上皇のコイン
入るように言われアヤメと扉をくぐると中にはお偉いさん達が揃っていた。
そう言って頭を下げた。
「いやイイ、そこに座ってくれ」
父上に指さされた席に座る。アヤメは後ろに控えた。
ざっと見渡す。
座主である父上、爺、北条殿、秋山殿、副座主である司祭長ハロルド・マークス叔父上、副司祭長ロレッタ様、偃月兵団副団長ジグルド様、氷瀑竜騎兵副団長リアリス様、樹叡騎士団副団長レイグラーク様、あとウェリーナさんなどそれぞれの副官で分かる人が何名かいる程度で知らない人も結構いる。
「リョーマ御苦労であったな。今回の会議に呼んだのは、お前が八聖山・聖導師が
一人月詠の導師に覚醒したからだ。皆に挨拶を頼む」
いきなり振られて驚いた、そうかこれからはそういう立場なんだ。ルーネリアさんが言ったのはこういうことでもあるんだ。
小さく深呼吸をすると立ち上がり口を開いた。
「月詠の導師に覚醒したリョーマ・マークスです。まだ正直分からないことだらけです。皆様にご指導いただきたく存じます」
そう言うと頭を下げた。これで良いのであろうか?
周囲から拍手が起こる。
「おめでとう」とか「よろしくな!」とか「月詠の導師様」とか「可愛い!」
? など好意的な声にホっとする。まあ聖山関係者は皆、身内のような関係だからかな。
「この中の面々は見知った者も多かろう、聖山関係者は後々紹介するとして、
お前にご紹介したい方がいらっしゃる。今回の戦いにも護衛としてこられた兵と共に参戦くだされた」
そう言うと立ち上がり円卓の中程オレの正面辺りの人物に視線を送った。
皆も立ち上がった。
「ガルフォード帝国の先の皇帝、現在は退位され上皇となられた
バルディウス・カイザル・アイゼンベルク陛下であらせられる」
そういうと父上は深く頭を下げた。他の面々も同様に頭を下げている。
オレも慌てて深く頭を下げた。
「ハハハハハ良い、皆そうかしこまらんでくれ。ワシはもう退位した身、上皇などと肩書はついているが今は共に戦場をかけた戦友として接してくれた方が嬉しいぞ」
その人物は60歳を幾つか越えていようか、白髪を短く刈り込んだ頭、額には黒と金の控え目だが見事な装飾の額冠を付け、堂々たる体躯は黒色の鎧を纏っていた。
整えられた髭の顔を柔和だがその眼光は鋭かった。
「皆座ってくれ」
と言ったあとオレのほうを見つめ口を開いた。
「お初にお眼にかかる、今代の月詠の導師殿。バルディウス・カイザル・アイゼンベルクだ」
「リョーマ・マークスでございます。陛下、此度の参戦誠に・・・・・」
「ハハハハハ良い良い、お主も堅苦しいのは抜きじゃ。ワシも見ていたぞ、お主の空中戦をな。見事であった!」
そう言うとまた豪快にお笑いになられた。
堅苦しいのは抜きと言われても、どう接したら良いか悩んでしまう。
困って父上を見ると微苦笑していた。
「今代の月詠の導師は刀を使うか。ラザン、あの手前。そちの薫陶の賜物よのぉ」
「ハっ恐れ入ります・・・・・」
爺がそう応えると豪快にまた笑われた。
オレはどういう顔でいたら良いのであろうか・・・・・。
「月詠の導師は本来、支援職の最高職と聞く。それが見事に刀を遣うか・・・・・実に面白い。
さてリョーマよ、実はなワシの孫娘もな昨年聖導師に覚醒した」
驚いた!ガルフォード帝国にある聖山と言えば・・・・・。
「聖陽山、陽光の導師でございますか?」
「左様。歳もそちと同じ15歳じゃ。同じ聖導師、いずれまみえるであろうよ。
楽しみなことじゃのう」
「はい私も是非お会いしたです」
「ふむ。そのときは頼むぞ。まぁ少し趣味が変わっておるがなぁ・・・・・。
さてモルドよ、余はこれでな。リョーマよ、此度は母の参拝でこの地に参ったが、久しぶりに剣も振れ愉快な物も見れた。いずれ帝都にも来るであろう?また会おうぞ。おい・・・・・」
立ち上がりながらそう言うと従者であろう男に声を掛けた。
「ハっ」と男が小さく応えるとオレの前で膝を折、袱紗に包んだ物を開きながら差し出した。
恐る恐る手に取ると、それは赤色のコインだった。鈍く輝く深紅のコインには帝国の紋章、交差した剣と杖を抱く竜が描かれていた。裏面にはバルディウス陛下の名前と数字が刻まれていた。
「帝国の王城に来たらこれを見せ、余の居所を訪ねるが良い」
「・・・・・ありがたく、頂戴致します」
「うむ。ではな」
そう言うと深紅のマントを翻し扉に向かった。
皆慌てて立ち上がり礼をしている。
オレは呆然と後ろ姿を見送るのだった。
扉が閉まると父上が口を開いた。
「リョーマ、そのコイン何だか分かるか?」
「いえ・・・・・」
「帝国の皇族に優先的に拝謁できる特別なコインだ。普通上皇に拝謁なんて数か月待ちだ。各国の外交官や商人が喉から手が出るほど欲する物だ」
「えーーー!そのような物・・・・・オレが貰ってイイのでしょうか?」
オレは手にしたそれをまじまじと見つめた。
手の上で冷たく輝いている。
「イイさ、上皇様自らよこしたのだからな。ただ言っておくぞ、それはオリハルコンでできている。皇族の拝謁の権利と含めて、測りしれない価値がある。
無くすなよ」
「・・・・・・・・・」
オレは言葉無く手の上のコインを見つめた。心なしか重く感じた。
「さてリョーマ、座ってくれ話をしよう」
オレは席に着いたが、コインをどうしよう。みんなもコインに興味深々という感じだ。
懐の財布にしまったがどこに入れるのが正解だろうか?




