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第18話 リューローハン

 翌朝、ログインすると同時にシステムメールの受信を知らせるアイコンが点滅していた。


【カスタマーサポートからのご返信】

「この度は貴重なご意見をいただき、誠にありがとうございます。お寄せいただいた内容を確認し、関係各所および担当部署へ共有のうえ、今後の仕様検討の参考とさせていただきます」


「お、返信が来てる!」


 まだサービス開始から間もないのに、なんて迅速な対応なんだろう。

(みんなの署名が、ちゃんと運営に届いたんだな……!)


 軽い足取りで、俺はいつも通り黄金の鍋へと出勤した。


「やっほー、料理人君! 昨日のトレード改善の署名、俺もちゃんと送っておいたからな!」

「あ、ありがとうございます! システム、早く改善されるといいですね!」


 カウンター席から声をかけてくれる常連プレイヤーたち。その気安い呼びかけに、俺は思わず頬を緩めた。

 店が満席の活気に包まれる中、突然、入り口付近の空気がガラリと変わった。


「うおっ!? ドラゴンスミスだ!」

「マジか、黄金の鍋に出没するって噂、ガチだったんだな……」


 プレイヤーたちのどよめきを背に受けながら、ドラセナがカウンター席へドカリと腰掛けた。


「やあ料理人君、久しぶり。……ねえ、この前のドラゴン肉、まだ倉庫に余ってるよね?」

「はい! バッチリ冷凍保存してあります。今日はどう調理しましょうか!?」

「今からチャットに現実のレシピ送るから、ちょっと見てみてよ」


 ピコン、と着信音が鳴る。開いてみると、そこには【魯肉飯ルーローハン】という文字が躍っていた。じっくり煮込んだ細切れの豚肉を、タレごと白米にぶっかける台湾の代表的な屋台料理。


「これの豚肉をさ、ドラゴン肉に置き換えたら絶対美味いと思うんだよね。お願いできる?」

「ドラゴン肉の魯肉飯……! めちゃくちゃ面白そうです、やってみます!」


 俺はさっそく倉庫から大ぶりのドラゴン肉を引っ張り出し、自然解凍を始めた。

 レシピを確認すると、現実の魯肉飯に必須である八角や五香粉といった特有の香辛料が、店の棚には見当たらない。俺は手持ちの調味料や街のスパイス屋で見つけたゲームオリジナル香辛料を鑑定し、代用品を選定した。


 甘く強烈な個性を放つ星型の乾燥ハーブ【星香草スターハーブ】。

 アスターオニオンの葉、スライムの皮を粉末にしたもの。

 これに醤油、酒、砂糖、水、おろしにんにくと生姜があれば、舞台は整う。


「よし、やるぞ」


 解凍されたドラゴン肉を包丁で丁寧に一センチ角のサイコロ状へと切り分けていく。

 ここで俺は一万フラグを叩いて購入したばかりの中華鍋を取り出し、厨房の五徳へと据えた。


「おい坊主、そいつはマイ鍋か?」


 ガランさんが横から興味深そうに覗き込んでくる。


「はい! せっかく買ったので、どうしても使ってみたくて!」


 カンカンと強火で熱した中華鍋に純白のごま油を注ぎ入れる。そこへ刻んだにんにくと生姜を投入した瞬間、ジュワアアッ!と弾けるような音が鳴り、食欲を暴力的にそそる香味の熱風が立ち上った。


 すかさず、カットしたドラゴン肉をすべて投入する。


 ――ジィィィィ、ジャァァァァァッ!!!


