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第24話 期間限定! 地獄激辛ソース!

 アスタータウンへ帰還した俺たちはその足でまっすぐ黄金の鍋へと向かった。


 店のドアを押し開けるとカウベルの涼やかな音が響いた。


「ガランさん! 戻りました!」

「ぺんさーーん!! 無事だったんですね! よかったぁ……!」


 カウンターの奥から飛び出してきたのは手伝いに来ていたロメリアだ。ウルウルとした目で駆け寄ってくる。


「おう、坊主! 無事で何よりだ」


 奥から顔を出したガランさんも、破顔して俺の肩をポンと叩いた。


「坊主がいねぇ間、『新人君今日は留守?』って、常連から何度も聞かれて参ったぞ」

「お客さん、みんなぺんさんの料理を待ってましたよ!」

「えっ、本当ですか……? へへ、なんだか照れますね」


 二人の言葉に、俺は思わず目元を擦った。ちょうどそこへ、後ろからドスン!と重厚な肉塊が運び込まれた。


「ふーっ! いい筋トレになったよ、料理人君!」


 マッチョたちが汗を拭いながら爽やかに笑う。


「皆さん、運ぶのを手伝っていただいてありがとうございました! 今度ぜひ、お店でごちそうさせてください!」

「いいってことよ! 楽しみにしてるぜ!」

「じゃあなー!」


 嵐のように去っていくマッチョ三人組を見送り、ロメリアが感心したように息を漏らした。


「すごい筋肉ムキムキな方たちでしたね……」

「鍛冶師ギルドの方々なんです。レイド戦で仲良くなりました。……あ、そうだガランさん! これを見てください」


 俺はダッフィーにもらったタイタン岩鍋を取り出し、手持ちの小岩ペレットと共にカウンターへ置いた。


 ガランは目を細め、職人の鋭い目つきでその無骨な岩鍋をじっくりと観察し、コンコンと拳で叩いた。


「……坊主。この鍋、ただの岩じゃねぇな」

「はい! タイタンの岩鎧から削り出してもらったんです」

「熱の回り方が異常にいい。遠赤外線で芯までじっくり火が通る極上品だ……とんでもねぇ鍋を仕込んできたな」


 ガランの言葉に、俺はニシシと胸を張る。


「フフッ、これで新しいレシピを作ります! 題して岩焼タイタンプレートです!」


 さっそく厨房に入り、試食用の調理を開始した。


 今回の主役は、タイタン肉だ。


 ――ヂィィィィィッ……!!


 猛烈な脂の爆音とともに、香ばしい熱気が厨房に満ちる。肉の表面が熱でギュッと縮み、ブツブツと透明な肉汁が浮き上がってくる。


 今回はオニオンソースに加え、火山地帯で採集した新食材マグガーリックと、強烈な辛みを持つ唐辛子『竜の爪』を使った特製辛口ガーリックソースを開発した。


 醤油ベースに、すりおろしたマグガーリックの強烈なパンチと、輪切りにした竜の爪の激痛のような辛みが加わる。最後に落としたコクのあるバターが、辛さの奔流にとろりと重なっていく。


「できました! ガランさん、ロメリアさん、試食してみてください!」


 表面に綺麗な焼き色をつけ、中はジューシーなミディアムレアの状態で提供する。


「ミディアムレアで出しますので、お客様にはこの熱々の小岩ペレットで、自分好みの焼き加減にジューッと調整してもらうスタイルにしようかと!」

「ほう……自分で仕上げるスタイルか。悪くないな」


 ガランが感心し、ロメリアは目を輝かせてペレットの上に肉片を載せた。


 ――ジュゥゥゥッ!


「わあぁ! 自分で焼くの、すっごく楽しいです! ……んむっ」


 ロメリアは焼きたての肉を口に運び、咀嚼した瞬間――ピクッと全身を硬直させた。


「ぷ、ぺんさんっ……!! これ、かっらぁぁぁい!?」

「あ、ごめんなさい! 竜の爪を入れすぎちゃいましたかね!?」

「り、竜の爪ぇぇ!? ドラゴン狩ったんですか!?」

「違いますよ! 火山に自生してる唐辛子です!」


 涙目になってハヒハヒと息を吐くロメリアに、あわててお冷を渡す。一方、ガランは辛口ソースをたっぷりつけて肉を豪快に頬張り、ニンマリと笑った。


「いや、俺はこれくらいパンチが利いてる方が好みだな」

「人によって辛さの好みは違いますからね……良し、辛さの段階を選べるようにしましょう!」

「いいな。そうと決まればメニュー作成だ!」


 ロメリアがテキパキと木札にメニューを書いていく。


 ・特製オニオンソース

 ・唐辛子抜き

 ・ピリ辛

 ・激辛

 ・地獄激辛


「地獄激辛……って、誰が頼むんですかそれ……」とロメリアが引きつっていたが、この挑戦意欲をそそるメニュー名が、後に大波乱を呼ぶことになる。


 開店時間と同時に、待ってましたとばかりにプレイヤーたちが押し寄せてきた。


『期間限定! レイドボス肉使用・岩焼タイタンプレート!』の看板を見るやいなや、店内は大盛況となった。


「うわっ、肉汁が弾けてる! 焼くの楽しすぎる!」

「オニオンソースの旨味、やっば……米が止まらん!」


 注文の多くはオニオンソースかピリ辛だったが、VRMMOのゲーマーたちがこの挑発的なメニューを見逃すはずがなかった。


「すませーん! 『地獄激辛』ひとつ!!」


 店内に「うおおおっ!?」「出たぞチャレンジャー!!」と野次馬の歓声が上がる。


 厨房でソースを作り始める俺に、ガランさんが横からニヤリと笑って指示を出した。


「もっとだ、坊主」

「えっ!? ガランさん、もう竜の爪ふた掴み入れてますよ!?」

「甘いな。もっとだ」

「ひえぇ……こんなに入れたら死んじゃいますよ!?」


 ガランのスパルタ指導により、完成した地獄激辛ソースはもはや黒みがかった真っ赤。見るだけで目と舌がチクチクと痛みそうな禍々しさだ。


「お前ならいけるぞー!!」

「いけぇぇぇ! スクショ撮れ!!」


 店内がちょっとしたお祭り騒ぎになる中、挑戦者の男性プレイヤーはプルプルと震える手で肉塊を口へ運んだ。


 ――ガブッ!!


