実戦の指揮
それは東の空に現れた。
白い馬体に羽が生えたペガサスを駆る一団だ。
短杖を持つ兵達が呪文の詠唱を始めた。
弓を持つ兵が矢をつがえるのも見える。
「私が魔術障壁を貼ります。
ルーグ・シルド・ディフェス・ウォルト・シェルド・デルムロ。障壁となりて我らを守り給え。マキシム・シェル」
北条殿の詠唱が完成すると半径10m幅30m位の暗褐色の透明なドームが
現れ周りを包み込む。
「凄い・・・。闇の上位障壁」
ラナー姉様が驚嘆の声を上げた。
障壁の外側で何本もの紫電が光り轟音が轟いた。
メイド達が悲鳴を上げる。
だが障壁に弾かれ、被害は無かった。
「皆落ちついて!こちらの北条殿の魔術障壁は私のより強力です。それにリョーマが来てくれました。伝説の聖導師、月詠の導師になったとのこと。きっと私達を守ってくれます!」
フェリ様が皆を励ました。
「雷系の魔術のサンダーアローですな。リョーマ様先程の『銀月』はまた使えますか?」
「はい使えます。でもこの魔術障壁に影響はありませんか?」
「大丈夫です。『銀月』は放出系魔術を吸収する特性です。魔術障壁などには影響がありません。障壁の外、すぐ上に放って下さい」
オレはすぐに『銀月』を発動し障壁のすぐ上に展開した。
敵が何本ものサンダーアローを放つが『銀月』に吸い込まれる。
「リョーマ様敵の数が多いです、できるだけ溜めてから放って下さい」
「わかりました」
オレは右手を上げ、左手で右手首を掴み維持に注力する。
「北条殿は聖導師の魔導についてもお詳しいのですね?」
「師匠に師事した時に教えられたのと、個人的にも興味があり研究をしていますので」
「なるほど」
「北条様、私の弓矢を取り出したいのだが」
秋山殿が声をかけてきた。
「お待ちを」
そう言うと北条殿は左手首のブレスレットに触れ、小声で何かつぶやいた。
するとブレスレットから50cm位の空間に割れ目ができ、そこへ手を突っ込んだ。ゆっくりと引き出す。それは秋山殿の身長を超える長い弓と矢筒だった。
だが見覚えの無い形だ。兵達が使う長弓より更に長く、矢も長い。
「かたじけない」
そう言うと弓をたわませ、手早く弦を貼った。
弓を掴むと弦を2度ほど弾いた。
矢筒を背負うと矢を1本取り出し弦に軽く番えたまま障壁の外に走り出した。
外に出ると股を大きく開き弓を一気に引き絞る。
知っている長弓とは持ち手が異なり中心では無く、やや下を持っている。
構えた姿をよく見ると弓の長さも上部の方が長くなっている。
「はっ」
短い気合と共に矢は放たれた。
ビュっという音ともに放たれた矢はペガサスに乗る騎士を貫いた。
悲鳴と共に落下していく。
そしてまた次矢を番えると引き絞って放つ。
また番えるとまた放った。
放った数だけ落下してくる。
「凄い!」
オレは思わずつぶやいた。
かなりの威力と貫通力だ。
だが5矢放ったところで敵からの矢や魔術が放たれたのを見て障壁の中に退避してきた。
本人は涼しい顔をしている。
秋山殿カッコイイじゃん!
あっ避難していた若いメイドの目がハートになっていない?
よく見ると渋くてカッコイイからね。
秋山殿がまた矢を番え、飛び出す隙を狙っているようだ。
味方の弓矢を持つ兵もそれに続くように構えている。追随するようだ。
敵の矢が降り注ぐが、障壁に阻まれて届かない。
敵の魔術師はサンダーアローの他もっと長い詠唱の強力な魔術も放っているようだが『銀月』に吸い込まれ続けている。
どこまで吸えるのだろうか?