 底の深い鉄鍋の中でドラゴンの肉塊が踊るように激しく爆ぜた。熱せられた上質な脂が焦げる香ばしさとドラゴン特有の野生味溢れる濃厚な獣臭が、にんにくの香りと混ざり合って一気に膨れ上がる。

 中華鍋の片手持ちの柄を握り、グッと手前に引くようにして鍋を振る。驚くほど軽快に肉たちが宙を舞い、均一に熱が通っていく。表面にこんがりと、息を呑むほど美しい黄金色の焼き色がついていく。


 あまりの猛烈な匂いのテロに店内のプレイヤーたちが一斉に席を立ち、厨房の前に群がってきた。


「おいおい……このとんでもねぇ匂い、まさかドラゴン肉か!?」

「察しがいいねぇ、お前ら」


 ドラセナがカウンターでニヤニヤと笑っている。


「マジかよ、本当にドラゴン討伐した奴がいたのか!」

「勘弁してくれ、美味そうな匂いだけで気絶しそうだ……!」


 肉の表面が締まったところで醤油、酒、砂糖、水を注ぎ込み、そこへ星香草スターハーブを投入。一煮立ちさせてから、弱火へと落とす。


 ここから二十分間、至福の煮込み時間。

 醤油ベースの甘辛いタレと星香草のオリエンタルでエキゾチックな甘い香りが、ドラゴンの肉繊維の奥深くまでゆっくりと染み込んでいく。途中で殻を剥いたゆで卵を放り込み、一緒に煮汁を吸わせていく。


 煮汁がトロンと煮詰まり、肉の脂が極上の飴色の輝きを放ち始めたところで、仕上げにアスターオニオンの葉、スライムの皮の粉末をハラリと振りかける。複雑に絡み合うスパイスの香りが最高潮に達した。


 大きな器にほかほかの白米を盛り、その上からタレごと肉を豪快にぶっかける。味が染み込んで茶色く染まったゆで卵を半分に割って添えれば、完成だ。


「お待たせしました! ドラゴン肉の魯肉飯です!」


 まずはドラセナの前に差し出す。彼女は待ちきれないとばかりにスプーンを突き立て、肉とタレが絡んだご飯を口いっぱいに頬張った。


 咀嚼するドラセナの動きがピタリと止まる。

 二口、三口と、猛烈な勢いでスプーンを動かし、最後にはふぅ、と満足げなため息をついてニヤリと笑った。


「……やっぱり、私の目に狂いはなかった。ドラゴン肉の持つ強烈な旨味と脂の甘みが、この濃いスパイスの効いた煮汁と合わさることで、お互いを限界まで引き立て合ってる。美味すぎる!」


 ドラセナさんの後ろでは集まったプレイヤーたちが指をくわえ、喉を鳴らして飯テロの拷問に耐えていた。

 それを見たドラセナはガハハと豪快に笑って立ち上がった。


「よし! 料理人君、今日はうちのおごりや! ここにいる全員の分もその肉で同じやつを作ってやってくれ!」


 おおおおおおおおっ!!!と、店内が揺れるほどの歓声が湧き起こる。

「りょ、了解です!」


 そこからは怒涛の戦場だった。俺は新調した中華鍋を文字通りフル回転させ、大量の魯肉飯を次々と仕上げていった。あれほど大量にあったはずのドラゴン肉のストックは、ものの三十分で綺麗さっぱり、すっからかんに消え失せた。


「ふぅ、食った食った。また素材を狩りに行かないとね。料理人君もそのうち連れてってあげるよ。……はい、これ今日のお駄賃!」


 満足げなドラセナさんからずっしりと重い革袋を手渡される。

 見送った後、中身を確認した俺はその場で硬直した。


「ご、ごじゅうまんフラグ……!?」


 あまりに規格外の金額だ。いくら高級食材とはいえ、ただ調理しただけでこれほど貰っていいのだろうか。額の基準が分からず、俺は青ざめた顔でガランに相談した。


「ガランさん、これ、さすがに多すぎます。調味料もお店のものをたくさん使ってしまいましたし、全額は受け取れません……」

「馬鹿言え、そいつは全額お前の腕に対する報酬だ、坊主のもんでいい。……それよりもさ」


 ガランはまだ匂いの残る中華鍋を見つめ、不敵に笑った。


「さっきの料理、味付けのバランスが完璧だった。これ、うちのオーク肉でも十分に再現できるんじゃねぇか?」

「あ……! 確かに、オークの脂の甘みなら、あのスパイスに絶対負けません!」

「よし、そうと決まれば営業終了後に居残りだ。早速試作するぞ!」

「はい!」


 営業終了後、俺たちはさっそくオーク肉を使った魯肉飯の試作に取り掛かった。

 オーク肉を細切れにし、同じプロセスでじっくりと煮込む。


 完成したものを口に運ぶ。


 ――サクッ、ジュワッ。


 ドラゴン肉のような圧倒的な野性味の暴力こそないが、その分、オーク肉の脂は驚くほど素直にタレの甘みを吸い上げ、口の中でトロンととろけた。スパイスのグラデーションが白米の甘みをこれ以上ないほど際立たせる。


