第16話 スライムシャーベット
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「なあなあ、上級職って何選ぶ? 俺、重戦士か盾戦士か本気で迷ってるんだけど」
「え、俺は魔法使いだから剣士の職とか分かんないんだけど……」
「それもそうだな。お前は決まってる?」
「うーん、今の所は上位魔術師を目指してるけど、魔法剣士も悪くないと思ってんだよね」
「え、俺と職被るやんw」
「いや、このゲームさぁ、MPが結構カツカツなせいで、結局物理で殴った方が効率いいかなって。この前も杖で前線張って殴り合ってる魔法職見たし……」
「意外と脳筋なんだな、お前……」
朝の瑞々しい光が差し込む町中。黄金の鍋へと向かう道すがら、すれ違うプレイヤーたちが熱っぽく議論を交わしていた。
(上級職、か。このゲームにもそんなシステムがあるんだな。……料理人にも、何かそういう上位のジョブがあるんだろうか)
歩きながらふと考える。戦闘職のような派手な進化ではないにしろ、もしあるなら少しだけ興味がある。
「まあ、いいや。今は目の前のことに集中しよう。今日はどんな料理に挑戦しようかな」
すぐに思考を切り替え、胸を高鳴らせながら店の扉を開けた。
黄金の鍋は、今日も朝からプレイヤーたちの凄まじい熱気に包まれていた。
「オーク肉の厚切りグリル!」「こっちもリバークラブの唐揚げ頼む!」「ロックボアの野菜スープ、追加で!」
飛び交う注文の嵐。俺はガランと息を合わせ、飛ぶように売れていく料理を次々と仕上げていった。調理場に響く脂の爆音、押し寄せる色彩と匂いの洪水。いつも通りの営業を駆け抜けた。
「おう、今日も助かったぜ、坊主」
営業終了後、ガランからいつもの給金五百フラグを受け取る。
懐に収まった革袋の重みを感じながら、俺はふと思った。
(十万フラグという大金も手に入ったんだ。いつまでもガランの調理器具に頼ってばかりじゃいけない。最低限、自分で自由に使える道具を揃えよう)
そう決意し、俺は街の道具屋へと足を運んだ。
棚に並ぶ無数の鍋やフライパンを眺めていると、武器・防具のコーナーとの境目に一際奇妙な存在感を放つ鉄の器具を見つけた。
【中華鍋(攻)】
底が深く持ち手が一つ。鍋を振りやすく、炒飯や野菜炒めといった高火力の炒め料理に最適。
分類:調理器具 / 打撃武器
【中華鍋(防)】
底が浅めで両側に頑丈な持ち手がある。安定感があるため、大量の揚げ物や煮込み料理に向いている。
分類:調理器具 / 盾
「……打撃武器に、盾?」
説明文を二度見した。価格はそれぞれ一万フラグ。決して安くはない買い物だ。
「これ、両方ください」
先行投資だと思えば悪くない。さらに、残り少なくなっていた岩塩や黒胡椒、小麦粉に片栗粉、そして揚げ物用の油などの調味料一式も買い足した。
締めて二万四千フラグ。ずっしりとした金属の重みを両手に感じる。
店を出て、試しに盾として使えるという中華鍋(防)を構えてみたが笑ってしまうほど重く、まともに扱える気がしなかった。
(これを使って最前線で戦ってる人が、この世界のどこかにいるんだろうか……)
そんな妙な想像を巡らせながら、俺は今日のもう一つの目的である、新しい食材の採取へと向かった。
今日の目標はシュガースライム。いつもお腹を空かせて待っているロメリアさんの良い息抜きになるような甘いデザートを作ってみたいと思ったのだ。
草原の少し開けた場所に差しかかると、お目当ての魔物がいた。すかさず【鑑定】を試みる。
【シュガースライム】
食用分類:スライム
内部の核に濃厚な天然果汁を蓄える特殊なスライム。核の色(オレンジ、リンゴ、ブドウ等)に応じて味が変化する。
推奨調理:ジュース、ゼリー、シャーベット
周囲を見渡すと、他のプレイヤーたちがスライムの動きを鈍らせ、太いストローのようなものを核に直接突き刺して「うまい!うまい!」とジュース代わりに飲んでいた。
シュガースライム自体の動きは非常に緩慢で捕まえるのは簡単だった。通常なら核を攻撃して倒すのだろうがそれでは大切な果汁が周囲に漏れてしまう。
(そうだ、ドラセナさんから貰った指輪があるじゃないか)
俺は白銀の指輪を嵌めた手を突き出し、息を吸い込んだ。
「――【凍結魔法】」
パキパキパキッ!と涼やかな音が響き、スライムの半透明な体が瞬く間に極低温の霜に覆われ、カチカチの氷の塊へと変わった。これなら果汁を完璧に閉じ込めたまま持ち帰れる。
俺はいろんな色の核を持ったスライムを数匹回収し、ロメリアの待つ半壊したギルドハウスへと戻った。
「あー! ぺんさん、おかえりなさーい!」
崩れた瓦礫の隙間から、ロメリアが元気に手を振って出迎えてくれた。
「ただいま、ロメリアさん。今日はお土産がありますよ」
「わぁっ! シュガースライムだ! すごーい、凍ってカッチカチだね!」
