呪いの跡
「リョーマ君たら見ないうちに本当にカッコ良いことを言うようになったね」
ラナー姉様が抱きついてきた。
オレは顔が熱くなり急に恥ずかしくなった。
「ラナー姉様からかわないで下さい。今思えば恥ずかしいこと
をいっぱい言いましたね。ですが言わなきゃ、フェリ様に伝えな
きゃと思い必死でした」
「本当に若様、その・・・素敵でした。アヤメは感動しました!」
「ありがとうリョーマ、姉さまを励ましてくれて。良かった少し元気になってくれたみたい」
マリアが嬉しそうな声で言った。
「マリア、お前も大丈夫か?」
少し間が空いてから。
「うん・・・・・。姉さまに比べたら・・・ね」
そうだよな、大好きな母を奪われ姉上に、その呪いがなど受け止めきれないよな。
部屋に沈黙が降りてしばらくたった時だ。
部屋の扉が開く音がした。
「皆さまフェリネシア様が参ります」
コレットが告げる。
衣擦れの音がした。
「お待たせしました。リョーマ、目隠しを取ってください」
フェリ様が言った。
「よろしいのですか?・・・・その・・・」
「構いません。リョーマにも皆にも隠すことはやめました」
落ち着いた声音だった。
オレは目隠しを外した。
視線は足元を見るようにした。
フェリ様は立っていた。
ゆったりとした白いトーガーのような服装で首から足先まで身を包み、左側には長い手袋を付けていた。
顔を見るのを躊躇っていたが、オレは意を決して視線を上げる。
美しいピンク色の髪はゆるくウエーブがかかり首下まで伸びている。
右側は変わらず優し気で澄んだ瞳、高い鼻梁が美しかった。
だが左側には白くのっぺりとした半面の仮面を付けていた。
「リョーマ、皆も座ってください」
言われるがままコレット以外各々腰を下ろす。
コレットはフェリ様の後ろに控えた。
この恰好なら見る限り、呪いの跡などは見付けられなかった。
「皆には心配をかけましたね」
フェリ様が淡く微笑んだ。
「いえ・・・・・その・・・・」
言い淀む。聞きたいが聞いて良いかどうか憚られる。
「皆が聞きたいのは呪いのことと今の状態ですよね?お話します」
そう言うと手袋を外し、ゆっくりとした動作で仮面を外した。
皆が息を飲む。オレもだ。
フェリ様が目をつぶり節目がちに開けると静かに語りだした。
「先ほどわかったとおり、呪いは私の身体に定着し一応沈静化している状態です」
手袋を外した手は火傷の跡のように赤黒く爛れている。
そして顔は左眼の下から頬にかけ首の下へと同じように爛れていた。
オレ達は何も言えず、静かに見つめていた。
フェリ様は淡々と仮面を付け直し、手袋をはめた。
「この呪いは体力や魔力を蝕み徐々に身体を弱らせ、様々な状態異常を引き起こします。魔力の弱い者などは症状が一気に進み衰弱死するでしょう。
ただお母様のおかげで大分呪いが薄まっており、私も見習いとはいえ神聖魔術が使えます。それで常にこの身に魔力を流し中和をして症状が進むのを抑えています」
皆じっと聞き入っている。
「城から逃げ、この屋敷に保護された直後はかなり衰弱していました。馬車で逃げる時に身近にいるコレットや兵士達に呪いが移らないか心配でした。到着後すぐに座主様が司祭長をお呼び下さり診ていただきましたが、聖月山にいる者では解呪ができないとおっしゃられました」
皆が悔し気に俯く。オレも唇を噛んだ。
「今は状態を安定させるように、回復魔術をかけてもらい魔力の回復を多くするアミュレットや呪いの効果を弱める宝珠など様々なアイテムをお貸しいただいて身に着けているおかげで安定しています。
それでも鏡で自分の姿を見るたび生きる気力が湧かず、死ぬことばかり考えていました」
「フェリ様!」
「姉さま!」
オレとマリアは同時に叫んでいた。
「呪いを受けてからというもの、今までと自分のいる世界が逆になっていきました。それまで笑顔で話しかけてくれた城の貴族や侍女達が手のひらを返したように、まるで化け物を見るかのような顔でヒソヒソ話し後ろ指を指して言うのです呪い姫と。
助けたはずの兄上や近習達もが露骨に顔を引きつらせているのですよ。
散々私の関心を引こうと必死立った者達ほど酷いものでした」
フェリ様は眼を閉じゆっくりと開いた。
「でも大丈夫ですよ、もう死のうなどとは思いません」
そしてニッコリ微笑んだ。
「だってリョーマが治す方法を探してくれるのでしょう?マリアが守ってくれるのでしょう?」
「もちろんです!」
「守る!守るよ姉さま!」
またフェリ様は微笑むとラナー姉様やアヤメ、コレットを見回した。
3人とも泣いていた。
「他の皆にも迷惑を掛けます。助けてくださいね」
3人とも泣きながら返事をしフェリ様に抱きついていた。マリアもだ。
「良かった・・・・・」
オレは思わず呟いていた。
「フェリ様・・・・・その」
オレは躊躇いながらしっかりと顔を上げ告げた。
「フェリ様はやっぱり気高く綺麗です」
フェリ様の瞳が大きく見開かれ口元を両手で覆った。
「そのように励まさなくても大丈夫で・・・」
「本心です!」
オレは食い気味に言った。
「本心です。フェリ様の皆を助けようとした心、負けない
気高さ、その優し気な瞳がその・・・・・オレは」
驚きながらもフェリ様がじっと見つめている。
「綺麗で・・・・・大好きです」
「リョーマは・・・・・もう・・・ズルイです。お化粧を直したのに・・・・・」
フェリ様は微笑みながら涙を流していた。
「姉さま良かったですね」
同じように涙を流すマリアが言った。
「ああもう!最愛の弟の愛の告白を聞かされる姉の身にもなってよ」
部屋が笑いに包まれた。
笑いながらもこんな目に合わせたセイドリア・レアル・アークレインを許せないと思った。
そんな中、ノックと共に爺の声がした。
コレットの目線にフェリ様が頷いて返すと扉に向かった。
爺が失礼しますと言い入ってくる。
フェリ様に一礼するとオレを見て目を大きく見開いている。
「若・・・その目と髪の色?・・・まさか覚醒・・・・・」
「うん、実は・・・・・・」
オレは先程のことを話した。
黙って聞いていた爺が顎髭をしごきながら。
「ふむ・・・・・。断言はできませんが、おそらく・・・・・。
何にしても選定の儀ではっきりしましょう。
それと若、探らせていた手の者からジェイド様が不穏な動きを
していると知らせが入りました」
場に緊張が走る。
「爺それは・・・・・・」
「はい、ジェイド様は冒険者ギルドで緊急依頼を出しました。内容は要人の奪還で即日の依頼とのこと。たぶん夜にでもここを襲撃するつもりですじゃ」
「本当か・・・・・みんなでフェリ様を守るよ」
オレは声を上げみんなを見渡した。
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