバーバリアン

 ピリ辛くらいが一番美味しく食べられるぞ。


 121:名無しのバーバリアン

 今日、地獄激辛食ったけど筋力増強出なかったんだが?


 122:名無しのバーバリアン

 だから辛いほど出やすいってのはただのオカルトだってwww


 123:名無しのバーバリアン

 いや絶対辛い方が出やすいね!!


 124:名無しのバーバリアン

 そういえば海外フォーラムでバイオームアップデートのリーク見た奴いる?


 125:名無しのバーバリアン

 運営が出してきた暗号文を解読した奴だろ?


 126:名無しのバーバリアン

 暗号班の特定スピードすげえ


 127:名無しのバーバリアン

 それおれも解いてみたけど全く分からんかったやつや!

ヘルフレイムボアは体液を汗腺からだし燃焼させることで体に火を纏うことができます。

またヘルフレイムボアの油は超高温でも劣化しにくく、揚げ物を短時間でカラッと揚げれるため、肉の旨味を効率的に閉じ込めることができます!焦げやすいため注意が必要です。

バイオームアップデート、なにが来るんでしょうか!?

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