やがて『銀月』が3倍位になった頃だろうか、そろそろ限界だということを感覚で分かった。
「北条殿、そろそろ限界です、放ちます」
「わかりました。なるべく障壁から離し、なおかつ敵の中心でお願いします」
オレは右手を前に突き出したまま、おおよその移動場所を視界で確認する。
紫電をバチバチ放電し明滅する『銀月』をその場所に移動させた。
敵が『銀月』が動いたことに驚いている。
よしこの辺りだ。右手を閉じ開いた。
閃光、轟音が辺りを席巻する。先程の炎弾3つの比ではない、圧倒的なエネルギーの放出で視界が一瞬暗くなり耳がキーンとした。
視界と聴力がすぐに回復する。これも状態異常防御のスキルのおかげだろう。
黒焦げになった敵がペガサスごとボトボト落ちてくる。
見上げると『銀月』が炸裂した辺りの敵は一掃され百位は倒したのであろうか。
残りの敵は少し距離を空け出した。
「凄い」
誰の声だろう呟いた声は敵を倒した賞賛ではなく、明らかに畏怖だった。
そうだろうオレ自身この威力に恐怖すら覚えていた。
だがそれを受け入れなければならないと思う。
戦うということ、守るということは敵を殺すということなのだと。
「リョーマ、指揮を取って下さい」
フェリ様がこちらを見て言った。
指揮って・・・・・オレにできるのか?小さい頃からは父上の大山羊に乗せてもらい、演習には何度も立ち会ったが・・・・・。
皆がこちらを見ている。ラナー姉様は親指を立てているし、アヤメは大きく頷いている。やるしかないのか。
「敵が距離を空けた。この隙に立て直すぞ。ラナー姉様は障壁の外、前方に土魔術で幾つも壁を作って。魔術での攻撃はしてこないはず。矢除けになるように半円型のを幾つも。
秋山殿と弓兵はそこから狙撃。その他は本陣20だけ残して分散してその土壁に潜め。敵が接近してきたら切り伏せろ」
オレは努めて冷静な声でそう告げた。
「その前に支援魔導をかける」
やったことは無い。だけど月詠の導師は支援職最高の導師。敵の数は多い、皆には傷ついてほしくない、その思いを込めて祈るんだ!
両手を握り月の女神アルテミア様に祈った。
「『月光』・・・・・」
するとオレの両手から光が渦巻き、皆の頭上に降り注いだ。
「何だこれは、身体の傷が癒えていく」
「失った魔力が少しづつ回復しているわ!」
魔導を使う時の名称は、自然に出てくることが多い、そうかこれが『月光』!
「皆、聞いてくれ。月の女神の加護だ。傷や体力・魔力を少しずつ回復する効果がある。だが無敵では無い、気をつけてくれ!」
「オオーっ!」
「ありがたいです!」
「了解よリョーマ君!みんなもお願いね、もうすぐ父様が赤い流旗を出すわ。それまでがんばりましょう!」
そう言うと姉様が他の魔術師と土魔術で幾つも半円型の壁を作り出した。気が利いたことに細いスリットのような隙間も作り視界も確保している。
「行くぞ」
秋山殿の声に兵達も応じ飛び出していく。
「北条殿、魔術障壁はまだ大丈夫ですか?」
「ほとんどダメージはありません。大丈夫です」
「維持をお願いします。敵が魔術を打つようならまた『銀月』を出します」
「承知しました」
敵の様子を見る。遠くで旋回を続けている。
「ラナー姉様、障壁のすぐ脇にも4方に壁を作ってください。姉様以外に魔術師は何人いますか?あと治癒魔術師は?
「魔術師3人と治癒魔術師が2人よ」
「『銀月』を出すまで魔術が使えます。様子を見て援護してもらえますか?」
「わかった!みんないい?3マンセルでいきましょう。
私とロナ、クリイ。コナールが指揮をしてロムとポメーが組んで。決して無理をしないで、危なくなったら障壁に退避。いいわね?」
応じる声と共に障壁をそれぞれ作り出した。
「フェリ様はそのまま待機して回復に努めて下さい。この後乱戦になり怪我人が出たら回復をしてもらうことになります」
「はい、リョーマの言う通りにします。立派な一軍の将ですね」
ニッコリと笑ったフェリ様に照れてしまうが、ニヤけるのをかろうじて我慢できた。オレ頑張った!