「ぐ……っ、があぁぁぁぁぁっ!????」


 瞬間、彼の全身から滝のような汗がドバドバと噴き出した! 涙と鼻水を流し、喉を焼く地獄の激痛と闘いながら、必死の形相で肉をかぶりついていく。


 そして――見事に最後のひとくちを完食した瞬間!


 チャリンッ!と彼の頭上にファンファーレのようなエフェクトが舞った。


「やった……俺は、成し遂げたぞ……!」


【パッシブスキル:筋力増強を獲得しました】


「うおぉぉぉぉぉ! 筋力増強出たぁぁぁぁ!!」

「マジかよ!? あのスキル本当に料理から生えてくるのか!!」


 店内は大歓声に包まれたが挑戦者のプレイヤーは満足気な笑みを浮かべたまま、そのまま床へとバタリと倒れ込んだ。


(あ、スキル手に入ったんだ……よかったねぇ……)


 その後も、筋力増強のスキル目当てに激辛チャレンジへ挑む者が続出した。普通のオニオンソースであっさり獲得する人もいれば、激辛を何皿食べても出ない人もいる。誰の皿から出るのか、作っている俺自身にもさっぱり法則が見えなかった。


 営業終了後。


 売上と食材の精算中、ガランさんがずっしりと重い銭袋を差し出してきた。


「はいよ坊主。今回のタイタン肉の食材代として、60,000フラグだ」

「ええっ!? 受け取れませんよ! あの肉はレイドで無償で譲ってもらったものですから!」

「バカ言え。お前がレイドに参加して、交渉して持ち帰った立派な素材だ。仕入れ値をゼロにして計算する職人がどこにいる」


 一歩も引かないガランと押し問答の末、最終的に半額の「30,000フラグ」で手打ちとすることで落ち着いた。苦笑いしながら、俺は差し出された銭袋を受け取った。


 そして夜、マッチョと約束していたプレイヤートレードへの出品を行うことにした。


(お店に来られない人たちのためにも、20食分くらい出しておこうかな)


 価格は店舗と同じ1,500フラグ。ソースは誰でも美味しく食べられる特製オニオンソースだ。


(みんな、喜んでくれるといいな!)


【料理人ギルド修復費用まで】


 626,850/50,000,000フラグ


 前日比:30,500


(内訳:食材代 +30,000 / バイト代 +500)


 達成率:1.2%


【フラミス】サービス12日目 雑談スレ Part5


 0945:名無しのバーバリアン

 黄金の鍋の岩焼タイタンプレート地獄激辛チャレンジ行った奴おる???


 0946:名無しのバーバリアン

 ふふ……。俺こそが地獄激辛を制し勝利を掴み取った勇者だぞ。あまり舐めるなよ。


 0947:名無しのバーバリアン

 な、とんでもねえ猛者がいたw


 0948:名無しのバーバリアン

 激辛の段階で口の中が火炎放射器になったのに、正気じゃねえwww


 0949:名無しのバーバリアン

 ふん、余裕だったぞ!! 舌の細胞が全滅した気がするがな!!


 0950:名無しのバーバリアン

 ちな、こいつ完食した直後に白目剥いてぶっ倒れてたぞ


 0951:名無しのバーバリアン

 おいww それは言わないお約束だろうが!!!


 0952:筋肉のバーバリアン

 朗報! 料理人君から連絡きたぞ! プレトレに20食出品してくれたらしい!


 0953:名無しのバーバリアン

 筋肉サンキューーー!!


 0954:名無しのバーバリアン

 てか筋肉、いつの間に料理人君とフレンドになってんだよ羨ましすぎるんだが???


 0955:筋肉のバーバリアン

 フッ、レイドで共に汗を流したマッスルダチだからな!


 0956:名無しのバーバリアン

 うおおおおお!! 筋力増強ゲットしたぞぉぉぉぉ!!


 0957:名無しのバーバリアン

 おめでとう!!


 0958:名無しのバーバリアン

 ええなぁ……俺5回挑戦したけど出なかったわ……。


 0959:名無しのバーバリアン

 あれ絶対地獄激辛頼んだ方が確率上がるぞ。間違いない。


 0960:名無しのバーバリアン

 絶対オカルトだろwww


 0961:名無しのバーバリアン

 いや、地獄激辛でゲットした俺が言うんだから説得力が違うね。経験者は語るってやつだ。


 0962:名無しのバーバリアン

 なお、彼は今もトイレに籠っている模様

辛い物って食べるとめちゃくちゃ舌痛くなって汗ドバドバ出てくるんですよね。お冷何杯飲んでも舌のヒリヒリが消えなくて毎回苦しい思いするんですけど、何故か毎回頼んじゃいます(笑)

食べた直後はすっごい後悔するんですけど時間が経つとまた食べたくなってしまう。不思議。

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