賢者の分析
オレはその場で礼をし、膝を付いているアルヴィス様に手を差し出す。
「すまない・・・・・」
助け起こすとそう言われた。
「なるほどな・・・・・」
ソレスタリア様が顎を撫でている。
「リョーマ、お前の『銀眼』はアルヴィーの剣筋をどこまで見えていた?
何か月詠の導師のスキルは使っていたのか?」
「はい・・・・えっと・・・・・」
オレが言い淀むとアルヴィス様が「気を遣わずに話してくれ」と言われたので
「全て見えていましたが、特に『月瞬』などのスキルは使っておりません」
少しだけアルヴィス様が眉を寄せたが「そうか・・・・・」とだけつぶやき
「見えていたか・・・・・ん!『月瞬』だと?お前の『月瞬』はどんなスキルだ?」
少し考えて
「えーと、『瞬身』、『見切り』、『踏み込み』などで『銀眼』で見たものを遅滞無く、肉体操作に反映する能力だと思います」
「・・・なるほどな・・・そういうことか・・・」
ソレスタリア様がつぶやいて、しきりに考えをめぐらしている。やがて
「リョーマお前の育った中央小国群の辺りは刀ではなく剣技が盛んな土地だと思ったが、その刀術誰に習った?流儀は、師は誰だ?」
受け取りにきたリシェルナ様に木刀を渡しながら答えた。
「爺・・・いえ、ラザン・フジナガ師匠です」
「「なに!」」
ソレスタリア様とアルヴィス様が同時に声を上げた。
「『鬼神斬りのラザン』殿に師事されたのか!」
アルヴィス様が驚嘆した。
「なるほどな!ラザンの弟子か・・・・・それでいつから奴に師事したのだ」
「5歳からです。爺はマークス家の剣術指南役でしたから」
「なるほどな、刀術の英才教育だな!」
ソレスタリア様は感嘆している。
それにしてもラザンと呼び捨てにされた?知っているのか?
「ソレスタリア様はラザン師匠とお知り合いなのですか?」
「ん?あーーよく知っているぞ。あいつとは戦友だ。何だ知らぬのか?
あいつは10年以上、まあ今から30年前位になるが、ここシルドニア獣神国
で暮らしていたぞ」
「そうなんですか!存じませんでした。それは『黒華傭兵団』ですか?」
「そうだこの国で立ち上げた。今の女王の後押しもあってな」
「では現女王とも面識があるのですね?」
突然笑いだした。そして
「面識も何も、女王とはイイ仲だったぞ!」
そう言うとニンマリと笑った。「それに・・・」と続けられた言葉は衝撃だった。
「ラグネシア陛下の子供の一人はラザンの子供、娘だ」
これにはオレ以外の面々も衝撃を受けていた。
「まぁもっとも妊娠が発覚した時には別れていたし、すでに出国の後だったから
本人は知らぬがな」
驚いた、爺に子供がいたなんて。しかも本人も知らないとは・・・。
「まぁラザン様に知らせなくてよろしいのですか?」
フェリ様は憂い顔だ。
「殿下、獣神国では非常に女性が優位のお国柄です。他国と違いこうしたことは珍しくなく、子供は親ではなく、地域の皆で育てるのです。
ましては女王の子しかもそれが英雄『鬼神斬りラザン』の子、とても大切にそして優秀な教師陣に育てられています」
「そうなんですか・・・。賢者様はお会いになったことは?」
「ある。非常に聡明かつ高名な剣士に育っている。本人はいつかラザンと手合わせして親子の対面をすると楽しみにしていたぞ」
これにも驚いたが、捨てられたとか思っていないのであれば結構な話だ。
「今、女王は外遊で他国に行っているが、ラザンの弟子が来ていると知れば、
お前にも王宮に呼び出しが来るであろう。そのつもりでいてくれ」
「わかりました」
「まぁ何にしてもお前の強さの原因はよく分かったし、月詠の導師の銀眼が
その者の資質に影響されるということも分かった」
「それは?」
「うむ、先代の月詠の導師・・・・・レオニス様は魔術師であったので、全ての魔術の流れを覚醒直後から視認、分析できたという。そして『月瞬』で誰よりも早く詠唱し、最適な補助魔導で味方を援護し、敵を弱体化し『魔導増幅』で味方の攻撃を何十倍にもし敵を殲滅していた。まさに最強の支援魔導士だった。
かたやリョーマは幼い頃から刀術を学んだおかげで、近接戦における『銀眼』の見切りの力を発揮して『月瞬』でそれを最適に体現できるということになる」
そう言うとオレに指を付きつけた。
「つまりだお前は近接戦で勇者をもしのぎ最強になれるということだ!」
「・・・最強・・・・・」
オレは呆然とした。
そんなことがありえるのか?
確かに今のところ戦えてはいるが・・・・・。
「だがな、それは個人においてだ。1対1ならば最強かもしれん、だが数の暴力には
勝てない。相手は魔王軍、軍だ。個人戦の試合ではない。
リョーマ、魔術を学べ。支援職として味方を支援し、聖月山でテンタクルススライムにやったという『魔導増幅』で味方の魔導で敵を削りつつ、ここぞというところでその刀を振るい首魁の敵を斬れ。これが今代の月詠の導師の目指す戦法だと思うぞ」
言葉が出なかった。ただ一回の試合を見ただけで、これほど明確に月詠の導師としての進むべき姿がはっきりと示されるとは思ってもみなかった。
「賢者ソレスタリア様。オレはあなたに教えを乞いたく思います。願わくば弟子の
末席にお加え願いたいです。
ですが・・・その前にオレにはどうしてもやらなければならないことがあります」
「分かっているつもりだが、あえて聞こう。それは?」
「フェリネシア様の呪いを解くことです。診察の結果はどうだったのですか?」
フェリ様が憂い顔でオレを見て、賢者様を見た。
オレはそっと近付き手を握る。
マリアもフェリ様に後ろから抱きついた。
「そうだな・・・・・。まずお前達の診たてとおり、呪いは完全に定着している。
つまりこれ以上の悪化はしないが、どれほど高名な解呪師でも呪いを解くことは
できない」
フェリ様が身体を強張らせたのが分かった。
オレも身体が冷たくなる。
マリアは泣きそうな顔をしている。きっと皆も同じだろう。
しかしソレスタリア様は
「だが、呪いを解く方法が無いわけではない」
と告げた。




