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第23話 刀気の剣技

 激戦の余韻が残る火山地帯。調理器具を綺麗に片付け終え、ほっと一息ついていると、鍛冶師ギルドの面々が煌びやかな鉱石や素材の分配を行っていた。


 そこへ、ドラセナが山のように積み上がったタイタン肉を指差し、俺に声をかけてきた。


「料理人君、この肉は全部持っていっていいよ」

「えっ!? こんなに大量の肉をですか!?」


 レイドボスの素材だ。いくら肉とはいえ、市場に出せばとんでもない価値になるはず。思わず恐縮して辞退しようとしたがドラセナはカラカラと笑って手を振った。


「いいって、いいって! 僕ら鍛冶師の本命は鉱石や金属素材だからね。それに、こんな上質な肉を腐らせるくらいなら、一番活かせる料理人君に全部美味しく料理してもらった方がタイタンも浮かばれるってものさ」

「遠慮しないでー! 美味しい料理にしてくれた方が俺たちも嬉しいし!」


 周りのギルドメンバーからも次々と口々に後押しされ、俺は深々と頭を下げた。


「ありがとうございます! 絶対に、飛び切り美味しい料理にしますね!」


 ありがたくインベントリへと収納していると、マッチョ三人組の一人であるダフィーが、ロックオブタイタンの巨大な岩鎧の破片をドカンと持ち上げてきた。


「料理人君!」


 ゴン! ゴン! ゴン!


 なんと、ダフィーは鍛冶師スキルを発動させながら、素手でその強固なタイタン岩をバシバシと叩き始めたのだ。岩肌がみるみるうちに削れ、成形されていく。あっという間に、見事な円形を描いたどっしりとした重厚な鍋へと加工されてしまった。


「これ、出会いの記念だ。受け取ってくれ」

「ええっ、こんな高価そうなものをいいんですか!?」


 差し出された重厚な鍋を受け取ると、目の前にシステムウィンドウが表示された。


【タイタン岩鍋】

 ・タイタン岩から削り出した特注の天然調理鍋。

 ・強力な遠赤外線効果により、食材の芯まで熱を通す。

 ・保温性能上昇/焼き・煮込み料理の品質補正(大)


 両手で抱えた瞬間、想像していたよりずっしりと重く、それでいて掌に吸い付くような不思議な手触りに、思わず声が漏れた。

(すごい……!)


 あたふたする俺に、ダフィーは太い腕で力こぶを作りながら爽やかに笑った。


「美味しい料理作ってくれたお礼だよ!」

「……ダフィーさん、本当にありがとうございます! 大切に使わせていただきます!」


 帰り道、火山を下山しながらのんびりと歩く一行。

 俺は道中、ずっと気になっていたプレイヤーの背中を追いかけた。討伐の最後、見事な一閃でタイタンを真っ二つに叩き斬った、あの侍プレイヤーだ。


「あの、侍さん。少しいいですか?」


 声をかけると、そのプレイヤーは足を止め、ゆっくりと振り返った。渋い流し目で俺を見つめる。


「拙者に何か用でござるか?」

「先程の刀さばき、本当に凄かったです! 刃が直接届いていないのに、巨岩を真っ二つにしてしまうなんて……!」

「ふむ……我が剣技に興味がおありか?」

「はい! あんな風に無駄なく綺麗な切り口で食材を仕込めないかと思いまして……料理の参考にさせていただきたかったんです」


 俺の言葉に、侍プレイヤーは驚いたように目を丸くした。


「料理とな……? これはまた面妖な。……だが、刃の理を食材に求めるか。面白い。ならば我が剣技、見せて進ぜよう」


 彼はスッと鞘から刀を引き抜いた。すると、刃の周りに淡い黄色の光のような靄が揺らめき始める。


「これは……?」

刀気(とうき)と呼ばれるものでござる。己の気力を刃に吸わせ、刀身を延長せしむる技」


 そう言うと、侍は一歩踏み込み、道端にあった巨大な岩へ向けて無造作に刀を振り下ろした。


 ――ザンッ!!