「……美味い。これなら一般のプレイヤーにも大ウケします!」


 俺は手応えを感じ、このオーク肉の魯肉飯を10個、プレイヤートレードへ出品してみることにした。価格は、誰もが気軽に買えるようにと、1個あたり600フラグに設定する。


 出品を終え、確認のためにトレード画面を開いてみたが――画面の仕様は、アイテム名と金額だけが表示される、以前の不便な状態のままだった。


(まあ、運営からの返信もさっき届いたばかりだし、そう簡単には変わらないか……)


 俺は静かにウィンドウを閉じた。


【料理人ギルド修復費用まで】


 589,970/50,000,000フラグ


 前日比:+501,000


(内訳:ドラゴン肉の魯肉飯 +500,000 / (昨日の)バイト代 +500/ (今日の)バイト代 +500)


 達成率:1.2%


【フラミス】サービス9日目 雑談スレ Part4


 0812:名無しのバーバリアン

 今日、黄金の鍋でマジのドラゴン肉の飯が振る舞われたってマジ!?


 0813:名無しのバーバリアン

 ガチだぞ。例のドラゴンスミスが突然店に現れて、

「今日はうちのおごりやーー!!」

 って叫んで、その場にいた全員分にドラゴン肉のどんぶり奢ってたwww


 0814:名無しのバーバリアン

 太っ腹すぎて草。ドラゴンスミス姉さん一生ついていきますわ。


 0815:名無しのバーバリアン

 は??? 俺もちょうどその時間ログインしてたのに……マジで行きたかったわ糞が。


 0816:名無しのバーバリアン

 その場にいた勝ち組だけど、あの魯肉飯、マジで人生で一番美味い食い物だった。異国風のスパイスの香りと、噛んだ瞬間に爆ぜる肉汁の旨味が脳に直接ダイレクトアタックしてきて涙出たわ。


 0817:名無しのバーバリアン

 おいお前ら、今プレイヤートレード見たら、オーク肉の魯肉飯が出品されてるぞ!!


 0818:名無しのバーバリアン

 ドラゴン肉じゃないんかい。


 0819:名無しのバーバリアン

 え、またあの名前だけパクった粗悪品の料理詐欺だったりしないか? 大丈夫?


 0820:名無しのバーバリアン

 いや、価格が600フラグだからめちゃくちゃ良心的だぞ。詐欺ならもっとふっかけるだろ。人柱になってとりあえず1個買ってみるわ。


 0821:名無しのバーバリアン

 >0820 レポよろしく。


 0822:名無しのバーバリアン

 うっっっっっっま!!!!!!!!(絶命)


 0823:名無しのバーバリアン

 おい生きて帰ってこいwww


 0824:名無しのバーバリアン

 マジで美味いぞこれ!! さすがにドラゴン肉のレベチな旨味には負けるけど、オーク肉の脂身がタレでトロットロに煮込まれてて、ご飯が無限に進む。これ、確実に料理人くんのもんだわ。


 0825:名無しのバーバリアン

 マジかよ俺も買った!!!


 0826:名無しのバーバリアン

 俺も!!!


 0827:名無しのバーバリアン

 うっわ、もう見に行ったら売り切れてるんだけど……10個しかなかったのかよ。また出遅れたわ。


 0828:名無しのバーバリアン

 これマジで美味すぎるから、正式メニューに追加してくれんかな。毎日通うわ。

カスタマーサポートからの返信、明らかに定型文ですが、初めて使ってみるとみてもらえたんだ!ってうれしくなっちゃいませんか?自分だけかな……

日間4位ありがとうございます!

トップページ乗ってるのがうれしくてめっちゃスクショしました(笑)

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