選定の儀
中屋敷から帰った後、オレを見た父上の喜びようには驚いた。
「ま、間違い無い・・・・・これは覚醒の証だ!ついに!オレの息子が・・・・・」
涙を流さんばかりの様子だったが、やや引いているオレを見て赤面して
「まあその・・・・・選定の儀ではっきりしよう」
と取り繕っていた。やはり座主という立場なら喜ばしいのかな?
ジェイド兄上の襲撃の翌日、選定の儀に出席する為にマークス領より馬車で2日の距離にある王都マルーザに向かった。
騎乗での移動ならばこの半分の時間で進めるだろうが、儀式に出るため貴族らしい正装をしているための馬車だ。
正直お尻が痛すぎる。
まあおかげで父上やラザンと今後のことなど綿密に話ができた。
結論から言えば殿下は調子に乗りすぎだと、お前の思うとおりにやれと言われた。父上も娘のように可愛がっているフェリ様や、亡くなられたハーディア様のことで腹に据えかねているし、あの殿下が国を治めるというのは考えものだということだった。
出発してから2日、ようやく車窓から城の尖塔が見え始めた。
結局午前の早い時間に到着したが、城に入れたのはそこからさらに2時間程待たされた。
マークス家はベルレイト王国では下級貴族扱いなので仕方が無い。
この世界の貴族の序列は公爵、侯爵、伯爵、ここまでが上位貴族。
子爵、男爵、騎士爵が下位貴族だ。
細かく言えば準が付いたり名誉が付いたりで少し変わるのだが割愛しよう。
まあ今回はギリギリで会場に入るつもりでいた。
何でかって?
それは殿下や近習達に早くから絡まれないようにするためだ。
オレ達は開始10分前に入場した。
会場は城の中庭である。
中央には選定の儀の参加者100名ほど、その後方に保護者や貴族達が居並ぶ。
同学年になる参加者で知り合いの者は近習達以外はほとんどいない。
基本貴族は自分たちで家庭教師を雇い入れ教育させる。
16歳になって高等貴族学園に3年程入学し、そこで教育の他に人脈を形成するのだ。
だからか皆初めての同学年の学友達にソワソワと周りを見渡し品定めに夢中だ。
今日は男も女も、いや紳士淑女というべきか美々しく着飾っているしね。
オレもフェリ様という存在が無ければソワソワしたと思う。
「リョーマ様」
いきなり後ろから声をかけられた、女性の声だ。
振り向くと、やや暗めな亜麻色の髪を見事な編み込みで結い上げている美しい女性が立っていた。
「これはレティーネス嬢」
彼女はレティーネス・デューケル・ハートレイン。ベルレイト王国4大公爵家ハートレイン公爵令嬢で殿下の婚約者でもある。
その関係でオレとも顔見知りだ。
「ご機嫌用リョーマ様」
見事なドレープが重なる深紅のドレスの裾を摘み綺麗なカーテシーで微笑んだ。
装い、立ち居振る舞いが本当に美しい。
その上この方は決して公爵令嬢という立場を振りかざしたりせず、謙虚で殿下や近習達が
オレに何かときつくあたるのをたしなめてくれたりもする。
「レティーネス嬢こそ深紅のドレスが本当に良くお似合いです」
オレは貴族が女性に対する礼をしながら微笑み返した。
「まあリョーマ様ありがとうございます。リョーマ様こそ
・・・・・お変わりになられましたね?」
そう言うと小首を傾げた。
「そうですか?」
「ええ。その髪の色に右目の瞳がとても綺麗。前は両目共黒色だったのでは?」
「そうかもしれません」
「フフフ。それにいつもより自信を感じます。近習をその・・・お辞めになったと聞いて心配していましたがこれが本来のあなたのお姿なのかもしれませんね。その・・・素敵でいらしてよ」
少し頬を染めた彼女はそういうと、ドレスと同じ色の羽根扇子で顔を隠した。
時々扇子のレース越しチラチラとこちらを見ている。
「いやその・・・」
何だか照れくさい。
すると「レティーネス様」と声を掛けながら3人の女性が近づいてきた。
「ご機嫌用。まあこちらの素敵な殿方はどちらさまですか?
