ぶち上げろ!赤い流旗
ちらりと後方を見やると4人倒れていた。簡易結界はまだ何とか維持している。その中にダンとカシルもいる。良かった。
3人の兵が魔術師に連携して短弓を放ちながら戦っている。
男は魔術の放つ間隔が短い。短縮詠唱を使い手のようだ。
小さな竜巻のような物をを発生させた。
「ミル・トルネイド」
3人が何とか躱して距離をとった。
男が鞭を女に渡していた。俺の崑は遥か後方に投げ捨てられている。
武器無しで鞭の相手はツラいな。
「やるじゃないか。聖月山の座主様。
アタシは勇星教団『C級勇者茨鞭のミランダ』」
「わしは『勇星教団C級勇者風乱のモール』」
「ヘェーよく見りゃ渋くてイイ男じゃないか。そんなに急いで行かないでアタシとあの辺の茂みで気持ちイイことしようじゃないか」
「お断りだ。俺はサドっ気の強い女は好みじゃ無いんでね!」
「趣味が合わないねぇ、そいつは残念だね。じゃあくたばんな!」
そう言うと鞭を振るう。
腰の脇差を抜いた。リョーマのみたいに伸びねえかなぁ・・・・・。
大きく飛び退り距離をとる。
「ほらどうした?さっきみたいに突っ込んできなよ!」
鞭の連撃が続く。魔術師の方には兵達が向かう。1人直撃を受けた。
マズいな。
「よそ見とは油断だねぇー」
ちっ、肩に茨が掠る。肉を抉られる。
「ソソるねぇ!イイ男が血を流している。ゾクゾクするねぇ!」
女が目を爛々《らんらん》と輝かせて舌なめずりをしている。だからこういうドS女は苦手なんだよ。
その時だ、女に何か突っ込んだ?
「ウワぁ何だい!」
「ショコラちゃん!」
女が吹っ飛び、ショコラちゃんがこちらに駆けてくる。しかも口に咥えるのは!
「愛しているぜ、ショコラちゃん!」
崑を受け取り、ショコラちゃんに飛び乗る。
本当に愛しているぜ相棒!
どちらに行く?
また1人兵が魔術を喰らって倒れた。
あっちだ。魔術師に殺到する。崑の手元を捻り降り払った。
崑が3つに分かれ魔術師の肩に突き刺さる。
「ギャア!」
悲鳴と共に吹っ飛ぶ。
「大丈夫か?」
先程倒れた兵の元に行く。
倒れ唸っているが息はある。
後ろを見やる。ダンとカシルが負傷者を結界に運んでいるようだ。
「ウィン・ロケルト。風よ穿てウインドアロー!」
魔術師の攻撃、崑で打ち払う。魔術師が後方に下がり女と合流した。
こちらは新兵以外は戦えるのは2人。一般兵に勇者の相手はきつかろう。
俺が踏ん張るしかないか・・・・・。
魔術師が詠唱している長いな。大きい魔術がくるかもしれない。
その時だ、弓弦の音が3回響いたと思った時には全て魔術師の背中に吸い込まれていた。
「ぐはっ・・・・・」
そう呻き、どおと倒れ伏す。背中には深々と矢が突き刺さっていた。
茨鞭のミランダがジグザグに走り山の土手を背に鞭を構える。
またも弓弦の音が2回響いたが鞭で叩き落としていた。
「私に矢など届かないよ!」
「そおかな?」
涼やかな男の声がするとまた弓弦が2回響いた。
鞭の空気を割く音がし、矢が叩き落とされた。1本だけだ。
「効かないって言ってんだろ・・・ギャア!」
1本の矢は曲射で放ったのだろう、ミランダの左腕に深々と突き刺さった。
この1本だけ矢羽根の色が違う。恐らく静音勢に優れた森フクロウの羽根か何かか?