「はい。これを使って、冷たいシャーベットを作ろうと思います。少し待っててくださいね」
ギルドの厨房設備は未だ壊れたままだ。俺は道具屋で買ったばかりの中華鍋(防)を地面の平らな場所に置き、大きなボウル代わりにすることにした。
さっそく包丁を握る。
まずは凍りついたスライムの身を、中心にある美しい色の核を傷つけないよう、絶妙な刃先捌きで慎重に切り離していく。残った純白の凍った身に包丁を斜めに当て、スローモーションのように薄く、細く削ぎ落としていく。
シャッ、シャッ、シャッ……。
包丁が氷の繊維を断ち切る心地よい音が響く。中華鍋の中へ、まるで新雪のようにふわふわとした極細の氷の麺が積み上がっていった。冷気を孕んだその氷は、見るだけで喉が鳴るほどの瑞々しさに満ちている。
綺麗に器へと盛り付け、俺はロメリアを振り返った。
「ロメリアさん、味付けは何がいいですか?」
「オレンジーー!」
嬉しそうな即答に笑みがこぼれる。「はーい」と応じ、俺は取り出しておいたオレンジ色の核を、シャーベットの頂点でプチッと割り開いた。
とろ~り……。
割れた核の隙間から、限界まで濃縮された鮮やかな黄金色の天然果汁が溢れ出し、真っ白な氷の山へとゆっくり染み込んでいく。色のグラデーションがとにかく美しい。
俺は自分用に、深い紫色の核を選んで同じように果汁を回しかけた。
「完成です! めしあがれ!」
「いただきまーす!」
スプーンですくい、一気に口へと運ぶ。
――シャクッ。
唇に触れた瞬間の圧倒的な冷たさ。前歯で氷の結晶が優しく砕けると同時に、ブツブツと弾けるような果汁の濃厚な甘みと、鼻へ抜ける芳醇なブドウの香りが舌の上で完璧に対比を成した。
噛み締めるたびに溢れる冷気が喉を焼くように通り抜けていき、最高の満足感が脳へと直接届けられる。
「つめたーーい! でも、すっごく甘くて美味しい!!」
「これ絶対人気出るよ!ぺんさん!」
ロメリアもスプーンを止めることなく、頬を抑えて幸せそうに声を弾ませている。
その瞬間、俺の視界にシステムウィンドウがポップした。
【スライムシャーベット】
品質:★★★★☆
効果:【熱耐性UP(30分)】
「……頭がキーンとするな」
こめかみを押さえながら苦笑したが、この料理には熱耐性のバフがつくらしい。
ひやりとした余韻が舌の上にまだ残っている。冷たさの奥に、確かな火照りを鎮めるような感触があった。
「デザートも、悪くないな……」
【料理人ギルド修復費用まで】
88,970/50,000,000フラグ
前日比:-23,500
(内訳:お買い物 -24,000 / バイト代 +500)
達成率:0.2%
【フラミス】サービス7日目 雑談スレ Part6
0612:名無しのバーバリアン
なあなあ、剣士の上位職って結局どれが一番強いん? ソロ重視で考えてるんだけど。
0613:名無しのバーバリアン
圧倒的に武士。
0614:名無しのバーバリアン
えっ、武士なんて隠しジョブあるの!? めちゃくちゃかっこいいな!
0615:名無しのバーバリアン
軽戦士からの派生ジョブだぞ。ただ、装備制限がきつくて防御性能がマジで紙だから、扱いが難しすぎるって評判だけどな。
0616:名無しのバーバリアン
まあ、このゲームってジョブチェンジいつでもやり直せる仕様だし、とりあえず選んでみたら?
0617:名無しのバーバリアン
いやいや、やり直しできるっつってもチェンジするたびにNPCに払う金がめっちゃ掛かるじゃん……。
0618:名無しのバーバリアン
それはそう。だからみんな慎重になって間違えたくないなーって悩んでるんだよな。
0619:名無しのバーバリアン
とりあえず、情報が出揃うまでは下級職のまま保留でいいんじゃね?
0620:名無しのバーバリアン
まあそれが一番無難だわな。焦って金ドブにするのだけは勘弁だし。
0621:名無しのバーバリアン
そういや、生産職にも上位職ってあんのかな? 料理人とかさ。
0622:名無しのバーバリアン
そもそもこのゲームで料理人やってる奴をほぼ見たことないから誰も分からんwww
0623:名無しのバーバリアン
もしあるならちょっと気になるわ。隠し満漢全席マスターとかあんのかな。
0624:名無しバーバリアン
おれ、鍛冶師の上位職なら知ってるぞドラゴンスミスっていうのがあるらしい。
0625:名無しバーバリアン
それプレイヤーの名前であって職業じゃないんだよなあ。
0626:名無しバーバリアン
まじかよだまされた!
剣士から派生した魔法剣士と魔法使いから派生したものは同じものです!
感覚として魔法使い+剣士みたいなものです。
個別の性能は、魔法では魔術師>魔法剣士、物理性能は重戦士等>魔法剣士
みたいな下位互換ですが幅広い戦術を使って柔軟な戦闘を行うことができます。
料理人+剣士みたいな職も実はあります。
次話21時10分間に合いそうです!