 刃は岩に触れていないにもかかわらず、鋭い衝撃波が飛んでいき、巨岩がすっぱりと斜めに切断された。重力に従い、上半分がズズズ……と滑り落ちる。あまりの切れ味と美しさに、息を呑む。


「さ、さすがです……! その刀気というのは、どうやって出すんですか?」

「刀に己の気を流す感覚でござるな。……お主も試してみるがよかろう」


 侍は柄をこちらへ向け、手を添えながら刀を貸してくれた。


「これが正眼の構えでござる。右手は添えるだけ。左手を中心に使い、振り上げる……」


 普段の包丁捌きとは全く逆だ。右手ではなく左主導の動きに戸惑いながらも、言われた通りに構える。


「目を閉じ、刀を身体の一部と感じ取るのでござる」


 言われるがまま、ゆっくりと目を閉じた。

 普段、調理場に立つ時の集中の感覚を全身に巡らせていく。包丁の刃先がどこを通っているかを指先の感覚だけで把握するように、借りた刀の先まで神経を研ぎ澄ませる。


 すると――ぞわぞわっ、と左腕の皮膚が脈打つような不思議な感覚が集まってきた。


(これが……気……?)


 刀の表面がほんのわずかに黄色く光りかけたが、集中が途切れ、刀身をだらんと垂らしてしまった。


「ふむ! 初めてにしては上出来でござるな。筋が良い」

「はあ、はあ……すごい集中力が必要なんですね……。あの、これって何か特殊な素材を使っているんですか?」

「うむ。気を流しやすい素材を自ら鍛え上げて作った刀でござる」

「オーダーメイドなんですね! 侍さんご自身で作られたんですか?」

「拙者も職は侍でござるが、なぜか今はもっぱら鍛冶師ギルドの一員として、刀鍛冶に専念してしまっておる」


 笑う彼を見て、俺の頭の中にひとつの閃きが走った。思わず身を乗り出す。


「あの! ……お願いがあるんですが」

「申してみよ」

「武器ではなく……包丁って、作れたりしますか……?」


 侍は一瞬、きょとんとした表情を浮かべ、それから「ハハッ!」と愉快そうに笑い声を上げた。


「刀ではなく包丁……! 鍛冶師になって久しいが、そんな注文を受けるのは初めてでござるな。業物ができる保証は出来ぬが……構わぬか?」

「本当ですか!? ぜひお願いします!」

「ふむ、期待はせぬよう待っていてくだされ。……ああ、名乗りが遅れたな。拙者は菖蒲しょうぶと申す」

「ペンタスです! 菖蒲さん、また質問したいことがあるのでフレンド申請してもよろしいでしょうか?」

「構わぬよ」


 システム音と共にフレンドリストに菖蒲の名が追加された。


「よろしく頼む、ペンタス殿」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 火山地帯を抜け、見慣れた街並みが遠くに見えてきた。


 俺は自分のインベントリを開き、今回の旅で得た戦利品を静かに見つめる。


 大量のタイタン肉。

 記念として受け取ったタイタン岩鍋。

 刀気と言う未知の技術。


 早く黄金の鍋へ戻り、ガランに新しいメニューを伝えたくて、俺の足取りは自然と軽くなっていった。



【フラミス】サービス11日目 雑談スレ Part5


 0961:名無しのバーバリアン

 筋肉~! 料理人君に頼んでくれたか!?


 0962:筋肉のバーバリアン

 ああ。レイドから帰還したら作ってくれるらしいぞ。


 0963:名無しのバーバリアン

 うおおおおおお!! マジか!! ありがとう筋肉!!


 0964:名無しのバーバリアン

 で、何人分用意してくれるんだ?


 0965:筋肉のバーバリアン

 あ。ごめん、そこ聞き忘れたわ。


 0966:名無しのバーバリアン

 おいwwwwww 一番大事なところwwwwww


 0967:筋肉のバーバリアン

 でも今回手に入ったボス素材で、店の期間限定メニューとして出す予定らしいぞ。


 0968:名無しのバーバリアン

 店???


 0969:筋肉のバーバリアン

 黄金の鍋っていうお店。


 0970:名無しのバーバリアン

 マジか! トレード出品じゃなくて店に行けば食えるのか!!


 0971:名無しのバーバリアン

 あの秒殺トレード出品の争奪戦に負けても、店ならワンチャン味わえるってことか……!


 0982:名無しのバーバリアン

 よし決まりだ! 次の休みのインは開店前からの黄金の鍋出待ちスタンプラリーに決定!!

飛ぶ斬撃、刀気……!どんな料理の技術に使えるんでしょうか!?


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