是非私達にもご紹介くださいまし」
美しく着飾った女性達がレティーネス嬢の周りに集まった。
「まあメイヤったら先程は同学年には素敵な方はいらっしゃらないと嘆いていたばかりなのに」
一緒に来た女性の1人がからかうように言った。
「知りません、そのようなこと」
ツンと横を向いた緑色のドレスを着た彼女は扇子で口元を覆いながら、オレに流し目をよこした。
「フフフ、そうですね。ご紹介します、こちらは・・・」
その時レティーネス嬢の言葉を野太い声が遮った。
「おいリョーマ!」
殿下とゴリアスが薄ら笑いを浮かべながら近づいてきた。
レティーネス嬢が一瞬だけ顔を顰める。
前から思っていたのだが彼女は殿下のことを好きでは無いのだと思う。
やはり政略的な婚約なのだろう。
「貴様、何故ここに来た」
ゴリアスが声を荒げ睨みつけてきた。
厳つい容姿と威嚇するような声に3人の女性達が少しおびえるのが見てとれる。
オレは彼女らを庇うように前に出た。
「おやご存じ無いのですか?15歳になる貴族には今日の式に参加義務があるのですよ」
オレは少しとぼけた風の口調で応えた。
「ふざけるな!オレが言いたいのはどの面下げてここに来たかということだ!」
激高して叫んでいる。
「どの面と言いましても?貴殿にとやかく言われることでは無いと思いますが?」
やれやれという顔をして言った。
「貴様!」
ますます激高して胸ぐらを掴みにきたが、それをヒョイと躱し、周りから分からないように少し身体をぶつける。
するとものの見事に顔から転倒した。
大声に注目をしていた周りから失笑が漏れる。
顔を真っ赤にしてゴリアスが立ち上がった。
「許さぬぞ!」
ゴリアスが剣の柄に手を伸ばした。
「やめよゴリアス」
意外にも止めたのは殿下だった。
「リョーマ近習を馘にしたとたんに大した態度だな。貴様の居場所など来年からの学舎にも私が継ぐこの王国にも無いと思うぞ」
殿下は腕を組み、尊大に言った。
「そうですか、それは残念ですね」
全然残念そうじゃなくオレは応えてから言った。
「殿下のほうこそ、よく式典に出る気になりましたね?あなたが舐めて挑んだ討伐にあのような犠牲を出していながら」
オレは冷厳と言った。
「き、貴様!・・・・・」
殿下が口をパクパクしている。
当然かもしれない、今までこのような反抗的な態度などとったことは無かったからだ。
今までのオレなら遠慮をして平身低頭すると思ったのであろう。
「貴様!調子に乗るなよ」
オレは冷たい眼差しでそういう殿下を見つめた。
「静粛に静粛に、これから選定の儀を始めます。前の席にお集まり下さい。
皆さま静粛に願います」
その時、典礼係のよく通る声が会場に響き渡った。
なかなか良いタイミングだ。
殿下が舌打ちをする。
「覚えていろ!」
そういうと睨みつけるゴリアスを連れて会場の先の方へ身を翻した。
それを静かに見送ってから
「大丈夫ですか?私の諍いに巻き込んでしまい、怖い思いさせてしまいましたね」
オレは彼女達に軽く頭を下げ微笑んだ。
「討伐の犠牲って何ですか?」
レティーネス嬢が聞いてくる。
そうか彼女もまだ知らないのか。
たぶん緘口令が出されている?
「いえ・・・・・その怖かったです」
討伐云々のやり取りが気にならなかったらしい緑色のドレスの令嬢が上目遣いで、
オレの右腕に身を寄せてきた。
柔らかい胸の感触にクラッときそうだった。・・・・・やばい良い匂いがする。
それに胸の谷間がやばい。レティーネス嬢もそうだけどドレスからの胸の谷間って破壊力ありすぎでしょう。
いかんオレにはフェリ様という心に決めた女性が・・・・。
「もうメイヤったらご紹介もしていないのにはしたないですわよ」
他のお仲間が割って入って言った。
「これより式典を始めます。前にお集まりください」
典礼係の声が再度会場に響いた。
「レティーネス嬢、皆様。残念ですがご紹介は後程ということで」
「そうですわね。式が始まりますし後程にいたしましょう」
レティーネス嬢達に会釈をして離れた。
緑色のドレスの彼女、メイヤ嬢だったかな。両手を組んで潤んだ瞳でこちらを見つめていた。
うーー積極的な方だ。
いかんいかん。オレには今日しなきゃいけないことがあるんだ。
オレも席のある前の方へ進んだ。
その時、保護者の観覧席の前の方に座る父上の面白がる顔がチラと見えた。
あの人楽しんでいるな、こちらを見てニヤニヤしている。
オレは微苦笑を浮かべた。
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