フェリネシア第三王女
麓の本邸から中屋敷までは山道を歩いて1時間の距離だ。
走りながら昔のことを思い返していた。
オレとはフェリ様とその妹・第四王女マリアンヌは幼馴染である。
二人の母ハーディア様は、美貌と聖月山の高位司祭としての実力を見込まれ、第三王妃として王家に嫁いだが、出自は男爵家と高くはなかった。
それゆえ王宮ではその身分差ゆえに第一王妃との関係が悪く、厳しい扱いを受けていた。ようはいじめだ。この第一王妃は殿下の母親、母子ともやっていることは一緒である。
そのためハーディア様は、子ども達には身分に縛られず自由に育ってほしいと陛下に願い出て、フェリ様とマリアンヌは聖月山で暮らすことが許された。
やがてマリアンヌの出産後、ハーディア様自身も聖月山での生活を許され、必要な時を除いて王宮には上がらなくなった。
陛下にはその頃、気に入りの若い侍女ができ、その娘に夢中だったらしい。倒れる前の話しだが。
そんな訳で聖月山で暮らしていたフェリ様姉妹とオレ達兄弟とは昔から仲良しでよく遊んだ。
ちなみにオレとフェリ様は3つ違い、これはラナー姉様と同じ年齢。マリアはオレの1つ年下だ。
それにアヤメがお目付け役として一緒に遊んでくれた。そんな幼馴染で特別な人なのに・・・・・。
それにしても殿下達はなぜそんなに勇者に憧れるのか理解できない。
オレは昔から勇者が大嫌いだった。自分が育った環境が聖月山だったこともあり、勇者と称するやつらの横暴さをよく目にしていた。
酒を飲み暴れ、山で穏やかに暮らす人を困らせたり。聖域に入れろと騒いだり、俺は勇者だ奥の院の秘宝を出せと迫ったり。中にはまともな人もいたが、大半はろくでもない奴らばかりだった。
その度に叔母上や聖月山の兵達が自称勇者を山から叩き出していた。
そんなことを考えていると20分で走り着いていた。
ラザンも涼しい顔で隣にいる。
「若、先に入っていてくだされ」
「わかった」
多分ラザンのことだ、何か探らせているのかもしれない。
屋敷に入るとすぐにアヤメが現れた。
「若様もう大丈夫ですか?」
心配そうな顔で尋ねてくる。
「もう平気だよアヤメ。それよりフェリ様の容態はどう?」
するとアヤメは眉根を寄せた。
「起き上がられていますし、お話もできます。ただ・・・・・」
「会えそうかな?」
ますます眉根を寄せて唸っている。
「伺ってみないとわかりませんが・・・・。若様、
フェリ様の状況はお聞きになられていますか?」
「うん、聞いている」
「フェリ様と若様の間柄、常ならば喜んでお会いになるでしょうが。
今はご自身のその・・・・・変化にやはりショックを受けて
いらして・・・・・」
そうだろうと思う。察するに余りある。だけど・・・・・。
「わかっているつもりだよ。オレが来たことを伝えてくれないか?
無理にとは言わない、でも話せるなら扉越しでも構わないのでと
伝えて欲しい」
「わかりました。お決めになるまで時間がかかるかもしれません。
手前の客間でお待ちください」
オレは頷くと客間に向かう。屋敷のメイドがお茶を入れてくれ何か
話しかけているが上の空で返事をしていた。
20分位たったであろうか、お会いになるということをアヤメが伝えにきた。
無言でアヤメに続き一番奥にある貴人の滞留用の部屋に向かう。
すると扉の前にマリアンヌが泣きそうな顔で壁に寄りかかっていた。
こいつは第四王女だがオレにとっては妹のようなケンカ友達のよ
うな付き合いだ。
「マリア・・・・・」
声をかけると気付いていなかったようで、驚いた顔でこちらを見た。
「リョーマ・・・・・。帰ってきたんだ。」
そう言い涙を流しながら抱きついてきた。
「姉さまが・・・・・呪い姫だって・・・・何でこんな目に
・・・・母様も死んじゃって戻って来ない・・・・」
そんなことをしゃくり上げながら切れ切れに声を殺して伝え
てきた。黙って抱きしめ髪を優しく撫でた。
「つらいなマリア・・・・・」
オレはそれしか言えなかった。
やがて少し落ち着いたのか、自ら身体を離した。
「ごめんねリョーマ・・・・姉さま会うみたい・・・・ただ・・・・」
「わかっているつもりだよ。扉越しでも目を瞑ってでも良いんだ・・・・・」
「うん・・・・・」
そういうと扉を開けてくれた。
扉の前にはラナー姉さまが立っていた。
「リョーマ君、フェリ様お会いになるって」
「無理の無い形で良いからね」
オレがそう告げるとラナー姉さまは力無く微笑んでから歩き出した。
奥の扉の前で姉さまが声を掛けると「どうぞ」というフェリ様の声がした。
その声を聴くとドクンと心臓が跳ねた。




