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第12話 凍結魔法の指輪を貰いました

 完成した二品をお盆に乗せ、俺は再び奥の個室へと向かった。

 静かに木扉を押し開けると、銀髪の女は机に突っ伏してすやすやと規則正しい寝息を立てていた。


(……すっかり熟睡してるな)


 無理に叩き起こすのも悪いと思い、俺は音を立てないよう注意しながら、完成した料理を机の上に並べ、彼女が目を覚ますのを待つことにした。


 だが、その気遣いは不要だったらしい。

 料理が机に乗った瞬間、彼女の鼻がピクピクとあからさまにひくついた。途端にガバッと勢いよく起き上がると、虚ろな目のまま、迷うことなく『ドラゴンジャーキー』へと手を伸ばしたのだ。


 パキッ、モグ、モグ……。


 一切の躊躇もなく、一口、また一口とジャーキーをかじり始める。


(……保存用って言ってったし、味見だよな……)


 心の中で突っ込むが彼女の手が止まる気配は一切ない。


「んむ……っ! これ、めっちゃうまい……!」

「それは良かったです。お口に合って安心しました」

「料理人君も味見してみなよ。ほら」


 咀嚼音を響かせながら、無造作に一切れをこちらへ差し出してきた。

「あ、ありがとうございます。いただきます」


 手渡されたジャーキーを口に運ぶ。


 ――パキッ、と小気味よい音が響き、前歯を心地よく押し返すような強靭な弾力が伝わった。

 噛み締めたその瞬間、凝縮されていたドラゴンの旨味が熱い肉汁の奔流となって舌の上にブツブツと溢れ出してくる。醤油とにんにくのパンチの効いたコク、そして隠し味に入れた酒が引き出した芳醇な風味が鼻へ抜ける香ばしい燻製香と完璧に調和していた。

 後味を引き締める黒胡椒の鮮烈な辛みが脳に直接美味いを叩き込んでくる。


(なんだこれ……噛めば噛むほど、無限に旨味が溢れてくる……!)


 感動に震えている俺の横で、彼女はもの凄い勢いで残りのジャーキーを口に放り込み、あっという間に器を空にしてしまった。


(えぇ……保存用じゃなかったの……?)


「ぷはぁ、最高。で、これ、名前は?」

「あ、ええと……『ドラゴンジャーキー』と名付けることにしました」

「いいネーミングだ。じゃ、こっちは?」


 彼女の視線がもう一つの皿――ローストドラゴンへと向けられる。


「こちらはローストドラゴンになります。少しずつ切り分けて、冷凍保存していただくと保存期間が延びるかと――」

「いっただっきまーす」


 俺の説明が終わるより早く、彼女はナイフとフォークを手に取り、美しく輝く薄桃色の肉塊へ突き立てていた。


 パクッ、ジュワァァ……。


 あろうことか、こちらも一切ためらうことなく次々と平らげていく。


「んんんー! こっちもたまらん! 柔らかっ! 肉汁やばっ!」

「あ、じゃあ俺も一切れ……」


 俺も一切れ分を口へと運んだ。


 ――唇に触れた瞬間のしっとりとした瑞々しさに驚く。

 歯を立てると、あの強靭だった竜肉が嘘のようにトロンとホロホロに解けていった。溢れ出る肉汁はまるで濃厚なスープのようで、シンプルな岩塩と粗挽き胡椒のギャップが赤身の圧倒的な甘みと旨味をこれ以上ないほど際立たせている。喉を焼くような濃厚な満足感が、飲み込んだ後もずっと余韻として残っていた。


