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第21話 氷の筋肉

「あつーい……」

「ダメだ、息するだけで肺が焼き切れそう……」


 過酷な火山地帯に設営されたキャンプ地。足元の黒い岩肌からはジリジリと熱気が立ち上り、鍛冶師ギルドの面々は早くもぐったりと地面に倒れ込んでいた。


 そんな彼らの惨状を見渡し、ドラセナさんが俺の方を向いて満足げに頷く。


「よし、料理人君。始めようか」

「はい!」


 俺は行軍中に皆で運んできたカチカチの凍結シュガースライムを取り出し、調理器具の包丁とボウルを構えた。強靭なスライムの氷塊を、刃先でテンポよく削り出していく。


 シャクッ、シャクッ、シャクッ……。


 透明感のある氷の麺に、爽やかなシロップを回しかければ完成だ。


「皆さん、どうぞ! これ、食べると耐熱効果のバフがつきますよ!」

「マジか! くれ! 早くくれ!」


 完成したスライムシャーベットを次々と配っていく。受け取ったプレイヤーたちが一粒残さず器を空けると、歓声が上がった。


「くーっ! 頭がキーンと冷える! 一気に生き返ったぞ!」

「熱気ダメージが完全に消えた! すげぇ、マジで身体が軽い!」


 生き返ったように元気を取り戻す仲間たちを見て、俺がほっと息をついていると、あのマッチョ三人組の一人がズイッと前に進み出てきた。


「なあ料理人君、こいつ一塊、俺に削らせてくれないか?」

「え? いいですよ! 包丁、使いますか?」

「いや、これがあるんでな」


 男が懐から取り出したのは、なんとも本格的な彫刻刀のセットだった。

 彼はシュガースライムの氷塊を前にすると、突如として鋭い目つきに変わり、超高速で刃を走らせ始めた。


 ガガガガッ! シャシャシャッ!


 氷片が美しく舞い散る。ただのシャーベット作りだったはずが一瞬で職人の工房へと変貌した。数分もしないうちに、彼の目の前には見事な作品が組み上がっていた。


 古代ギリシャのダビデ像を思わせる、完璧な黄金比で造形された筋肉ムキムキの氷の彫刻だ。


「わ、わぁ……! 凄いですね、これ!」

「フッ、まだまだだよ。……よし、記念写真を撮ろうよ料理人君!」

「えっ、記念写真ですか!?」


 言われるがままに、俺は巨大な氷の筋肉像を両手で掲げるポジションに就かされた。すると、マッチョ三人組が俺の周りを固め、各々が最も誇らしい肉体美を魅せるポーズをキメる。


(……筋肉のパーツごとにグラデーションがついてて、なんだか霜降り肉みたいだな……上腕二頭筋のあたりの脂のノリが凄そう……)



「よし、撮るぞ~! ハイ、マッスル!」


 特撮ヒーローの格好をしたプレイヤーがカメラ機能を起動し、バシャバシャバシャッ!と猛烈な連写音を響かせる。


(何枚撮るんだよ……!)


「撮れたぞ~、マッチョたち!」

「おっ、ありがとう! どれどれ……うーん、このテカリがたまらないな」

「素晴らしい一枚をありがとう!」


 俺は満面の笑みを浮かべたつもりだったが画面を見せてもらうと、完璧な肉体美の男たちに囲まれて引きつった苦笑いになっていた。


「よーし、記念撮影も終わったし、食べるか!」

「俺、上腕二頭筋もらうわ」

「じゃあ俺は大胸筋!」

「余った大殿筋は俺がいただくぜ!」


 彼は彫刻刀で自慢の作品を豪快に切り分け、バクバクと口に放り込み始めた。


「えっ、た、食べちゃうんですか!?」

「そりゃあ、食べるために削ったからな!」

「あんなに綺麗に作ったのに、もったいないなあって……」

「なんだ? 料理人君もマッスル像が欲しくなったかい?」

「い、いいえ! そういうわけじゃ……!」


 あたふたする俺を見て、彫刻を削ったマッチョが豪快に笑いながら、メニューウィンドウを操作した。


「そうだ、料理人君にもさっきのスクショ共有するね!」


 ピコン、とフレンド申請が届く。確認するとプレイヤーネームはそのままマッチョだった。捻りが無さすぎる。


「これ、SNSにも投稿していいかい?」

「あ、はい、構いませんよ」

「うーん、ナイスバルク! 料理人君も、レイドが終わったら本格的に筋トレ始めないかい?」

「あ、はあ……また機会があれば!」


 肩に置かれた分厚い手のひらの重みに、俺は思わず肩の力を抜いていた。


「ふふ、楽しそうだねぇ」


 ドラセナがスカッシュの缶を傾けながら、微笑ましく俺たちのやり取りを見ていた。しかし次の瞬間、彼女の視線がすっと遠くの山頂へと向けられる。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!


 地響きだ。昼間の比ではない重低音が足元から響き渡り、火口から夜空に向けて、真っ赤な溶岩の柱が豪快に吹き上がった。

 暗闇の奥、赤く染まる煙の中に、見上げるほど巨大な岩石の頭部と、丸太のような腕のシルエットがはっきりと浮かび上がる。


岩の巨人(ロックオブタイタン)』。


 ドラセナさんが缶を置き、ゆっくりと立ち上がった。


「……始まったね」


「全員、補給はバッチリだな? 一気に叩くよ!」

「「「オウッ!!!」」」


【フラミス】サービス11日目 雑談スレ Part5


 0912:筋肉のバーバリアン

 俺たちのナイスバルクを見てくれ!

 [画像]


 0913:名無しのバーバリアン

 wwwwwwwwwwww


 0914:名無しのバーバリアン

 黄金の鍋にいないと思ったら、新人君そんなところに遠征に行ってたのかよwww


 0915:名無しのバーバリアン

 今日店行ったらガランのおっちゃんが坊主がいねぇから仕込みが倍大変だってボヤいてたわwww


 0916:名無しのバーバリアン

 それにしても料理人君、めちゃくちゃ困惑してて草。


 0917:筋肉のバーバリアン

 そうかぁ? めちゃくちゃノリノリに見えるけどな!


 0918:名無しのバーバリアン

 だとしたら笑顔が下手すぎるだろwww 目が引きつってんだよwww


 0919:名無しのバーバリアン

 まあゴリゴリのマッチョ三人に囲まれたら、そりゃ誰でもこうなるわ。圧が強すぎる。


 0920:名無しのバーバリアン

 てか、この真ん中の氷の筋肉像、普通に出来が良すぎてビビるんだけど。彫刻スキルのレベルどんだけ高いんだよ。


 0921:名無しのバーバリアン

 この彫刻、普通に欲しいわ。どこで売ってる?


 0922:筋肉のバーバリアン

 >>0921 さっき美味しく食ったぞ。


 0923:名無しのバーバリアン

 食うなwwwwwwwwwwww


 0924:名無しのバーバリアン

 SNSでもこの画像流れてきてワロタ。


 0925:名無しのバーバリアン

 みんな楽しそうで羨ましいわ。レイド組、怪我なく勝って帰ってこいよー!

マッチョさんのお名前はネフロレピス・マッチョというシダ植物から取りました!

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