この1本の為に他の矢は音を立てていたのであろう。
ミランダが腰からナイフを抜き、矢羽根の下の方で切断すると気合と共に腕の矢を抜き投げ捨てる。
荒い息を吐きながら矢が飛んできた方を睨み、腰の袋からポーションを取り出し傷口にかけてから飲み干した。
出血が止まり、傷口も目立たなくなった。
「クソが!コソコソ隠れてないで出てきたらどうなんだい!」
ミランダの声が木霊のように響いた。
すると少し上の草むらから美丈夫が現れた。
美しい金髪は背中まで伸び、非常に整った秀麗な顔に長い笹穂のような耳がよく特徴を表していた。
エルフだ。
手には優美でありながら複雑な形状の複合弓が鈍い光沢を放っていた。
「やあモルド!こんなところで会えるなんて」
「おぉレイグラーク散歩か?」
「そおだよ!散歩さ。せっかく気持ちよく歩いていたのに無粋な騒音を撒き散らす馬鹿な獣がいたんでね。思わず撃ってしまったよ」
「そうか。そりゃしょうがないな!馬鹿な獣は駆除しないとなぁ」
「何を白々しい!まだ赤い流旗とやらは出て無いんだ。交戦違反だろうが!」
ミランダが凄い剣幕で叫び出した。
「何を言っているんだい?獣の駆除だよ。そもそも我らの聖山に、招かれても無い
勇星教団の勇者ごときが、交戦違反などと口にすること自体が烏滸がましい」
言うが早いか抜く手も見せずに弓に矢をつがえた。その姿勢に少しのブレは無くミランダを確実に狙っている。レイグラークは優男に見えるが一呼吸で10矢は放つし細剣の腕も相当な『樹叡騎士団』の副団長だ。
「上等だよ!」
ミランダが鞭を構える。
一触即発、だが突然上空から何かが飛来し翼を羽ばたかせ2人の間をすり抜けた。
それは大きく旋回し俺の前でゆっくりと羽ばたき着地した。
水色の竜鱗が輝く美しい飛竜だった。
そしてそれには鎧を纏った美しい女性が乗っていた。
飛竜と似たような水色の髪は長く、山間の風になびいている。
「やあモルド遅かったねぇ。待ちくたびれたわ」
「待たせたか?何せ俺はモテるからな。そこらじゅうで声かけられるんだよ!」
「はいはい。じゃあモテるモルドさん、私とデートしましょう。山頂までね」
そういうとリアリスはウインクした。
「そりゃあイイ!久しぶりにチェムールに乗れるのか!」
俺が飛竜の名を呼ぶと「クギャァ」と小さく吠えた。
ショコラちゃんがチェムールの方に自ら駆けていき2頭はお互いの頭をこすりつけ挨拶をしている。仲良いよなこいつら。
「行かせないよ!」
ミランダが鞭を降り上げたがレイグラークの矢が放たれ大きく飛び退った。
「何だエルフだけじゃ不満か?ワシも相手になってやろうか」
野太い声がして藪の中から巨大なバトルアクスを担いだ男が出てきた。
「今度はドワーフかい。ここは暇人ばかりなのかい!」
ミランダが吐き捨てるように言った。
「なあに今夜は聖導師覚醒の宴だろう?腹を減らさないとな」
そう言うとニヤリと笑った。
この男は何が気に入ったのか聖岳山から来てもう6年も聖月山に滞留している。その名も『猛き右腕のルバルス』。ドワーフの名前は本当に変わっている。まるで二つ名だ。まあ戦斧の腕も鍛冶の腕も一流だし俺のイイ飲み友達だ。
ちなみにリョーマの刀も鎧もルバルスが鍛えた。
「モルドもうすぐ援軍の兵も来る。それまではそこの兵の面倒もワシがみよう。さっさと旗を上げてこい」
「すまんルバルス」
そう言うとチェムールの背に跨った。ちゃんと乗りやすいように首を下げてくれる。置いてあったカラビナをベルトに結びつけると、俺を後ろから抱き締めるように座るリアリスが叫んだ。
「いくよ。チェムールお願い!」
そう言うだけでチェムールが羽ばたき大地を蹴った、フワリと浮き上がるとまた力強く羽ばたいた。風とともに景色が変わる。
「おおーっ、やっぱりイイなこの景色」
「もう何のん気なこと言っているの!他の子結構苦戦しているわよ。早く旗を上げないと」
「わかっている!」
「まぁいざとなったら、みんな介入する気満々だけどね!」
「助かるよ・・・・・本当に」
「みんなハーディア様もフェリちゃんも大好きだもの。ベルレイト王国の王子も勇星教団も許さないわ。って何アレ!」
リアリスの指さす方を見て驚愕した。上空にいるのはペガサスナイト、それに飛び跳ねながら斬り伏せている。
「リョーマか!」
「あれが?すごいわね、あんたの息子!1人で空中戦しているわ!
流石ね、新たに誕生した月詠の導師」
「ああ自慢の息子さ・・・・・」
「フフフ。もうすぐよ!」
見えてきた、山頂に作られている広大な掲揚台には、すでに巨大な赤い流旗はいつでも上げられるように準備はできているようだ。
チェムールがさらに加速し掲揚台の上空をグルリと一周すると広場の真ん中に大きく羽ばたき着陸した。
「ありがとうリアリス、チェムールも!」
「行って!」
俺はガチャガチャとカラビナを外すと飛び降り叫んだ。
「聖月山座主モルド・マークスが命じる赤い流旗を掲揚しろ!角笛を吹け、戦だ!」
「「「おおー!」」」
何人もの屈強な男達が巨大な巻き上げ機に飛びつき銀の流旗が下げられる。
間をおかず赤い流旗がグングン上がっていく。
すぐに上空の強い風をはらみ、曇天の空にたなびいた。
角笛がそこら中で吹かれ鳴り響いた。