 気づけば、彼女はローストドラゴンをも全て平らげていた。

 一日で食べきれる量では到底なかったはずなのだが彼女の胃袋はどうなっているのだろうか。


「ふぅー、食った食った! ……でおかわりはない?」

「はい、今日作った分はこれだけです……。それと、こちらは余った分のドラゴン肉になります」


 俺が残りの大きな肉塊を差し出すと、満足げに腹をさすりながら手を振った。


「それ、君にあげるよ」

「えっ、ですが、こんな貴重な素材……」

「いいのいいの。またうちがこの店に来たときに、何か美味いもん作ってよ。……あ、そうだ。これ渡しておくね」


 彼女はポケットから白銀に輝く小さな指輪を取り出し、机の上にコトンと置いた。


「これは……?」

「【凍結魔法フリーズ】を付与エンチャントした指輪だよ」

「フリーズ?」

「そのお肉、普通の冷蔵庫に保存しても魔力特性のせいで腐っちゃうからね。……使い方はわかる?」

「わかりません……」

「見てて。【凍結魔法フリーズ】」


 彼女が肉に向かって手をかざすと、指輪が一瞬青白く発光した。次の瞬間、パキパキパキッと音を立てて肉の表面に真っ白な霜が降り、一瞬でカチコチに凍りついていく。


「君もやってみなよ」


 俺は指輪を嵌め、ドラゴンの肉へ手を向けた。呪文を唱えればいいのだろうか。

「――【凍結魔法フリーズ】」


 すでに凍っている肉なので見た目の変化はなかったが指先からツンと冷たい霜のような魔力が放出される確かな手応えがあった。


「よし、大丈夫そうだね! じゃ、連絡用にっと」


 ピコン、と小気味よい電子音と共に、視界に半透明のウィンドウが出現した。


『プレイヤー:ドラセナからフレンド申請が届きました』


「これは……?」

「フレンド申請よ。もしかして、今まで使ったことなかった?」

「はい……料理ばかりしてたので」

「じゃあ、うちが君の初めての友達だ」


 ドラセナはニカッと白い歯を見せて笑うと、拳をぐっとこちらへ突き出してきた。

 現実の俺なら、こんな破天荒な人相手に気後れしていたかもしれない。けれど――。


 俺は迷わず承認ボタンを押し、突き出された彼女の拳に向けて自分の拳を軽く打ち返した。


「はい。これからよろしくお願いします、ドラセナさん」


 ゴツン、と小さな感触が響く。

 フレンドリストの欄にたった一つだけ増えた名前を俺はしばらく眺めていた。


【フラミス】サービス4日目 雑談スレ Part13


 0211:名有りのバーバリアン

 さっき料理人ギルドの前通ったけど、受付ちゃんがめちゃくちゃ暇そうに外で椅子に座ってたわ。あと建物は半壊したままで草。


 0212:名無しのバーバリアン

 やっぱりあの修復費用払えてないんじゃない?


 0213:名無しのバーバリアン

 さすがにあの過疎っぷりだと、五千万フラグなんてどうあがいても無理だろ。


 0214:名無しのバーバリアン

 このまま料理人ギルド消失するんじゃね? 職業自体がロックされたりしてな。


 0215:名有りのバーバリアン

 え、それはさすがにかわいそうすぎるだろ! 俺も復興のために全財産寄付して加勢するわ!


 0216:名無しのバーバリアン

 おお、男気あるな! お前いくら金持ってんの?


 0217:名有りのバーバリアン

 10,000フラグ。


 0218:名無しのバーバリアン

 運営の補填金額まんまじゃねーかwwwwww


 0219:名無しのバーバリアン

 お前今まで何やってたんwww 金稼げよwww


 0220:名有りのバーバリアン

 街でずっと人間観察してた。


 0221:名無しのバーバリアン

 自由すぎるだろwww

 つーか、お前みたいなやつが5000人集まらないと修復できない計算なんだが?


 0222:名有りのバーバリアン

 くー、世知辛い世界だぜ……。

ドラゴンジャーキー、私も食べてみたいですね。

どんな噛み応えがするんでしょうか、気になります。

でも私はお徳用パックビーフジャーキーで我慢します。

塩味が効いていておいしい!

追記:日間11位ありがとうございます!うれしすぎて舞いました。

今日も21時、間に合いそうです!

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