襲撃
夜になった。あれから迎撃の打ち合わせをし、家人への手配りをした。
何せこの中屋敷を知るジェイク兄上だ、家の中も当然把握している。
というわけで、我々は食堂に簡易なバリケードを作り待機している。
0時を回った頃だろうか動きがあった。
「火事だ!」という声が上がった。
すぐに家人の男から門に火がかけられたと知らせがくる。
「リョーマ、大丈夫でしょうか・・・・・」
フェリ様が不安そうに身を寄せてきた。
オレはあらかじめ決めてある通りに指示を出し、
「大丈夫ですよ」
努めて明るい声で応えた。
「陽動は正門付近であるというラザンのいう通りでしたね」
兄上は奥の貴賓室を狙うため、予測が立てやすいとのことだ。
「ラザン様は大丈夫でしょうけど、アヤメが心配です」
「フェリ様、アヤメは強いから大丈夫! だって爺やの一番弟子だもん」
ラナー姉様が何故か自慢気だ。
奥の貴賓室には爺とアヤメが待ち構えている。
万が一こちらに直接の襲撃があれば、笛を吹けば駆けつけることになっている。
正門の方の火の手はそれほど大きくなく、間もなく消火できると知らせがきた。
その時だ、微かだが屋敷奥の方で、何かを壊す音が聞こえた。
「来たようです」
オレはそう言うと皆を見回した。
緊張している様子が見える。
フェリ様の手をマリアが握って、オレに頷くのが見えた。
オ
レも微笑んで頷き返す。マリアは大丈夫だ。
ラナー姉様はオレと肩にそっと触れて微笑んだ。
オレも頷き返す。
少しの喧噪と物が壊れる音、男の悲鳴が断続的に聞こえた。
やがて単音で2回、笛の音がした。
「2回。敵が逃走したようです。こちらに来るかもしれません」
やがて鎧を着て走っているガチャガチャとした金属音と足音が近付いてきている。
それと共に各部屋の扉を開けているような音もした。
探しているようだ。
さらに近付いてくる、食堂の扉が開かれた。
「ここにいたか!」
ジェイク兄上だった。
顎から血を流していて腫れていた。
こちらを見回し、フェリ様を視界にとらえたのだろう、ニヤリと笑った。
「フェリネシア王女殿下お迎えに参りました。王命です。城に戻りましょう」
威厳がある風に言った。
「王命?」
フェリ様が小首を傾げて言う。
「そうです、皆が待っています」
「王命というのは違いますね。陛下が意識を失って1年。もし国からの命令というなら宰相なりの文書があるでしょう?それをお見せなさい」
厳然とフェリ様が言った。
「そのような物はございません。ですが王太子殿下からの命令です」
「ならば従う理由はございません。私は勇星教団の供物になどなりません」
「姫殿下お待ちください。私は・・・」
「兄上もうおやめください」
オレは遮った。
すると憤怒の形相で怒鳴ってきた。
「黙れリョーマ!成人にもなっていない貴様が口を挟むな!」
「いいえ、黙りません。フェリネシア殿下は自らのご意志でマークスの家を頼りました。我らはそれを庇護する義務があります」
「そうよ、フェリ様は渡さない!どうせ自分の出世のために利用したいだけでしょう。ジェイク兄はいつも自分のことばっかり。帰んなさいよ!」
ラナー姉様が叫びだした。
「ジェイク、あんたなんかに姉さまは渡さない!」
マリアも叫ぶ。
「ええい黙れ黙れ!こうなれば無理にでも連れて行く! 邪魔だてするならば切り捨てる!」
兄上は剣を抜いた。
「始めからこうすれば良かったのだ。ラザン達が来る前に連れ出さねば、アイツにはとても勝てんがお前らなら・・・・・」
「姉上、私が・・・・・」
今にも魔術を唱えようとしたラナー姉様を抑え、バリゲードから前に出てた。
「はん!いつも殿下や近習達に打ち負かされている貴様が勝てるつもりか?
姫殿下達の前で赤っ恥をかかせてやる」
そう言うと兄上は中段に構えたまま突っ込んできた。
オレは刀を下段に構え、そろりと動いた。
踏み込みは早い、だが・・・・・
「もらった!」
最速での振り下ろしを躱し、剣を握る籠手に覆われていない小指の先を半ばまで切った。
「ぎゃあ!」
悲鳴が漏れる。オレは刀を裏に返し首筋に返した刃を落とした。
ガンという音と共に兄上が崩れ落ちた。
思い返す。
上段からの斬撃、速いはずなのにはっきりと軌道が見えた。
見切ったというのでは無く見えたのだ。
身体が何の遅滞なく意識せずに動く。
躱し切った時に脳内に声が聞こえた。
『見切りLV.03と踏み込みLV.03が統合され月瞬 LV.01になりました』と。
スキルの統合?月瞬LV.01?
これが銀色に変わった眼のおかげなのか?
「リョーマ凄い・・・・・」
「リョーマ君強いんだね!」
フェリ様やラナー姉様達の感嘆の声がオレの意識を元に戻させた。
食堂の入口辺りから拍手が聞こえた。
「若、見切りと踏み込み、無駄の無い斬撃見事でした」
爺がにこやかに言った。
隠れさせていた家人やメイド達も入ってきた。
「侵入してきた兵士10名を拘束いたしました」
アヤメが報告を上げた。
「うむ。ジェイク殿も拘束せよ」
爺が家人達に命じ縛り上げていった。
「フェリ様お身体は大丈夫ですか?」
「ええ大丈夫です、リョーマありがとう守っていただきましたね」
ニッコリと微笑んだフェリ様に
「はい・・・いえ・・・・・」
とだけ応え、オレは照れてしまいそうになるのを誤魔化すように爺に話しかけた。
「爺、この後どのような始末にしたら良いかな?父上のところに引っ立てるべきか?」
「いえ、家に抱え込む方がこの後面倒になります。領外に放逐しましょう。この者たちが姫様を連れ帰るための敵側の馬車もすでにこちらで確保しています、それに乗せて兵に護送させます」
爺が髭をしごきながら言った。
後に聞いたらきっと馬車を用意していると思い、捜索させるよう手配させていたらしい。
家人達が縛られた兄上や兵達を屋外に引っ立てていった。
「フェリ様、オレは戻ります。明日、選定の儀に出席するために王都に父上とラザンと参りますので、その間の屋敷の護衛の兵を手厚くするように父上と相談してきます」
「わかりました。お願いします。座主様にもよろしくお伝えください」
オレはラナー姉様とアヤメに後を託し、中屋敷を辞去した。
結局、屋敷の警護に父上の弟、つまりオレの叔父の妻である聖月山偃月兵団団長のメルーサ叔母上が200の兵を率いて警護、もちろんラナー姉様とアヤメもそのままお守りしている。
また2か所の領境の入口には100のところを500に増やしての兵の配置となった。
メルーサ叔母上は北方出身で、その昔世界中を荒らしまわった海賊衆ヴァイキングの末裔で女性ながら2メートルに迫る巨漢である。
並みの男など片手でひねり潰す戦士だ。
過去何度も聖月山の奥にある聖域に、無理やり押し入ろうとした勇者共をことごとく排除している剛の者だ。
これで安心して出発できる。




